即戦力ばかりを求めてきた結果、企業には次世代を担うための人材が不足してきている。今後厳しい競争を勝ち抜いていくために、企業に必要なのはどのような人材か。彼らを育成するにはどうすればいいのか。人材育成のプロフェッショナル2人の対談から、そのヒントを得よう。 |
クリエイターにも必須な
コミュニケーション能力
長引いた景気低迷の時代、多くのIT企業は即戦力を求め、長期的な視野に立った人材育成を怠ってきた。その結果、いまになって人材育成の転換期を迎えている。では、その指針たるべき「求める人材像」とはどのようなものか。
社員教育研究所 管理者養成学校 校長の元橋康雄氏とデジタルハリウッド学校長 デジタルハリウッド大学・大学院 学長の杉山知之氏が、「いま、求められる人材」について語り合った。
人と人とのコミュニケーションを重視して人材育成を行う社員教育研究所と、デジタルコンテンツ業界に多くのプロフェッショナルを輩出するデジタルハリウッド。方向がまったく異なるように見える両者だが、目指すところや育成すべき人材についての考えに共通点はあるのだろうか。
――杉山校長は、1994年というインターネットの初期にデジタルハリウッドという教育機関を設立したわけですが、そこではどんな人材を育成しようと考えたのですか。
杉山氏 われわれの時代は、いまに比べればコンピュータ技術の発展もゆったりしたもので、特に勉強をしなくてもついていけました。しかし近年、急激に発展のスピードが速くなり、多くの人にとっては急にデジタルの世の中が現れたように見えたはずです。これは教育で底上げをして、時代に対応させていかなくてはと考え、学校を設立したのです。
長い人生を考えたとき、「デジタルコミュニケーション」を操れなくては、チャンスが狭くなってしまいます。逆にデジタルコミュニケーションを操れるようになれば、人生にチャンスがあふれかえる時代になってきたのだと考えました。プロフェッショナルを育てることを目的とはしていますが、基本的なリテラシーを教えるという姿勢なのです。
デジタルの時代はあっという間に来てしまって、若者にとっては人生の早い段階で大きな変化を迎えることになりました。デジタルハリウッドは、その変化の中で「これからデジタルコミュニケーションの時代が来るのか、その方向を目指せば新しい道が開けるのか」と真剣に考える転職希望者に対して門戸を開きました。なので、会社や上司の命令で来るというより、本人がこれからの職業を考えたときに、自分で選んでやって来るという特徴があります。いまではスクールだけでなく大学や大学院も備えているので、大学に関しては18〜19歳の高校を卒業された方が多く入学してきます。
――デジタルハリウッドの卒業研究では、作品の事業化まで考えて発表をする学生もいるそうですね。
杉山氏 クリエイターたちにはどんどん新たなプロジェクトにかかわってほしいし、既存のゲームや映像を作っているだけでは広がりが少ないと思うのです。デジタルを利用したビジネスにはもっとたくさんの可能性がある。それにはデジタルコミュニケーションが分かったうえで、ビジネスを計画できる人材をつくらなければいけない。それを大学院という形で結実させたのです。大学院大学の構想は、1994年のスクール設立当初からありました。
クリエイターがビジネスプランニングもできない、スポンサーとコミュニケーションが取れないというケースが多い。逆にコミュニケーションスキルはあっても、ITを知らないために新しいものができない人もいる。彼らが切磋琢磨(せっさたくま)して、スポンサーにうんといわせることを目指す場をつくったのです。
――1994年当時からクリエイターのコミュニケーション能力の重要性を訴えていたわけですね。そのきっかけになった体験を教えてください。
杉山氏 MITのメディアラボで客員研究員だった時代の体験が根底にあります。そこでは、ただ研究だけをしているのではなく、大企業のエグゼクティブに「これならあなたの研究にお金を出してあげます」といわせることができる研究者が求められていました。自分の研究に価値があることを主張し、企業とコミュニケーションを取り、お金を出してもらう。そんな動きのできる人材が必要であるとその時に感じたわけです。
いまのクリエイターにも、自分が作りたいものを夢物語で終わらせるのではなく、「こうすればビジネスになるのだから、自分を育てるお金を出しませんか?」といえる人材になってもらいたいのです。
「知っている」だけではなく
「できる」人材を育成したい
――では、元橋校長にお聞きします。社員教育研究所はどんな人材を育成しようとしてスタートしたのですか。
社員教育研究所 管理者養成学校 校長 元橋康雄氏 |
元橋氏 社員教育研究所を設立した当時は、日本には一部の大企業を除いて企業教育というものがほとんどありませんでした。それだけに「人を育成する」するための手法を探ることが大きな課題でもあったのです。作成した教材の内容を録音テープに仕込んで聞かせ、目で教科書を追わせるといった視聴覚教材を数年かけて作ることになりました。人間の基礎や社会人の在り方をテーマに、いい教材を作って社会に役立てようという一心でした。
しかしその後、いい教材によって知識を与え、「知るようにさせる」だけで満足していいのかという疑問を抱くようになったのです。当時、社員の電話対応が悪い、あいさつができていないなど、お客さまからクレームをいただいたこともきっかけになりました。自社の社員のことを考えたとき、「知る」だけではダメで、「できる」人材を育成しなければというテーマにぶつかったのです。
――「知る」教育と「できる」教育では、その方法論に違いがあると考えたのですね。
元橋氏 それは教育ではなく「訓練」であると思います。短期間で人材を育成する方法は軍人教育の中に学ぶべきものがありました。 コース開発者の社員教育研究所 代表取締役会長 主席研究員の財部一朗が研究に研究を重ね訓練方式を開発しました。 この方法を実践するには、毎日2時間程度、レクチャーを受けるのではだめですね。「できない」ことを「できる」ようにするためには、短期間に集中して訓練を受ける必要があります。これが現在の集中合宿方式につながったのです。
――「できない」ことが「できる」ようになって、人はどう変化しますか。
元橋氏 多くの人は、もともと自分が「できる」と勘違いしています。つまり「知っている」=「できている」と錯覚しているのです。実際に、できて当然のことを合宿でやらせてみるとできません。しかし、自分が「できない」ことに気付いてそれを克服すれば、逆に武器になり、人の上に立つマネージャとしての資質を備えるようになります。「できる」と思い込んでいる知識の部分だけで人を指導しようとしても、部下はついていきません。「どうやるんですか」と聞いたときに、マネージャが「こうやればできる」と示してくれれば部下は納得するわけです。
われわれとしては、マネージャがどのようなコミュニケーションスキルを磨けばいいのかという命題を、人間形成の問題からチャレンジしようとしています。これが、社員教育研究所の一番大きなテーマですね。
これからの人材に必要な
コミュニケーションスキルを磨くために
――どちらの学校も、コミュニケーションスキルが非常に重要だととらえていますね。
元橋氏 私たちが教育をする中で、コミュニケーション能力がどうこうという前に、人として優れていると判断される要素は何かと聞かれることがあります。それは、ひと口でいえば表現力です。
表現力とは、例えば人に会ったらあいさつをする、言葉遣いも気を付ける、服装や身だしなみも考える……という社会人として必要な約束事だともいえます。これを心の中から外に出すのが上手な人と下手な人がいるのです。出し方の上手な人が「コミュニケーション能力のある人」といわれるわけです。もともと表現する能力は備わっているのに、うまく出せない人は非常に損をしているはずなのです。これを表現させるために「恥ずかしさ」を取り除き、解放する訓練をするわけです。
デジタルハリウッド学校長 デジタルハリウッド大学・大学院 学長 杉山知之氏 |
杉山氏 デジタルハリウッドには「コミュニケーション」という授業はありませんが、実習中心のカリキュラムの中では、グループ単位やチーム単位で動くこともあります。また、いい作品ができれば複数の企業の前でプレゼンテーションすることもあります。授業の流れの中や、学生同士や先生とのやりとりの中で、自然とコミュニケーションを取る必要が出てきます。
講師の側も、結局はコミュニケーションが一番大切なんだということは常々いっています。ぼく自身も授業の中で、同じレベルのデザイナーだったらコミュニケーション能力がある人に仕事が行く、もっといえば多少劣るデザイナーでも、やっぱりコミュニケーション能力が高い人のところに仕事が行くんだよと話しています。
もし、コミュニケーション能力がないままだったら、そもそも転職も就職もできません。そうなるとデジタルハリウッドで技術を学ぶ意味そのものがなくなってしまいます。
元橋氏 デジタルコミュニケーションだけでなく、人間関係のコミュニケーション能力も同時に高めていくという教育に、本気で取り組んでいらっしゃるのは本当に素晴らしいことだと思います。
私たちはそれを専門でやっていますが、やはり世代がどんどん変わっていますので、その移り変わりにマッチした教育をやっていかなくてはいけないと思います。いま、要求されているのは「考える能力」と「話す能力」だと思います。これらが年々、低下しているのを痛感しています。というのは、「考えること」と「話すこと」は学校教育にはないのです。いまだに読み書きそろばんが中心ですから。私たちの学校が本気で教育していく必要があります。その能力が高まった人が、真のリーダーに成長してくれると考えています。
これからの時代に求められるのは
自分が何をすべきか理解している人材だ
――どういう人材がこれから求められると思いますか。
杉山氏 コミュニケーション能力を持っている人。そして、自分の将来のビジョンについて真剣に考える人間になってもらいたいと思います。自分がどうなりたいのか分かれば、人に何を伝えればいいのかも分かるはずです。
いまは職業の選択も自由です。しかしルールに縛られていないからこそ、自分がどうなりたいか知らないと路頭に迷う人生になってしまうと思うのです。なりたい自分を探すことを意識して、自分の人生を自分らしく全うしていける人になってほしいと思っています。
元橋氏 人として大事なものが失われてきているいま、それを復活させなくてはいけません。現在は自分のためにだけ生きているというのがはっきりしすぎてしまって、 人に対する関心が薄れてきています。 それがまたコミュニケーションを阻害している部分があります。
今後は、ますます表現力が豊かな、行動的思考を持った人材が求められるでしょう。人にいい影響を及ぼす人材が企業を守り、後進を育てていく。このような流れが求められます。それを実現させるためには、自分のモチベーションを高めて、組織というものをしっかりと見つめられる人材になってほしい。そう願っています。
社員の底力を高めるコミュニケーション力強化研修とは? |
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再考 人材育成シリーズ |
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その1 |
プロジェクトのデスマーチはPMを育成しない企業側の責任?! |
その2 |
会社の成長は社員の育成法で決まる?! |
その3 |
仕事の成果を上げるコミュニケーションとは? |
その4 |
コミュニケーション能力が仕事の出来を左右する |
提供:株式会社社員教育研究所
企画:アイティメディア営業本部
制作:アイティメディア営業本部
掲載内容有効期限:2006年11月30日
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会社概要 |
■株式会社社員教育研究所 ■本社 東京都新宿区西新宿1-1-6ミヤコ新宿ビル ■設立 昭和42年3月 ■代表取締役社長 元橋康雄 ■事業内容 ・一般企業の管理者の合宿訓練による能力開発 ・各種セミナーの開催 ・企業内教育の視聴覚教材の企画、制作、販売 |
社員教育研究所 新入社員研修 |
社員教育研究所の研修は「本物の知識を習得する研修(セミナーコース)」と、「本物の知識を使えるようにする研修(訓練コース)」の2つを両輪とし、お互いに相乗効果を発揮するように設計されています。 |
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