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コラム:自分戦略を考えるヒント(4)
偶然を起こし、偶然を生かす方法

〜キャリアの8割は偶然に支配される!〜

堀内浩二
2003/9/18

こんにちは、堀内です。今回も、読者の皆さんからいただいた電子メールから話を始めましょう。前回のコラム「やる気がわいてこないときの対処法」に対してこんなコメントをいただきました。

☆「夢想こそ、やる気の原点」〜読者からの声
 「戦略」も、数多くのシミュレーションを事前に立てて、「コレが駄目ならアレ、アレも駄目ならコレでいこう」と次々に策を準備していくことは、戦争に限らず会社をマネジメントするには大切なことかもしれません。

 でも、キャリアビジョンの立案についていえば、あまりち密な「計画」や「戦略」に縛られたくありません。人生は思いがけないことが起こるから楽しいし、思いどおりにならないからこそ、チャレンジ精神がわいてくるのではないでしょうか。

 
「自分戦略」は大事だけれど、結果的に自分を縛りつけるだけならば可能な限り回避したい。夢想こそ、やる気を引き出す原点だと思うのです。

人生は思いがけないことが起こるから楽しい!

 「人生は思いがけないことが起こるから楽しいし、思いどおりにならないからこそ、チャレンジ精神がわいてくる」――いい言葉です。私もそう感じます。「夢想こそ、やる気を引き出す原点」も賛成。言葉選びが上手でうらやましい。

 ただ、「自分戦略=ち密な計画=自分を縛る」というのではないと思います。自分を縛るものをなるべく減らすため、やりたいことを少しでもたくさんやるためでなければ、わざわざ時間を費やしてまで「自分戦略」など考えたくもありません。

 「戦略を立てる=不確実性を排除する」ではないと思います。前回も触れましたが、 計画したからといって「思いがけないこと」はなくならないのです。

 では「思いがけないこと」、すなわち「偶然」とどう付き合うか、今回はこれについて考えたいと思います。

キャリアの8割は偶然の出来事で決まる

 『キャリアショック―どうすればアナタは自分でキャリアを切り開けるのか?』(高橋俊介著、東洋経済新報社)という本の中に「好ましい偶然を起こす」という話が出てきます。意識的に起こせるなら、それは偶然ではありません。「プランド・ハップンスタンス・セオリー」という理論が紹介されているので、ちょっと引用します。

☆「好ましい偶然を起こす」〜プランド・ハップンスタンス・セオリー
 一言でいえば、「プランド・ハップンスタンス・セオリー」とは、変化の激しい時代には、「キャリアは基本的に予期しない偶然の出来事によってその8割が形成される」とする理論だ。

 そのため、個人が自律的にキャリアを切り開いていこうと思ったら、偶然を必然化する、つまり、偶然の出来事を自ら仕掛けていくことが必要になってくる。

 理論というより考え方に近いですが、「偶然8割」というのは感覚的にうなずけます。

 ここで、ちょっとしたエクササイズを提案しましょう。筆記用具があればできます。まず、転職でも結婚でも家探しでもいいのですが、比較的大きなライフイベントを思い出し、「あのとき起きた偶然の出来事」というリストを作ってみてください。

 わたし自身の例をもとに「最初の転職時に起きた偶然の出来事」のリストを作ってみました。

  1. 「偶然」あるベンチャー(以下A社)の設立をメールニュースで読んだ
  2. その数日後、「偶然」参加しているメーリングリスト(以下ML)の1つにA社の親会社の人がいて、イベント参加のために米国に出張してくることが分かった(注:わたしは当時米国勤務中)
  3. 「偶然」にも、わたしも同じイベントに参加する予定だったので、会う約束をした
  4. 会ってみると「偶然」なことにその方は子会社のA社の業務を担当していたので、一気に話が弾んだ
  5. 「偶然」仕事の区切りもよく、都合のよいタイミングでA社に転職できた

「どうしてその偶然が起きたのか」を考える

 そもそも転職に対してはいつも「ご縁があったら」くらいの気持ちではいましたが、積極的に転職しようと思って活動していたわけではありません。(1)のメールニュースも(2)のMLも毎日読んでいたわけでもないし、もしMLを先に読んでいたら、その方が出張で近くに来るという話は記憶に残らなかったでしょう。しかも、このMLに入会したのは1週間くらい前のことで、そろそろ脱会しようかなと思っていた矢先の出来事でした。(3)〜(5)は偶然としかいいようがありません。

 細かいものまで考えると、10個くらい「偶然」の鎖をつなげることができますが、この中の1つでも途切れていたらA社に転職しなかったかもしれません。こんな偶然を意図的に仕組むことはできませんから、「偶然の出来事を自ら仕掛けた」とはとても思えません。いま思えば、意外に細い糸を伝ってきたんだなと感慨を新たにしてしまいました(笑)。

 ここで偶然の神秘を感じて終わるだけでは「自分戦略を考えるヒント」になりません。いま作ったリストの1つ1つについて、「どうしてその偶然が起きたのか」を丹念にたどってみます。名付けて「偶然を起こした風のリスト」。

 ちょっとこじつけでもいいですからやってみると、大概の偶然はこちらから発信した情報がきっかけになっていることが実感できます。例えば、上記の(2)でいえばこんな感じです。

・どうしてそのMLに入会したのか?→友人に薦められたから
・どうして友人はそのMLを薦めたのか?→新規事業とかベンチャー経営の話をしていたときに、参考として教えてくれた

・どうしてそんな話をしていたのか?→何かの本を読んだ感想を彼に話したから

・どうしてその本を読んだのか?→忘れたが、興味があったのだろう

自分の意志が「偶然の確率」を高める

 「その本」を読まなければ友人と「そんな話」をすることもなく、「そのML」を知ることも入会することも、A社の親会社の「その方」との出会いもなかったのかもしれません。とすると、(2)の偶然を演出したのは「その本」を読んだ自分の意志だったことになります。リストを眺めていると、意志が一貫していれば、このルートでなくてもいつか「その方」、あるいはA社にたどり着く道はあったのかもしれません。

 こうして考えると、結果的に起きたことは1000分の1の偶然であっても、それは本来1億分の1くらいの偶然であったものが自分の意志に基づいた情報収集や発信が布石となり、1000分の1の偶然にまで高まってきたのだ、ということが分かります。

 わたし自身のケースでは、「偶然」の鎖がどこかで切れればA社に転職しなかったかもしれません。でも「こういう経験をしたい」という意志を明らかにして布石を打ち続けていれば、自分の希望にかなう選択を可能にする、別の「偶然」が訪れたかもしれません。

「偶然を生かす」という発想

 『キャリアショック』を読み終えた後、“偶然”にもまた偶然に関してグッとくる表現を見つけました。田坂広志氏の『まず、戦略思考を変えよ』(ダイヤモンド社)という本の一節です。

☆「波乗りの戦略思考」〜『まず、戦略思考を変えよ』より抜粋
 「波乗り」のメタファー。それこそが、現代の市場における新しい戦略思考を考えるときに有効なメタファーである。これまでの「山登り」の戦略思考は、基本的に「偶然性」というものを否定し、排除しようとしてきた。

 「波乗り」の戦略思考とは、「偶然」というものを積極的に利用しつつ、あくまでも自らの「意志」の求める方向に向かっていくという戦略思考のスタイルである。

 波に運ばれることの「偶然」と、その波を乗り切って目指す方向に向かおうとする「意志」の弁証法。

 「偶然」に任せているようで、明確な「意志」を持ち、「意志」に従っているようで、「偶然」を積極的に生かす。そうした弁証法的な思考こそが、「波乗り」の戦略思考の本質である。
 

 上記のエクササイズを試された方には、染み入るように分かる文章ではないでしょうか。そこで最後のエクササイズ。前出の「あのとき起きた偶然の出来事リスト」を眺めながら、「偶然を生かす」ために、意識的に行ったことを書き出してください。題して「偶然を生かした波乗りのリスト」とでも呼びましょう!

 わたしの「波乗り」を思い返してみると、(3)の偶然が起こった後に大急ぎで職務経歴書と「自分だったらA社をどう伸ばしていくか」という企画書を作りました。正直いって、転職には大いに迷いましたし、会う方がA社の設立話を知っているのかどうかも分からなかったので、企画書を見せることも成り行きに任せていました。

 しかし、結果的には(4)の偶然の波に乗って、「こういう経験がしたい」という機会に向けて身を運んだことになります。

1億分の1を100分の1の偶然にする!

 いかがでしたか。自分の過去のライフイベントにおいて、「波(偶然)を起こした風」と「その波に乗って目的に向かった自分」を感じることができましたか?

 「波乗りの戦略思考の本質である弁証法的な思考」などと呼べば、とても難しい話に聞こえますが、「意識的にせよ無意識にせよ」、みんな生活の中で経験していることです。

 そもそも自分の「目指す方向」を考えること。そして、1億に1つの偶然を100に1つの偶然にするためにいまできることを考える。そして自発的に動き出すこと。「起-動線」が支援したいのは、そんなことなのです。

筆者紹介
堀内浩ニ●アーキット代表取締役。早稲田大学大学院理工学研究科(高分子化学専攻)修了。アクセンチュア(当時アンダーセンコンサルティング)にて、多様な業界の基幹業務改革プロジェクトに参画。1998年より米国カリフォルニア州パロアルトにてITベンチャーの技術評価プロジェクトに携わった後、グローバル企業のサプライチェーン改革プロジェクトにEビジネス担当アーキテクトとして参画。2000年に帰国、ソフトバンクと米国VerticalNet社との合弁事業において技術および事業開発を担当。

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