第2回 新人あら太君、先輩が残業していると帰りづらい!
ナレッジエックス 中越智哉
2008/6/9
■納期直前、メンバー全員が深夜残業。新人は帰りづらい……
そんな調子で、さらに数日がたちました。納期まで残りわずかとなったこの日は、プロジェクトのメンバー全員が深夜まで残っていました。
もともと作業量の少なかったあら太君だけは、作業が一段落していました。しかし周囲の雰囲気に、帰るに帰れないでいました。ですがメンターであるしんじ君は、目前の作業に追われ、そんなあら太君の様子には気付いていないようでした。
しんじ君 | う〜ん、テストやデバッグが結構たまってきたなあ……。間に合うかなあ。 |
さらに1時間ほどがたち、終電の時間もだんだん近づいてきたころ。ふと隣を見たしんじ君は、あら太君がまだ残っていることに気が付きました。しかもあら太君は、これといって作業をしている様子がありません。
しんじ君 | あれ? あら太君、まだいたの? 担当分の作業は、もう一段落したんだよね。こんな遅い時間までいることないのに。 |
あら太君 | まあ、そうなんですが……。ほかの先輩方が全員作業されているのに、自分だけ先に帰るっていうのも、何というか、申し訳ないといいますか……。私は作業量も少ないですし。 |
しんじ君 | そうだね、気持ちは分からないでもないけど。でももうこんな時間だし……。 |
と、そんな2人のところに、プロジェクトリーダーの鮫島さんが通りかかりました。
■ITエンジニアは、早く帰れるときは、さっさと帰る
鮫島さん | しんじ君、遅くまでお疲れさま。って、あれ、坂上君もいるの? あの部分の作業って、そんなに時間かかった? |
あら太君 | いえ、そんなことはないんですけど……。 |
鮫島さん | そうなんだ。じゃあ、しんじ君の手伝いでもしてたの? |
あら太君 | あ、いえ、そういうわけでもないんですけど……。 |
鮫島さん | あ、そうなの。じゃあ、早いとこ帰った方がいいよ。電車がなくなるよ。 |
あら太君 | はい、でも皆さんこんな時間まで残られているのに、自分だけ帰るっていうのは……。 |
鮫島さん | なんだ、そんなこと気にしてたのか。しんじ君や坂上君の作業を調整しているのは私なんだけど、坂上君は今回が初めてのプロジェクトだから、作業量は少なめにしてあるんだ。だから、ほかの人より早く終わって当然だよ。 |
あら太君 | やっぱり、そうなんですか。 |
鮫島さん | どのくらいスキルがあるかまだ分からない新入社員に、いきなりたくさん仕事を頼んで、うまくいかなかったりしたら大変だろう? そういうリスクも踏まえて、メンバーの作業量を考えているっていうことだよ。 |
あら太君 | なるほど……。鮫島先輩は、ちゃんとプロジェクト全体のことを考えていらっしゃるんですね。さすがですね! |
鮫島さん | まあ、そういうことだよ。あと、鮫島「さん」でいいから。 |
あら太君 | はい、先輩! |
しんじ君 | (僕も、「先輩はちょっと」って何度もいってるんだけど、聞かないんだよね……) |
鮫島さん | ITエンジニアは、早く帰れるときは、さっさと帰ることだよ。どうせすぐ帰れなくなるんだからさ。 |
あら太君 | え、やっぱり残業、徹夜、休日出勤、ですか? |
鮫島さん | そこまで重なることは、そうそうないけどね。なんたって、私がリーダーだから、ハハハ。 |
そういうと、鮫島さんは自分の席に戻っていきました。
あら太君 | 中山先輩、鮫島先輩の言葉で、よく分かりました。私は今日はこれで帰ります! |
しんじ君 | そうそう。それでいいんだよ。あとさ、私にも「先輩」っていう呼び方はちょっとさ……。 |
あら太君 | お先に失礼します! お疲れさまでした! |
あら太君はしんじ君がいいかけた言葉を聞くことなく、いつものようにダッシュで帰っていきました。
しんじ君 | あらら……。まあ、いいか。それにしても、鮫島さんのいってた「ITエンジニアは、早く帰れるときは、さっさと帰る」っていうのは、確かにそうだよなあ。ほかの人が遅いから自分も、とかって、僕も去年はよく思ってたけど、いまだと鮫島さんの言葉の意味がよく分かるなあ。 |
と、メンターのはずのしんじ君も、先輩社員の言葉にあらためて感心するのでした。
しんじ君 | そういう説明を、僕自身があら太君にできるようにならないといけないよなあ。それにしても、今日の鮫島さんは、ずいぶんと冗舌だったような気がするけど、何かあったのかな……? あ、いけない、もうこんな時間だ、僕もそろそろ帰らないと! |
気が付けば終電ギリギリの時間。あら太君よろしく、ダッシュでオフィスを後にするしんじ君でした。
今回のインデックス |
ITエンジニアに残業のない日があるなんて、意外? |
納期直前で全員が残業! 新人は帰りづらい…… |
筆者プロフィール |
中越智哉●北海道出身。北海道大学大学院電子情報工学専攻修士課程修了。在学中はJavaとLinuxに熱中。卒業後、Javaの仕事にあこがれ、1999年にテンアートニ(現・サイオステクノロジー)に入社。Java の受託開発案件や教育事業、コンサルティングなどを幅広く担当した後、2006年2月に同社を退社。同年3月にナレッジエックスを設立。 JavaをはじめとするIT開発技術の教育に奔走する。趣味は自転車と草野球、そして毎日欠かさない耳かき。 |
@IT自分戦略研究所の関連記事
連載:新人しんじ君、IT業界へ
新人しんじ君の夏休み〜母さん、プログラムってそれじゃないんだ
新人しんじ君外伝〜定時で帰るメンバー。作業は順調なんだよね?
新人しんじ君外伝〜新人歓迎会、なのにトラブル? 波乱の予感……
新人エンジニアに贈る、プロとしての心構え
新人が「仕事の壁」を乗り越えるポイントは?
新人が知らない会社の常識
先輩エンジニアが心得ておくべきこと
総集編 新人はやっぱりそこが分かってない!
@IT自分戦略研究所は2014年2月、@ITのフォーラムになりました。
現在ご覧いただいている記事は、既掲載記事をアーカイブ化したものです。新着記事は、 新しくなったトップページよりご覧ください。
これからも、@IT自分戦略研究所をよろしくお願いいたします。