第2回 できなくて当たり前【治療中期編】
豊島美幸
2008/8/19
「会社を辞めないと離婚!」――夫に対し、そういい放ったのは、細川貂々さん。ツレ(夫)の闘病生活をつづった『ツレがうつになりまして。』のマンガ家だ。前回は、うつと診断されたツレさんが「あきらめてラクに」治していこうと決めたが……。 |
「会社を辞めないと離婚!」――そう言い放ったのは、自分のツレ(夫)の闘病をつづった『ツレがうつになりまして。』(通称『ツレうつ』)を描いたマンガ家の細川貂々(ほそかわ・てんてん)さん。
2004年1月に「うつ」と診断されたツレさんに、細川さんは離婚を迫ったのだ。そんな細川さんを前に、ツレさんは受診時同様、やむなく退職して療養生活に入る。そして「希望を持たず、あきらめてラクに」療養していこうと決めたのだが……。
いつも話が尽きないという細川さんとツレさん。子どもが誕生してからは、子どもの話でますます会話が弾むようになった |
■患者は“キッチリ”を捨てダラダラと――無理やりでも形から
「あきらめてラクに治そうとしても、最初は『よし、頑張ってあきらめよう』と力が入ってしまい、ラクにできなかった」と、ツレさんは弱音を吐く。細川さんも、そんなツレさんのことを「もともとうまく気を抜くことができないみたいなんですよ」と続ける。
発病前のツレさんは、「落ち込むことなんてなかった」という。逆に細川さんの方が落ち込みやすかった。細川さんがグチをこぼすたび、ツレさんは「グチいう暇があったら行動したら?」とたしなめていた。ツレさんはまた、曜日ごとにネクタイの柄や入浴剤の種類、弁当に入れるチーズの種類などを決めており、そのとおりに実践しないと気が済まない性分だった。
『イグアナの嫁』(幻冬舎刊)。2006年12月発行。「マイナス思考クイーン」(『ツレうつ』『イグアナの嫁』より)だった細川さんが、ひょんなことからイグアナを飼い始めたことや、ツレさんがうつを発病したことなどにより、人間的成長を遂げる姿を赤裸々に描いたマンガ |
「形からでいいからダラダラしてごらん」。ツレさんは寝たきりだった治療開始3カ月たったころから、起きてこられるようになった。そんなある日、細川さんはツレさんに提案した。「お昼ごはんが終わると、『お茶の時間まで昼寝しなさい』といわれました。でもかなり居心地が悪くて……。まったく休んだ気がしなかった」という。
でもそうこうしているうち、「不思議となじんできた」。慣れてくると、ダラダラすることはいい気晴らしになった。「どうしてもダメなときは、とにかく形から入ってみるといい」とツレさん。
珍しい生き物も気晴らしになった。夫婦は爬虫(はちゅう)類のイグアナなどを飼っている。貧乏のどん底だった1999年、「ペットで癒やされよう」として飼い始めたイグという名のオスのイグアナだ。
イグアナは発情期にかみつく癖がある。そのため2人の腕や手には、イグにかまれた傷跡がたくさんある。傷は一生消えない。それでもイグは、「人間の子どもと同じくらい大事な存在」。
ツレさんは療養中、体調がいいときはイグにエサをあげるなどしてスキンシップに励んでいた。両生類のウーパールーパーを飼っていた主治医とは、エサの話などをしては盛り上がり、「いい気晴らしになった」という。
■患者だけじゃない――周囲の人もカウンセラーに頼れ
あくまでうつは「体の病気」として、患者に薬を処方するのが主治医の役目だ。一方カウンセラーは相談者を受け止めるのが仕事。だからツレさんが、主治医に「自分をさらけ出すことはなかった」。ツレさんにとってのカウンセラーは細川さんだった。とはいえ、患者に必ずしもパートナーがいるとは限らない。受け止めてくれる人が周りにいない場合は、カウンセラーに相談すべきだと、ツレさんはいう。
細川さんは、「患者の周りにいる人も、家の外でストレス発散できる人、助けてくれる人をつくっておくといいと思います」と続ける。ただ他人に自分の家族のことをいえない人や、「気のせいだ」で済まされてしまい、理解してもらえない人もいる。「そういう人は、自分までうつになってしまいます。それを防ぐためにも、カウンセラーに頼るのは有効だと思うんです」
「うつ本人だけでなく周りの人も、カウンセラーに頼ったっていいんです」と、2人は口をそろえる。さらに周りの人にお勧めの工夫がある。
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