第8回 「急げ」「早く」だけでなく、「じっくり」「ゆっくり」も考えよう
樋口研究室
山本隆之
2009/6/5
過酷な環境にさらされながら、常にコンピュータ並みの正確さを要求されるITエンジニアたち。メンタルヘルスをうまくコントロールするには? 樋口研究室の「ITコーチ」たちが、現場でいますぐ使えるメンタルヘルス改善のワザを教えます。 |
■なかなか減らない「やり残し」
いつかやろうと思っている。でも忙しくて手を付けられない。誰でもこういう「やり残し」があると思います。でもこれが多すぎると大変です。早くやらないと! そういう焦りの気持ちが、あなたの仕事の品質を落としたりします。今回は、こういう気になる「やり残し」を上手に減らして、状況を改善する方法を考えてみましょう。
わたしはあるPL(プロジェクトリーダー)さんと面談をしています。PLさんのやり残しをどうやって減らすのか。これがテーマです。
やり残しの整理は、まずそれを書き出しておくことが大切です。わたしはこのリストを「やり残しリスト」と名付けています。このPLさんのこのリスト、その内容が結構多彩!? です。
リストの1つ目にあるのは、TOEICテストの600点獲得です。PLさんの会社では、昇進するために、この点数を取得しないといけません。そろそろ準備をしないとまずい。PLさんは、そう感じています。
リストの2つ目は、表計算ソフトの習得です。プロジェクトの進ちょくを把握するのに、エクセルのような表計算ソフトを使うと便利です。でもPLさんは、表計算ソフトのマクロ機能(自動計算)を使うとか、見やすい報告書を作るのが苦手だそうです。
リストの3つ目が、社内イベントにまったく参加していないことです。PLさんの会社には、本社で定期的な会議や、必ず受講しないといけない研修があるそうです。でもいつもPLさんは、お客さまの仕事を優先するので、まったく参加していません。いつか上司に怒られる。そう思っています。
これ以外にもリストには、机の整理をしないといけない、メールの分類ができていない、靴を磨いていない、スーツをクリーニングに出していないなどなど、かなりの数のやり残しが書かれていました。
これらは、特にやらなくても、仕事や生活に支障が出るわけではありません。でも、こんなことばかり考えていると、常にウイルスソフトが動くパソコンのように、余計なところにパワーを使って、本来の仕事に集中できないでしょう。わたしは、なんとかPLさんのこの状態を解決してあげたい、そう考えていました。
■PLさんに「効率的なアドバイス」は効果がなかった
わたしは、PLさんのやり残す原因が、仕事の効率が悪いところにあるのかな、そう思っていました。だから、いかに効率的にやり残しを削減するか、ここに焦点を絞ることにしました。そこでわたしは、次のようなアドバイスをしたのです。
「英語の勉強は、通勤時間に携帯プレーヤーを活用してください。表計算ソフトのサンプルは、ネットを検索すればたくさん見つかります。社内のイベントは、パソコンのスケジュール管理ソフトで、日程が近づいたら警告メッセージが出るようにしてはどうでしょう」
わたしもITエンジニアです。IT技術を使った効率化のアドバイスは得意です。手間や暇やお金がかからなくて、とても効率の良いアドバイスができた。わたしはそう感じていました。PLさんはいいます。
「なるほど、確かに効率的ですね。やってみます!」
それからしばらくして、わたしはPLさんの進ちょくを確認しました。PLさんはいいます。
「緊急のトラブル対応で、できませんでした」
またしばらくして、PLさんに進ちょくを確認しました。PLさんはいいます。
「緊急の仕事があって、できませんでした」
その後、何度も進ちょくを確認したのですが、いっこうにわたしのアドバイスをやってくれません。PLさんいわく、わたしのアドバイスが、いつでもやれそうなものばかりなので、優先順位が下がっていたというのです。これにはわたしも困りました。だったら早くやればいいのに……。
そこでわたしは、PLさんにショック療法を使ってみようと思い、以下のようなことを、いってみたのです。
「PLさん、あなたは本当に、やり残しを減らしたいと思っているのですか? いまのままでは時間の無駄(非効率)です。今回で面談は中止にしましょう」
もちろんわたしは、面談を中止する気など、まったくなかったのですが、これを聞いたPLさんは少しムッとした顔つきになりました。それ以来、PLさんはわたしのところに、顔を出さなくなってしまいました。
あえて面倒なことをやる |
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