第4回 コミュニティへの参加は社員と企業の信頼の下に
千葉大輔(@IT自分戦略研究所)
2007/11/28
オープンソースコミュニティなどのコミュニティや、そこに入り積極的に活動をするITエンジニア。企業はそうしたコミュニティやITエンジニアをどうとらえているのだろうか。 |
有志が集まる勉強会や開発コミュニティなど、積極的に社外で活動するエンジニアをどう見ているのか、理想的な姿とはどこにあるのか。今回、話を聞いたのは日本ヒューレット・パッカード(HP) コンサルティング・インテグレーション統括本部 ソリューション技術本部 ソリューション統括担当部長 吉田豊満氏とエンタープライズストレージ・サーバ統括本部 Open Source & Linux推進部 推進マネージャ 赤井誠氏。ハードウェアベンダとして、世界中で多くのITエンジニアが働いているHPでは、社員のコミュニティ活動をどのようにとらえているのか探る。
■HPの根底にあるSBC
日本ヒューレット・パッカード コンサルティング・インテグレーション統括本部 ソリューション技術本部 ソリューション統括担当部長 吉田豊満氏 |
HPにおける社員とコミュニティのかかわり方には2種類あると赤井氏はいう。1つは業務として、Linuxなどオープンソースソフトウェア(OSS)のコミュニティにかかわるというケース、もう1つはまったく業務と関係のないところでコミュニティ活動に参加するというケースだ。
赤井氏によると、現在HPでは、サーバやPC、プリンタといった延べ数百のHP製品に、何らかの形で幅広くオープンソースソフトウェア(OSS)が使われているという。そして2500人以上の開発者、6500人以上のサービス担当者が業務としてOSSに携わっているという。
「主にサーバとストレージを組み合わせての検証作業や、プリセールス、サポートに当たっているメンバーが多いです。HPの基本的なルールとして、HPがOSSをソリューションとして提供するときは、HP製品と同じように扱う体制を取っています。検証作業やサポートのほかにはドキュメントの日本語化や、知的財産については、法務などがチェックを行っています」と赤井氏。
一方、プライベートでコミュニティにかかわっている人については、正確な人数は把握していないが、HPが協賛するイベントなどに足を運ぶと「結構声を掛けられる」と赤井氏はいう。
これだけ多くの人がOSSに携わる中で、会社としてOSSコミュニティにかかわる際のガイドラインは設けているのだろうか。業務としてOSSコミュニティにかかわるとき、また業務から離れてコミュニティとかかわるとき、その考えとなるベースにあるのは、HPの業務上の行動指針である「Standard of Business Conduct」(SBC)だ。
「具体的にいうと、業務でかかわる場合は他社(自社も含めて)の知的財産を侵害してはいけないといったことなど、幅広くビジネス倫理を押さえ、プライベートの場合は、会社の利益に相反しないということを理解する必要があります。OSSコミュニティの中には企業色の強いものもありますから、場合によっては自社の利益に反する可能性もあります。そういうときには上司と相談したうえで参加するようにしてくださいという形を取っています。考えのベースとなるのはSBCであり、それを理解したうえでやってくださいということです。会社自体がOSSコミュニティへの参加自体を阻害することはないですね」と赤井氏は説明する。
■社員を信頼する企業文化
日本ヒューレット・パッカード エンタープライズストレージ・サーバ統括本部 Open Source & Linux推進部 推進マネージャ 赤井誠氏 |
実際に吉田氏のチームのメンバーの中にも、業務とは直接の関係はないが、OSSコミュニティに参加し、雑誌への寄稿や書籍の執筆など積極的に活動している人がいる。ただ、そうした際も、上司である吉田氏に相談したうえで活動しているという。
「社外活動のための承認のプロセスがあるというわけではありませんが、SBCに反しないようなことであれば特に問題なく許可というか「チャレンジしてみたら」といっています。ただ、許可といっても「○○しなさい」という業務命令ということではありません。それぞれが自分自身でちゃんと計画をして、国内外のいろんなイベントに参加するといった活動をしています」と吉田氏は話す。海外のイベントでは、1週間ほどのイベントもある。会社によっては、そんなに長い休暇を認められないという場合があるかもしれないが、HPの場合はそういったことはないという。
こうした社員の自由な活動を支援する背景には、HPのある考え方がある。それは「人間は男女を問わず、良い仕事、創造的な仕事をやりたいと願っていて、それにふさわしい環境に置かれれば、誰でもそうするものだ」という理念だ。
「HPには、従業員にちゃんとした環境を与えればちゃんとしたパフォーマンスを出すという性善説に基づいた会社の文化があります。吉田がメンバーに『チャレンジしてみれば』という前提には、満足して仕事ができる環境があれば、パフォーマンスはちゃんと出すという信頼なんですね」と赤井氏はいう。
■社内のコミュニティでも情報の共有を
そうしたコミュニティ活動で得た知識などのフィードバックは、社内で行われているのだろうか。「そういったことも特に強制してないですね。社外で得た知識で役立ちそうなものがあれば、紹介してみたらというくらいです」と吉田氏。
HPには「プロフェッション」と呼ばれる社内コミュニティがあり、そこではLinuxに関するコミュニティやHP-UXに関するコミュニティ、あるいはプロジェクトマネージャが集まるコミュニティやビジネスコンサルティングに関するコミュニティなど、約20のコミュニティがあるという。SNSを設置して情報の交換や、定期的に勉強会を開催するといった活動を行っている。その中にOSSに関するコミュニティもあり、情報交換を行うほか、外部の人を招いて講演をしてもらうこともあるという。
「ワールドワイドでも、そういったコミュニティがあり、HPのOpen Source&Linux Chief Technologistであるビーデイル・ガービー(Bdale Garbee)を中心に、OSS界で活躍している人に講演してもらうといったこともあります」
■円満なコミュニティ活動には企業の理解が不可欠
赤井氏は「僕自身もエンジニアだったとき、よくコミュニティに参加していましたが、集まればテクノロジの話をするので、勉強になるんですね。インターネットの技術を覚えたのは、ほとんどそういうところでの話からでした」とコミュニティに参加することのメリットを語る。しかし、そうしたコミュニティ活動を行っていくには会社の理解も必要となる。HPでは今後も企業理念と行動規範を軸に社員のコミュニティ活動を支援していくだろう。
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