第3回 市場価値を高めたい人は成長分野を目指す
アデコ 大田耕平
2008/8/20
■市場でもっと評価されたい
山井さんは33歳で、業務系システム開発のプロジェクトリーダーです。私立大学の文学部を卒業後システムインテグレータに入社し、流通小売業界、製造業界のシステム開発に携わってきました。
プログラマからシステムエンジニアへ、そして4年前からマネジメント業務を任されるようになり、リーダー、プロジェクトマネージャと着実にキャリアを積んできました。私が転職の相談を受けたときは、大手自動車メーカーのインターネット系営業支援システム開発のプロジェクトマネージャを務めていました。
大田 今回の転職の目的を教えてください。
山井 新しいことを身に付けて、市場からより高い評価を得たいと思っています。システム開発の分野では、すべての工程でしっかりとした経験を積んできたと自負しており、さらに上のステップを考えて転職活動を始めたのですが……。
山井さんは、携わっていた自動車メーカーのシステムが無事リリースされ、安定稼働を始めたことをきっかけに、転職活動をスタートしたとのことでした。「市場に評価されるITエンジニアになるためにはどうすればよいのか」。そう考えるようになっていたのです。
当初、選考は順調に進み、大手システムインテグレータを含めた2社からプロジェクトマネージャとして内定を獲得したそうです。給与など条件面も悪くなかったといいます。しかし「転職先として決め手に欠ける、いま一歩踏み出せない」と感じ、いったん内定を辞退して転職活動をやり直していました。
山井 大手に転職したからといって、プロジェクトマネージャとしての仕事が大きく変わるとも思えなかったんですよね。給与アップのみを理由に転職をするのも気が引けるんです。
大田 お勤めの会社と業務内容に大きな差異がないため、転職のメリットを感じられなかったのですね。
山井 現職でもこのままプロジェクトマネージャとして現場でのキャリアを積むことが可能ですし、本社でPMOなどのプロジェクト全体をサポートする部門に進むこともできるんです。だから内定を辞退しました。とはいえ現職に残っても何かしっくりこないといいますか……。
大田 マネジメントより技術を追究したいというお考えがあるのですか。
山井 いえ、決してそうではなく、マネジメントには興味があります。ただ自身がマネジメントした結果を、客観的に評価されたいといいますか……、自社の売り上げに貢献できるような立場で働きたいと考えているのです。現職のマネージャでは、工数削減や開発の効率化においては一定の評価を得ていると思うのですが、仕事としての面白みに欠けるんですよね。
■成長産業でプロジェクトマネージャのスキルを磨く
プロジェクトをしっかりとマネジメントすることによって、さらに新しい案件を受注するなど、山井さんが会社の売り上げに貢献しているということはすぐに分かりました。しかし山井さんにとって、継続的にプロジェクトを受注することはやりがいにはつながらないとのことだったのです。
大田 システムインテグレータのビジネスモデルでは、いずれの企業でも山井さんが不満に思われている部分をクリアにすることは難しいかもしれませんね。完成品を開発しているソフトウェアメーカーやインターネットビジネスの会社でしたら、自社への貢献度も見えやすいですし、これまでの経験を生かしつつ、新たな専門知識を得られるのではないでしょうか。
山井 最近、よくインターネットで求人広告を見ます。インターネットビジネスには興味を持っています。
詳しく聞くと、自分と同年代の人が会社の経営層として頑張っている姿をブログで知ったり、早いスピードでサービスが進化していくのを目の当たりにしたりするのは非常に刺激的であり、興味を引かれるとのことでした。「自分はこのまま置いていかれてしまうのではないか」と思ったりもしたそうです。
大田 インターネットビジネスに用いられるシステムは、ライフサイクルが短いことから、基幹系システムとは開発ノウハウが異なっていると思います。ですから、インターネットビジネスでのプロジェクトマネージャというと求められる力も異なるでしょう。ただコア技術については、いま携わっておられる営業支援システムと近しいところはあるかと思いますし、工数の見積もりなどの経験は大いに生かせると思いますよ。
インターネット系自社サービスの開発なら、企画の段階から携わることができます。またビジネスモデルにもよりますが、ページビュー数やユニークユーザー数などでダイレクトに成果が分かるという点で、山井さんの目指すものに近いでしょう。成長産業であるインターネット系企業で山井さんが得るものは、システムインテグレータで経験すること以上に大きな価値になるのではないでしょうか。私はそう山井さんにお話ししました。
一念発起した山井さんは、ECサイトを展開している会社やSNSを運営している会社など、数社に応募。見事、ポータルサイト運営会社の内定を獲得したのでした。
システムインテグレータのプロジェクトマネージャからポータルサイト運営会社のプロジェクトマネージャへ。山井さんは、ビジネスをより身近に意識したプロジェクトマネージャへとステップアップしたのです。
インターネットビジネスという成長産業で、プロジェクトマネージャとしての専門性を磨くことは、そのまま山井さんの市場価値を高めることにつながると思います。
■市場からのニーズを意識した転職
蒲田さん、山井さんの2人の事例から「自分の価値を高めたい」をテーマにお話ししました。蒲田さんは25歳という若さもあり、幅広いキャリアの選択肢が得られるような技術、経験を積める企業への転職を決意されました。山井さんはITエンジニアとしての十分なキャリアを積んでいましたが、さらなる専門性、付加価値のためにインターネット企業へと転職しました。
転職のプロセスや転職先は異なるものの、2人が成功したポイントは共通しています。それは、今後進む分野が業界として需要があるかどうか、成長分野であるかどうかを重視していたことです。いわば、市場からのニーズを意識した転職だったのです。
終身雇用制が崩壊し、会社自体も淘汰(とうた)されることが多いIT業界。「いままで身に付けたスキルは通用するのか? 」と、常に外に目を向けてご自身の市場価値を確認しておくことは、キャリアアップを図るうえで非常に大事なことだと思います。
今回のインデックス |
いまの会社じゃ給料が上がらない蒲田さん |
キャリアは順風満帆、でももっと市場で評価されたい山井さん |
筆者プロフィール |
アデコ 人材紹介サービス部 コンサルタント 大田耕平 神奈川県出身。大学卒業後、大手独立系システムインテグレータに入社。システムエンジニアとして大手生命保険会社のシステム開発に携わる。アデコではIT業界のエンジニアの紹介を中心に幅広く担当。Webや紙媒体の求人情報では伝わりにくい部分を、ITエンジニア視点で求職者に伝えられるよう心掛けているという。 |
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