よりよい「ものづくり」を目指して
いま、注目されるQAエンジニア
長谷川玲奈(@IT自分戦略研究所)
2006/6/27
ソフトウェアの品質についての関心が高まりつつある。テンプスタッフ・テクノロジーは2006年4月から、QA(Quality Assurance:品質評価)に特化した育成型派遣制度「QA Pro」を開始している。いまなぜQAなのか、育成型派遣なのか。その背景を聞いた。 |
■IT分野からメーカーにシフト。ものづくりを意識して
テンプスタッフ・テクノロジーは「QA Pro」によって、組み込みソフトウェアのQAプロジェクト全体をマネジメントするリーダー候補を育成し派遣する。携帯電話や家電の高機能化に伴い、チェックやQAをこれまで以上に重要視するメーカーのニーズに対応する形だ。
筆記試験と2度の面接をクリアしたITエンジニアはテンプスタッフ・テクノロジーの社員として採用され、1カ月の研修を経て家電メーカー、電子機器メーカーなどで業務に就く。いわゆる特定派遣の形態である。研修の内容は組み込みソフトウェア開発の基礎、リーダー研修、CMMIの基礎などだ。
テンプスタッフ・テクノロジーのITエンジニア育成プログラムはJavaエンジニア向けの「Java Pro」(2002年開始)に始まり、ネットワークエンジニア向けの「Net Pro」やサーバエンジニア向けの「Server Pro」など、即戦力となるITエンジニアの育成と派遣を目指してきた。
テンプスタッフ・テクノロジー 取締役 東エリア営業部長 小板橋豊氏 |
システムインテグレータなどをターゲットとしていた同社が、メーカー向けの分野に注目しだしたのは2003年ごろ、「情報家電」「ユビキタス」などのキーワードがよく聞かれるようになったころだという。まずは2003年6月に組み込みエンジニア育成プログラム「制御Pro」を開始した。
このころは景気も低迷し、黒字のメーカーも多くはなかった。テンプスタッフ・テクノロジー 取締役 東エリア営業部長 小板橋豊氏は「組み込み分野への人材の需要はありましたが、提供はできていませんでした。人材がまったく足りていなかったので、教育して派遣していました」と当時を振り返る。その後景気は徐々に回復し、2004年には経済産業省が「組み込み元年」を宣言。組み込み分野への注目も増し始めた。
この流れを受けて、2004年9月には製品設計エンジニアを育成する「3DCAD Pro」を開始。今回新たに「QA Pro」を開始した。
小板橋氏はこの背景について次のように語る。「それまでは『Java Pro』などのIT業界向けプログラムを提供していたため、ものづくり業界に関しては正直、あまりノウハウがありませんでした。しかし組み込みソフトウェアというターゲットが1つ見えていたので、まずは試験的に『制御Pro』を始めました」。育成して派遣する組み込みエンジニアを40人、50人という規模にし、それと並行してマーケティングにも力を入れ、組み込み以外のメーカーのニーズを探ったという。「2番手、3番手という形で『3DCAD Pro』『QA Pro』を追加しました」
■注目されるQAエンジニア
そもそも、なぜいまQAなのか、そして派遣なのだろうか。QAエンジニアを派遣してほしいというメーカーからの要望は以前からかなり多かったが、2004年くらいからさらに増えてきたという。景気が回復し、携帯電話や家電の製品サイクルが短くなり、リリースのタイミングも早くなった。高機能、多機能化も目覚ましい。組み込みソフトウェアのソースコードも以前の10倍や20倍になり、それに伴ってチェック、QAがより重要になってきているという。
小板橋氏は「それほど家電製品に組み込むソフトの機能、ボリュームの伸びは激しく、天文学的といえるほどです。メーカーもQAの部署は持っていますが人員が足りず、新卒を採用して教育するまで待てない。そこでわれわれが人材を教育して送り込むわけです」と説明する。即戦力として育成されたQAエンジニアの派遣が求められているということのようだ。
1990年代のいわゆる「空白の10年」にメーカーがあまり社員を採用しておらず、若手から中堅の層が薄いということも要因になっているようだ。「自社の社員は製品開発に投入したい」という事情もあるという。
■「モノづくりソリューションチーム」のリーダーとして
メーカーをターゲットとした商品がそろったため、これらをひとまとめにして「モノづくりソリューションチーム」とし、人材だけではない総合的なサービスとして提供することになった。小板橋氏は「もともとの制御やCAD分野での人材育成は、社内の担当部署がばらばらでした。そこで、ものづくりに特化するという意味で2005年10月に組織変更を行いました。『モノづくりソリューションチーム』としてソフトウェアの面、ハードウェアの面、品質・テストの面をひとまとめのチームで提供できるようにしたのです」と話す。
「QA Pro」のリーダー候補は、この「モノづくりソリューションチーム」をけん引するリーダーとして育成される。小板橋氏は「QAエンジニアに関しては、もともと組み込み分野などよりも供給力があり、派遣もしていました。今回新たに始めたのは、QAチーム全体を束ねられる人材を育てていくというところです」と語る。リーダーの育成によって、QAチームを丸ごと派遣することが可能になるということだ。「ただ人材を派遣するのではなく、チームとして派遣することで、社員の教育や管理の点でお客さまの代行ができればと考えています。それによってより良い結果を伴いつつ、お手伝いをすることができます。派遣しているQAエンジニアの中にも素養のある人がいるので、そういう人をリーダーとして育成していきます」
■採用試験と提供される研修
「QA Pro」の実際の採用試験は、2度の面接で経歴の確認をし、リーダー適性やヒューマンスキルを見るほか、オリジナルの適性試験・QA筆記試験が実施される。「QA筆記試験は、Windowsアプリケーションの開発経験があればだいたい分かるような内容」(小板橋氏)だという。募集対象はQA業務経験者・リーダー経験者だ。募集と採用はすでに始まっていて、要望に合わせて育成していくという。「毎月何人という目標があるわけではなく、適した人を採用します。レベルを落としてまで採用することはしません」(小板橋氏)という。
QAエンジニアのリーダーに向いているのはどのような人か聞いてみた。小板橋氏は「まずものづくりが好きなこと。ものに興味がある人、コツコツ作業ができる人が望ましいです。採用活動ではそういう適性を見ています」という。年齢は20代後半から30代後半だそうだ。
採用されたQAエンジニアは、組み込みソフトウェア開発研修、QAリーダー養成研修、CMMI関連の研修などを1カ月間受けた後、メーカーにて就業する。就業後もプロジェクトの合間にブラッシュアップ研修が提供される。
小板橋氏は「ブラッシュアップ研修の目的は2つあります」と説明する。「社員のスキルの偏りを修正することと、QAエンジニアの福利厚生です。QAチームが丸ごと常駐するようなメーカーだと、1つの製品を作ってプロジェクト終了ということはなく、また同じカテゴリの新製品に携わることになります。メーカーがその分野から撤退しない限り常駐し続けることになります。1プロジェクトという意味だと区切りがありますが、そのメーカーで就業する期間は区切りがないようなものです。QAエンジニアはそのメーカーの、携帯電話なら携帯電話しか知らないことになります。こういう状況を、ほかの知識を定期的に学ぶことによってカバーするのです」という。
■QAエンジニアの今後
小板橋氏は「組み込みソフトウェアのQAの研修を体系立てて行える会社は、世の中にあまりないと思います」と語る。一方で、QAチームへのニーズはどこにでもあるという。
QAエンジニアのチームでの派遣は今後増えていくのだろうか。「増えていくと思います。今後はQAチームを育成していく中から、次のメーカーに派遣するリーダーを輩出するという流れでやっていきます。そうした方が人は育ちますから」と小板橋氏はいう。
「最終的には、1つの製品に最初から最後までかかわりたいという希望があります。まだそこまでの段階にはいっていませんが。
米国ではQAエンジニアの地位は高いのです。日本だと地位が低く見られがちなので、そこを上げていきたいという思いがあります」
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