第5回 技術力が足りない私。スペシャリストになりたい!
樋口研究室
山本隆之
2009/2/24
過酷な環境にさらされながら、常にコンピュータ並みの正確さを要求されるITエンジニアたち。メンタルヘルスをうまくコントロールするには? 樋口研究室の「ITコーチ」たちが、現場でいますぐ使えるメンタルヘルス改善のワザを教えます。 |
IT業界では、技術がすさまじいスピードで進歩しています。ITエンジニアには、常に新しい技術を学習し、そのスピードについていかなければならないつらさがあります。
「お客さまから見れば、ITエンジニアはコンピュータの専門家。でも自分は、技術的に未熟」。そんなふうに、期待と現実との差に悩むITエンジニアも多いと思います。
前回「苦手な仕事から逃げず、最後までやり抜く方法」では、気が進まない仕事を頼まれたときの乗り切り方をお話ししました。今回は、技術知識が足りないと感じたとき、上手に自分の心をコントロールして乗り切る方法を考えてみましょう。
■見たことも触ったこともないミドルウェアの「専門家」?
あるとき、システムエンジニア(SE)のAさんが、困った顔をして私のところにやってきました。Aさんはいいます。
「次の仕事に、ミドルウェアの専門家として参加することになりました」
とても格好いいですね! SEの仕事として立派なことです。しっかりやってほしい、私はそう思いました。でもAさんは、首を横に振りながら続けます。
「でも私は、そのミドルウェアを、見たことも触ったこともないのです……」
見たことも触ったこともないのに、専門家? なんだか大変なことになりそうです。私はさっそく、Aさんに事情を尋ねてみました。
■「にせもの」の専門家、必死でトラブルを解決
その2カ月前のことです。Aさんはプロジェクトリーダーに呼び出され、こういわれたそうです。
「Aさんには、このミドルウェアのスペシャリストとして参加してもらうからね。お客さまにもそのように紹介しておいた」
まずい! Aさんはそう感じました。確かにAさんは、そのミドルウェアを使う案件に参加したことがあります。でもテスト作業の支援をしていただけで、そのミドルウェアについては何も知りません。それなのにいつの間にか専門家と思われ、次の仕事が決まったようなのです。
にせものの専門家で大丈夫なのだろうか。そう感じながらも、Aさんはそのプロジェクトに参加しました。
ある日、ミドルウェアで障害が発生しました。さっそくAさんが呼ばれ、調査を依頼されました。
Aさんは、エラーが書かれたログを見ました。でもその内容がよく分かりません。マニュアルも必死で読みました。インターネットでも調べました。次の日も、また次の日も、必死で調査しました。そしてようやく解決できたそうです。この間、なんと1週間。プロジェクトリーダーの視線が怖かったといいます。
「今回はなんとか乗り切れました。でも、次もうまくいくとは限りません……」
いつ起こるか分からないトラブルに、ヒヤヒヤしながら毎日を過ごしているAさん。いつも心が緊張していて、気分が悪いそうです。
■「専門家とは、1人で解決できる人のこと」
私はこの話を聞いて、Aさんは専門家という言葉にどういうイメージを持っているのだろうと思いました。それでAさんの考える専門家像を尋ねてみました。Aさんはいいます。
「何でも知っていて、すぐに1人で解決できる人です」
なるほど。Aさんの持っている専門家のイメージは、スーパーマンのようなITエンジニアでした。私もAさんに、そういうITエンジニアを目指してほしいと思っています。しかしどうすれば、スーパーマンのようなITエンジニアになれるのでしょう。私は少し悩みました。
スーパーマンのような人も、最初からそうではなかったはずです。そこで私はAさんに、専門家の観察日記をつけてみてはと提案しました。専門家の行動を観察して、それをまねることができれば、専門家に近づけるのではないかと感じたからです。そしてその内容を、私に定期的に報告してくれるように頼みました。
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