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現場で使えるメンタルヘルス改善講座

第2回 トラブル時も定刻で帰るメンバーへの対応策

樋口研究室
山本隆之

2008/11/21

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「私はきちんと仕事をしている」

 PLが一番奇妙に思っていたのは、進ちょくが遅れているにもかかわらず、メンバーが堂々と定時退社することでした。そこでPLは、この理由をメンバーに聞いてみました。するとメンバーは次のようにいったそうです。

 「私は、きちんと仕事をしています!」

 PLは驚いたそうです。別のメンバーにも聞いてみたところ、「定時に帰ることが目標」「遅れは明日に取り戻せる」と主張するのです。全メンバーに共通した認識は、「自分の作業は責任を持ってやっている」というものでした。

 PLが過去に接したメンバーは、PLの手が回らないところに気付くと、積極的に作業してくれたそうです。新たに出てきた問題も、自分の仕事の延長線と考えて取り組んでくれました。メンバーが団結して1つの目標を達成するのです。サッカーや野球などのチーム競技と同じです。

 でもこのときは違っていました。メンバーは「指示されたことはきちんと守るけれど、そこから派生した問題は別の問題」という考え方でした。自分の仕事はこなすけれど、他人の仕事には無関心。陸上や水泳のように個人タイムを競っている感じです。PLはこう感じたそうです。

 「このプロジェクトは、団体戦でなくて個人戦だな」

 PLは「これまでとはちょっと違う方法を取らないとダメだな」と思い始めました。とはいっても、急に体制を変えるようなことはできません。

社員の表彰制度を利用する

 実はこのとき、私はPLからある相談を受けていました。「仕事で何が手に入るとうれしい?」というような内容だったと思います。私はそのとき「お金ですね」といいました。冗談半分でしたが、当時「もう少しお金があったら趣味に使えるのになあ」という気持ちがあり、その発言になったのだと思います。

 私もPLに、PLが新米だったとき、プロジェクトでうれしかったことを考えてもらいました。1つ出てきたのは、PLが会社から表彰されたことでした。貢献した社員を表彰する制度があり、選ばれて賞状と賞金をもらったそうです。

 PLはこのことをヒントに、メンバーの勤めている協力会社に、社員の表彰制度はないかと尋ねたそうです。すると「チーム貢献賞」という制度がありました。表彰に当たって、プロジェクト管理者の推薦がポイントになることも分かりました。

 そこでPLは、メンバー全員に、今回のプロジェクトがうまくいったら全員を表彰対象に推薦すると宣言したのです。

 驚くべきことに、次の日からメンバーの様子が変わり始めました。これまでは問題が発生していても必ず定時に帰っていたメンバーが、定時を過ぎても黙々と作業を行っているのです。

 メンバーもチーム全体の進ちょく状況が気になり始めたようです。問題が出てくるとPLに相談します。大きな問題が発生したら、メンバー同士で連絡を取るようになりました。これをきっかけに、個人戦が団体戦になって、チームワークができてきたのです。

 その後、テストは終了にこぎつけました。納期もぎりぎり間に合い、無事プロジェクトを完了することができました。

 PLは後でメンバーから聞いたそうですが、皆が「出産費用が必要」「駐車違反で罰金を払った」「英会話学校に通い始めた」など、物入りの事情を抱えていたそうです。表彰でもらえるお金は大きな額ではないけれど、ちょっとした個人の目標にヒットしたのかもしれません。

 この出来事で、PLは「メンバーの働く意識は、昔といまでは完全に変わっている」と感じたそうです。PLはいいます。

 「過去のやり方が、将来にわたってうまくいくとは限らないのですね」

 PLはこれ以来、以前の経験や成功体験にとらわれることはなくなりました。メンバーの置かれた状況、目標や希望を把握して最適な方法を考え、メンバーを上手に導けるようになったそうです。

昔といまの違いをきちんと分析して、新しい方法を生み出す

 かつて成功したときの経験は、積極的に使う方がいいといわれます。でもそれにこだわり過ぎてもいけません。うまくいかないと感じたら、早いうちに別の方法を模索することが大切です。

 そうはいっても、過去の成功から離れることは難しいと思います。そんなときに利用できる、気持ち良く前進するための頭の切り替え方法があります。それが「さらに良くする昔といまの活用法」です。

図1 さらに良くする昔といまの活用法

 うまくいかない。昔とちょっと違う。そういう出来事が起こったら、まず昔といまの「差分」を考えます。昔はあったがいまはないもの。いまはあるが昔はなかったもの。これを分析します。今回のケースの差分は、「チームと個人の意識」ですね。

 差分が分かったら、そこから「共通点」を考えます。共通点は、テーマや目標など満足度が上がる内容がよいでしょう。今回のケースの共通点は、「プロジェクトを成功させるという目標」でした。「お金が必要な事情があること」も、共通点だったかもしれません。

 共通点が見つかったら、最後にそこから「満足度アップ」の方法を考えます。今回のケースでは、「プロジェクトの成功」と「表彰、賞金」です。

 これは、昔を捨て去るための方法ではありません。昔といまの違いをきちんと分析し、新しい方法を生み出すためのものです。この方法を活用すると、過去の成功から離れる抵抗感が和らぎ、かつ将来の効果も期待できます。

 ITの現場では、働き方が多様化しています。外国人のメンバーも増えています。思ってもみなかったような考え方をする人と仕事するケースも起こります。そういうときも、リーダーは、個人やチームを大切にしてプロジェクトを進めないといけません。

 この方法を発想転換に活用できれば、不安が軽減され、メンタルヘルスを維持できるはずです。

 過去の成功にこだわりすぎず、常にその時点で最適な方法を考える。皆さんもぜひ試してみてください。


今回のインデックス
 仕事が終わらないのに、定時で帰るメンバー
 過去の経験にこだわり過ぎず、メンバーを導く方法

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筆者プロフィール
山本隆之樋口研究室の認定ITコーチ。会社ではITサービス案件に参画し標準化やフレームワーク開発の仕事をしている。「自分のパフォーマンスアップこそが、チームや会社のパフォーマンスアップにつながる」。これが持論である。

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