第1回 勉強会は、講師と受講者のライブセッションだ
よしおかひろたか
2008/7/29
エンジニアの開催する勉強会が増えている。本連載では、かつてシリコンバレーで「勉強会の文化」に身を置き、自らも長年にわたって勉強会を開催し続けている「生涯一プログラマ」のよしおかひろたか氏が、勉強会に参加し、開催するためのマインドとノウハウを紹介する。 |
勉強会が熱い。「IT勉強会カレンダー」を見るとよく分かる。これはhanazukinさんが個人でまとめている、IT系の勉強会のカレンダーだ。
IT勉強会カレンダー |
開催場所を見ると、さすがに東京が多い。しかしそれ以外にも、大阪、福岡、沖縄、島根など、日本全国津々浦々、毎日なにがしかの勉強会が開催されている。規模もほんの数人から100人を超える大規模なものまで千差万別である。
われわれはなんと勉強会が好きな国民なのか。一億総勉強会フリークなのか。
本連載「初めての勉強会」では、勉強会好きなあなたや、そうでないあなた、一度も勉強会に行ったことがないあなた、さまざまな人を対象に「勉強会」の面白さ、楽しさを伝えていくことを目的としている。自分は特に引っ込み思案で、人見知りだから、と思っている人や、一度も勉強会に行ったことがない人にこそ、この連載を読んでほしい。
■連載「初めての勉強会」の趣旨
私は1990年代半ば、米国西海岸、いわゆるシリコンバレーでデータベース管理システムの開発を行うプログラマとして働いていた。その地では、いろいろなユーザーグループ、例えば、Linux Users Groupなどが頻繁に会合を開催していた。多くの会合は誰でも自由に参加でき、若い人もお年寄りも、男も女も、中国人もロシア人も、とにもかくにも、誰でも参加でき、活発に議論をしていた。
私も英語が十分に扱えないというハンディキャップはあったが、さまざまな会合に参加した。そうしてこの自由闊達(かったつ)な議論の場が、やや大げさにいえば、シリコンバレーでの知識の流通において、極めて重要な役割を担っていると感じた。新しい価値を創造していくというプロセスにおいては、人材の流動性やインフラの充実は無視できないものの、勉強会のような自由に議論する場の構築こそが本質的なものなのではないか。私は勉強会に対し、そのような確信に近いものを感じた。
私はこの連載で皆さんをたき付けたいと思う。勉強会を利用し尽くし、シャブリ尽くすことを勧め、その方法論をここで紹介する。
自分が技術者として楽しく生きていくために。あるいは、多くの楽しい勉強会が開催される社会を構築するために。勉強会に参加し、開催し、自分をさらけだして、豊かな人生を送る。そのためのちょっとしたコツとして、どのように勉強会を利用するのかを、皆さんと考えていきたい。
■私が「初めての勉強会」を執筆する理由
私事で恐縮だが、私はミラクル・リナックスに勤めているプログラマである。2000年に創業したこの会社の創業メンバーとして8年間、取締役最高技術責任者(CTO)を務めた。そして、2008年6月末で退任し、1人のプログラマとして勤務している(参考:「ユメのチカラ: 取締役退任。生涯一プログラマ宣言。」)。技術者として会社に、そして社会に貢献するため、自分自身、勉強を継続していかなければと感じている。
現役の技術者であり続けるためには、勉強会のような場が必要なのである。自分で勉強会を開催するだけでは足りない。質が高く、自分が参加したいと思うような勉強会が、自律的に、雨後の竹の子のように乱立する状況。私自身がそれを必要としているのだ。
私は「カーネル読書会」というLinux Kernelに特化した勉強会のようなものを、横浜 Linux Users Group(YULG)の有志とともに、1999年4月から継続して開催している。その中で培った幾ばくかのノウハウやティップスも、この連載で公開していきたい。もちろんさまざまな要因があって、必ずしもカーネル読書会のような運営がベストではないだろうし、適用できないものも数多くあると思う。しかし、そのような情報を広く公開することによって、ベストプラクティスがどんどん構築されていくことを願っている。
これは勉強会を開催する側にとって、参考になる情報のはずだ。開催側のノウハウが広く流通するようになれば、勉強会開催のハードルが下がり、ますます良質な勉強会が開催されるようになるだろう。私はそのような状況を望んでいる。
私がこの連載を書く強いインセンティブは、私がこの連載を必要としているからである。
能書きはこのくらいにして、今回は勉強会に「ともかく参加してみる」ということについて考える。
■勉強会に参加するメリット
勉強会に参加するメリットとして、次のようなことが考えられる。
(1) その分野の勉強ができる
インターネットには情報があふれている。書店に行けば、おびただしい数の専門書がある。勉強の機会はそこかしこにあるはずだ。にもかかわらず、なぜ「勉強会」なのか。それは、そこに行けば勉強ができ、何らかの知識を獲得できるからだ。
どんなに情報があっても、勉強しなければ、それはないことに等しい。
わざわざ勉強会に行くということは、その1時間なり2時間なりの間、否応なく勉強をすることになる。それは単なる知識の獲得という意味の勉強だけではなく、勉強の仕方や、知識の獲得方法というメタな方法も学べるかもしれない。
インターネットの断片的な知識や書籍だけでは得られないナマの情報が勉強会にはある。講師から、なかなか文字にはしにくい暗黙知が得られたりもする。
(2) その分野の専門家や、同じ興味を持っている人と出会える
勉強会にわざわざ行くということの最大のメリットは、自分が勉強したいと思っている分野について、同様に興味を持った人と出会えるということである。
その道の専門家かもしれないし、ひょっとしたら自分と同じ初学者かもしれない。初学者には初学者なりの悩みや、つまずきどころがある。そのようなものを共有できるかもしれない。
この記事をここまで読んでくれた人は、何かしらのものを学びたいと思っているから読んでいるのだろう。そうすると、(1)は当然としても、(2)のメリットについて、強く意識したことがないかもしれない。しかし、同好の士と知り合うことのメリットはもっと強調されていいと思う。
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