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アツいエンジニアに会いたい!

世界を変える“アツい”エンジニアに会いたい!


第1回 DeNAの技術者は失敗を恐れない


井上敬浩(慶應義塾大学大学院)
2010/04/20


ITエンジニアが中心に立って「世界を変えていこう」とするIT企業を徹底研究。アツいITエンジニアへ突撃インタビューし、その信念を聞く

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 こんにちは。学生記者の井上敬浩です。これまで「楽天の技術者が先生! クラウドを1から学ぶ勉強会」「就活に役立つ! Twitter活用術」などの記事を書いてきました(ちなみにわたしのTwitterアカウントは @doryokujinです。感想をいただけるとうれしいです)。

 4月から新しい企画を始めることになりました。連載テーマはずばり「世界を変えるアツきITエンジニア」。ITエンジニアが中心になって世界を変えていこうとするIT企業を取材していきます。いろいろご意見をいただけるとうれしいです。

筆者のITエンジニアに対する思い

 現在、筆者は就職活動中。もちろん、ITエンジニアを志望しています。これからのITエンジニアは次のようにあるべきだ、とわたしは考えています。

(1)「サービス立案から運営までの仕事を、高いレベルでこなす」

 ただコードを書くだけではなく、自らサービスを立案、制作して運営していく。ITエンジニアは「全レイヤーの仕事を高いレベルでこなしていく能力を兼ね備えていく必要がある」と思っています。変化の激しいIT業界では、何よりスピードが命。コードを書けるITエンジニアが主導でサービスを作る方が、分業体制より断然仕事が早いはずです。

(2)「高い技術とサービスに対して、果てしない愛を持っている」

 「ITエンジニアは暗くておとなしい」という印象を持たれていませんか? わたしの目指すITエンジニアは、その真逆です。「サービスをこよなく愛し、サービスに対してうるさいまでに口出しをして決して妥協しない」「常に技術に餓え、勉強会やカンファレンスなどに参加して常に最新の技術・サービス動向を視野に入れている」「帰れないのではなく帰りたくない」――そんなアツいITエンジニアでありたいと考えています。

(3)「優秀なITエンジニアに囲まれている」

 良いサービス作りのためには「周囲の環境」――誰と一緒に次のサービスを作っていくかがとても重要です。技術とマインドのレベルが高い先輩と、先輩に追いつき追い越せと切磋琢磨(せっさたくま)する後輩がいる。そんな人たちが一緒に働く環境が、良いサービスを生み、育て、人を成長させるのではないでしょうか。ITエンジニアの生産性を最大限にできるような「設備と制度」も非常に重要だと思います。

さて、本編

 もちろん、わたしが考えるITエンジニア像は、今後変わっていくかもしれません。勘違いな部分も多々あると思います。「ITエンジニア主体の企業」を取材することによって、筆者のITエンジニアに対する考え方を良い意味で変えていければと思っています。

 さて、取材先の企業を探していたところ、以下の言葉が目に飛び込んできました。

http://rikunabi-next.yahoo.co.jp/tech/contents/ts_free/img/dena/back01.html

ようこそ、巻き起こすほうへ/Tech総研

http://rikunabi-next.yahoo.co.jp/tech/contents/ts_free/img/dena/back01.html

ようこそ、巻き起こすほうへ/Tech総研

 わたしはこの言葉を見たとき、胸の鼓動を抑えることができませんでした。「まさに、わたしのITエンジニア像と合致するじゃないか!」。さっそくアポを取り、晴れてディー・エヌ・エー(以下、DeNA)のITエンジニアに取材することになりました。これから2回にわたって、DeNAのITエンジニアが持つ魅力に迫っていきたいと思います!

DeNAとはどんな会社か!?

 DeNAでいま最も勢いのあるモバイルコンテンツ「モバゲータウン」について調べてみました。下の図はIR情報「月次推移のご報告(平成22年3月度)」からの抜粋です。

モバゲータウン月間ページビューの推移
モバゲータウン月間ページビューの推移

 2010年に入ってから、モバゲータウンの会員数は毎月100万人ほどの増加ペースを維持しています。特に驚くべきは、月間PVの推移! 3月は月間616億PVと、けた違いの数値を出しています。

 これだけのサイト規模を持つIT企業は、ごく少数です。これだけの規模を持つモバイルサイトを運営するやりがいと経験は、とてつもなく大きいでしょう。一方で、運営の多大な苦労は想像に難くありません。DeNAのITエンジニアは、いったい日々どんな気持ちで仕事に向かっているのでしょうか。

 今回は、幸いにも4人のITエンジニアにお話を伺うことができました! しかも皆、異なる役割を担う方々です。

(1)「ITエンジニア未経験だったが、何の不安もなかった」:企画から転身してITエンジニアへ、ソーシャルゲームを大成功に導いた大塚剛司さん

(2)「マネージャはゴールではない」:コードを書かないITエンジニア、DeNAマネージャ能登信晴さん

(3)「いままでの経験なんてどうでもいいので、明日からスタートダッシュすることだけを考えるといいですよ」:新人インフラITエンジニア、岩永亮介さん

(4)「仕事だけでなく、趣味でコードを書いて技術の幅を広めてください」:DeNAオープン化成功の立役者、木村秀夫さん

 これから、2回に分けてインタビュー模様を紹介します。それでは、まずは大塚さんのインタビューからどうぞ!

「怪盗ロワイヤル」を大ヒットさせたITエンジニア、大塚剛司さん

井上:大塚さんは入社当初、ITエンジニア志望ではなかったと聞いています。入社当時「ITエンジニア」という存在をどのように考えていましたか?

大塚:わたしは、「いつか自分で事業を興したい」という思いを持ってDeNAに入社しました。事業を作るためには「企画側で働く」ことが最適だと考えていました。しかし、当時好調だった「モバオク」を立ち上げたのがITエンジニア2人――現在取締役をしている守安功さんと川崎修平さんだったということに驚きました。ビジネスモデルの構築からリリースまでの流れが非常に迅速で、「ITエンジニアは企画の考えたサービスを実装するだけ」という考えが、完全に覆されました。

大塚剛司さん
ソーシャルメディア事業本部 プラットフォーム統括部
大塚剛司さん

井上:企画時代のお話を聞かせてください。

大塚:季節特集などの企画や広告設計に携わってきました。毎回入念にロジックを組み上げていたため、企画を成功させる自信はありました。ただ、企画を進めるにつれて、だんだんとフラストレーションがたまってくるのです。システム的な課題が上がるたびにITエンジニアと議論しなければならず、スピーディーに仕事を進めるのが困難でした。わたしもシステムの話にもついていけず、もどかしくて悔しい気持ちが常にありました。

井上:それでITエンジニアに転身しようと思ったのですね。企画で多数の成功を収めていた大塚さんの転身を、会社側はよく認めましたね。

大塚:「ITエンジニアの仕事にどっぷり漬かってみよう」と思い、転身を決意しました。わたしの要望を聞き入れてもらえたのには、2つの理由があります。1つは、企画の仕事で成果を残しつつあったこと。だったら、ITエンジニアとしても成果を出してくれるだろうと企業側が判断したのでしょう。「現在の能力より、ポテンシャルを重視する」というDeNAの考え方ならではと思います。もう1つは、ちょうど会社の方針が「サービスをゼロから作り上げられるITエンジニアを育てていこう」という段階にきていたため。入社した年の11月に要望を出して仕事の引き継ぎを進め、翌年5月にITエンジニアとして新しいスタートを切ることになりました。

井上:周りは優秀なITエンジニアだらけ。不安や心配はなかったのでしょうか。

大塚:ありませんでしたね。何といっても、失うものは何もなかったので(笑)。また、いままでも高いハードルを乗り越えてきましたので、3〜4カ月もすれば、周囲と同じくらいのバリューが出せる確信がありました。むしろ、企画の経験を生かせば、より高いバリューが出せるという気持ちもありました。もちろん、必死で努力しました。転身してからしばらくは、仕事が終わってから毎日、明け方まで勉強していました。

ITエンジニアとして再スタート、そして失敗

井上:ITエンジニアとして初めに取り組んだ仕事は何だったのですか。

大塚:初めから容赦ない仕事が舞い込んできました。当時、モバオクをPCで展開しようというビッグプロジェクトが立ち上がったのですが、そこの中心メンバー3人のうちの1人に抜てきされたんです。もう、むちゃぶりとしかいいようがない(笑)。

井上:それは驚きです。それは純粋に人手不足だったからですか。

大塚:いえ、それがDeNAの文化なのです。社員1人ひとりに、常に現在の能力限界より少しレベルの高い仕事を与え続け、決して簡単にこなせる仕事はさせません。常に、挑戦的でエキサイティングな環境が提供されます。当然、厳しい環境でもあります。そこで頑張りきれなければ、まったく成果が生まれません。このような環境を楽しめる人でないと、うちで働くのはつらいと思います。

井上:とてもワクワクする環境ですね! しかし、そんな環境を楽しみ、メキメキとITエンジニアとしての技術を蓄えられてきた大塚さんも、大きな失敗をしていると聞いています。そのときのお話を聞かせていただけませんか。

大塚:はい、新規事業として「モバまち」というCGMを立ち上げたのですが、ユーザーからはまったく反響がありませんでした。このサービスは残念ながら打ち切りとなってしまいました。

井上:失敗した原因について、いまではどのように考えていますか。

大塚:「ユーザー視点に徹底して立てていなかった」ことだと思います。市場調査を行い、ビジネスロジックを作り上げるところまでは完ぺきでした。しかし、ユーザー視点でサービスを深堀りする視点に欠けていました。ユーザーはどんな気持ちでボタンを押し、どのような気持ちで書き込みを行うのか。ユーザー視点の深堀りがきちんとできていれば、当時とはもう少し異なるサービスになっていたと思います。また、モバまちはモバゲータウンのユーザーを引き入れようという案でしたので、「トラフィックをさばけるか」という部分にばかり、気を取られてしまっていました。もう一度やり直せるなら、当時よりたくさんの人を引き付ける自信はありますが、「サービスはリリースしてみないと分からない」ものです。大ヒットにつながるかどうかは分かりません。もちろん、それがサービスの面白さでもありますが。

モバゲータウン「怪盗ロワイヤル」の大成功

井上:その次に出されたモバゲータウンの「怪盗ロワイヤル」は大ヒットとなりました。何より、すぐに次の大きなプロジェクトにアサインされたことが驚きなのですが。

大塚:結果に対する評価は非常にドライで、「良い点」「悪い点」だけが明確に伝えられます。モチベーションマネジメントなどはほとんど行いません。しかし、DeNAのITエンジニアは皆、「自走するITエンジニア」です。失敗の原因だけを与えられれば、そこから自ら学び、考え、次のサービスへとつなげていきます。ですので、一度の失敗だけでもう二度とチャンスが与えられないなんてことはありません。

井上:前回と進め方で異なった部分はどこですか。

大塚:まずトラフィックなどのシステムの心配をするのをやめ、ユーザー目線に立ったサービスの作り込みを徹底しました。企画書の書き方も大きく変えました。前回までは企画書に絵コンテやページ遷移図などを完ぺきに作り上げてから、それに沿って開発を進めてきました。しかし、今回は絵コンテも遷移図も一切書きませんでした。その代わりに素早く実装を行い、見えてきた問題点を修正しては再実装……というふうに、実際にサービスが常に見える形で作業を行ってきました。その方がサービスを組み始めてから見えてこない問題をすぐに発見できますし、周囲からのフィードバックもより具体的になります。そうしてリリースした怪盗ロワイヤルは大ヒットを収めることができました。

井上:実際にリリース時に緊張はありませんでしたか。

大塚:怪盗ロワイヤルがヒットする自信はありました。しかしそれでも前回の失敗もあったので、リリース時はとても緊張しました。本当にユーザーの琴線に触れることができるのか。しかしリリース後みるみるアクセスが増えていく様子を目の当たりにして、緊張が瞬時に喜びに変わりました。

大塚さんが次に切り開く未来

井上:ITエンジニアとしてサービスを一から作り上げ、大ヒットに結び付けた大塚さんの次の目標は何ですか。

大塚:海外で、DeNAのソーシャルゲームを大ヒットさせることです。プラットフォーマーとして、デベロッパとして世界にDeNAの名を轟かせたいですね。もちろん、いまの日本の形そのままでは通用するかは分かりませんし、今後はiPhone/AndroidなどのスマートフォンやiPadなど、利用されるデバイスが変わります。わたしたちは常に先を見据えて新たなソーシャルゲームや、SNSなどのソーシャルメディア戦略を打ち出していく必要があります。もちろん解決しないといけない課題は山ほどありますが、その可能性を純粋に楽しんでいこうかと思っています。また、それを日本でやれるのはDeNAしかないと確信しています。それが、いまわたしがここで働いている理由です。

大塚さんのインタビューを終えて

 大塚さん、ありがとうございました。挑戦できる環境を最大限に活用し、失敗と成功を両方体験した大塚さんの話す言葉には非常に重みがあり、自信に満ちあふれていました。

 続いて、マネージャ 能登信晴さんのインタビューを紹介します!

「マネージャはゴールではなく、通過点である」

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記者プロフィール
井上敬浩(いのうえたかひろ)

 慶應義塾大学大学院理工学研究科で数理科学を専攻。研究内容はアルゴリズム・最適化。

 情報学は学んでこなかったが、学部4年時のITベンチャー企業でのアルバイトをきっかけに、ITの面白さにどっぷりと浸かるように。

 一通りのプログラミング言語を浅く広く学んできたが、まだまだ勉強不足を感じている今日このごろ。得意分野は、データマイニングや最適化アルゴリズムの実装。

 スピード感があって個人の裁量が大きいITベンチャー企業が大好き。

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