ITエンジニアのためのビジネスコミュニケーション診断

第4回 相手にYesといわせる説得力

鹿野晴夫・大塚千春(アイ・シー・イー)
2008/12/12

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CompTIA日本支局が提供する「ビジネス・コミュニケーション・スキル診断」(BCSA)のスキル定義に基づき、ビジネスコミュニケーション力簡易診断テストを掲載する。「今日からできるスキルアップ術」で、ビジネスコミュニケーション力のスキルアップを図ってほしい。

 前回(第3回「相手の本音を引き出す質問力」)では、相手に説明するだけでなく、質問することで、相手の考え(情報)を投げ返してもらう重要性を解説した。質問によって相手の話す機会を増やせれば、「話が一方的」という印象を避けることができるだけでなく、相手の問題意識に合わせて、説明に強弱をつけることができる。

相手に納得してもらう

 今回は、「相手に納得してもらうスキル」を説明する。質問を活用することで相手の本音を引き出すことができても、相手の納得を得ることができなければ、ビジネスコミュニケーションの目的を達成することはできない。

 コミュニケーション力不足で問題が発生した事例を見てみよう(事例1)。

事例1
 マネージャのAさんは、プロジェクトの進行を管理している。受発注チームの作業が遅れており、会計チームのメンバーの何人かに応援を頼みたいと考えている。そこで、会計チームのリーダーのBさんと打ち合わせを行うことにした。
Aさん : 「受発注チームの作業が遅れていて、このままでは納期に間に合いそうにない。会計チームの何人かに支援をお願いしたい」
Bさん :

「会計チームの体制はギリギリなので、難しいと思います」

Aさん : 「受発注チームの作業が遅れれば、それに連動する会計システムの開発も遅れるのだから、受発注チームの遅れを取り戻すことが先決だ。それくらい分かるだろ」
Bさん : 「受発注チームの作業が遅れた理由は何ですか?」
Aさん : 「そんなことはどうでもいい。必要な人数を受発注チームから伝えてもらうから、人選してくれ」
Bさん : 「……分かりました」
 
  Bさんは、不満そうな表情で打ち合わせの場を後にした。Bさんが、応援の人員を出すことをチームのメンバーに伝えると、案の定、メンバーの不満が爆発した。

 事例1でのAさんの最大の問題点は何だろう? それは、「受発注チームの作業が優先」というAさんの主張が正しいとしても、会計チームのリーダーであるBさんの立場を考慮していないことである。

 コミュケーションは、「情報」のキャッチボールだが、1対1のやりとりで終わらないのがビジネスコミュニケーションだ。Aさんが投げたボールをBさんが受け取り、Bさんは、さらにほかの人にボールを投げる。

 Aさんは、マネージャという役職が持つ力(ポジションパワー)を使って、Bさんに無理やり「分かりました」といわせたが、Bさんは明らかに納得していない。この状態で、Bさんがほかのメンバーに状況を説明しても、ほかのメンバーが納得するはずがない。納得のない義務感だけの行動は、人のやる気を削ぎ、生産性を低下させる。

 相手に納得してもらうには、相手がアクションを起こしやすいように、相手の立場を考慮して情報を伝えることが必要だ。そのために必要なスキルは、「相手のメリットを強調する」ことだ。

 次に、Aさんが「相手のメリットを強調」したら、どうなるかを見てみよう(事例2)。

事例2
Aさん : 「受発注チームの作業が遅れていて、このままでは納期に間に合いそうにない。受発注チームの作業が遅れた理由は、外注先の作業が遅れたからだ。むろんこの件に関する責任の追及は行うが、作業の遅れを取り戻すことが先決だ。会計チームの作業は順調だが、受発注チームの作業の遅れが取り戻せないと、会計チームの作業にも遅れが出てくることになると思う。全体の作業体制を見直す必要があると考えているのだが、Bさんの意見を聞かせてほしい」
Bさん : 「会計チームの体制はギリギリですが、やはり受発注チームの作業の遅れを取り戻すことが必要だと思いますので、受発注チームに何人か支援を出すことを検討しましょうか?」
Aさん : 「そうしてくれるとありがたい。チームのメンバーは納得してくれるかな?」
Bさん : 「受発注チームの作業がキャッチアップできた時点で、受発注チームから会計チームに何人か支援を出してもらうことができれば、メンバーの納得が得やすいのですが」
Aさん : 「なるほど。その線で、作業体制を見直してみよう」
Bさん : 「はい。よろしくお願いします」

 事例1と比較して、「会計チームから受発注チームに支援を出す」という結論は一緒だが、チームリーダーのBさんが、メンバーの納得を得られるという予想を持って、打ち合わせを終えることができている点が異なる。Bさんの立場としては、メンバーの不満が一番困る。つまり、メンバーの納得を得やすいことが、Bさんの「メリット」であり、「メリット」を認識できたことで、Bさんは納得している。

 なお、Aさんは、自分の口から、Bさんのメリットを強調するのではなく、前回「相手の本音を引き出す質問力」で説明した「質問の活用」をすることで、Bさんがメリットと考える案をBさん自身に提案させている。むろん、AさんがBさんのメリットを説明しても構わないのだが、質問を使うことで、Bさんは積極的に話に参加し、より納得を得やすくなっている。

 では、「相手のメリットを強調」するにはどうしたらよいのだろう? 解説の前に、簡易版ビジネスコミュニケーション力診断にチャレンジしてみよう。

 

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