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コラム:自分戦略を考えるヒント(5)
失敗から無理なく立ち直る方法

〜成功の基準をどこに設定すればいいのか〜

堀内浩二
2003/10/16

こんにちは、堀内です。今回は、先日ランチをご一緒したITエンジニアの三浦直人氏(仮名・31歳)との会話から。前回のコラム「偶然を起こし、偶然を生かす方法」を読んで「面白かった」と感想をくれたのですが、「僕はいま自分戦略を考えるどころではありません」と弱気な発言。詳しく話を聞いてみると……。

プロマネに抜てきされたものの……

 ITエンジニアの三浦氏は、半年ほど前に初めて開発プロジェクトを1つ任されました。メンバーは8人ほどで納期にも余裕があったので、「そろそろプロジェクトマネジメントの経験を積んだ方がいい時期」と直属の上司からアサインされのです。

 ところが結果は「失敗」……。進ちょく確認会議のたびにお客さまからの追加の要望を断り切れず、ずるずると工数が膨らんでいきました。結局、納期の1カ月ほど前に「火消し役」として上司に参画してもらい、さらに開発メンバーも1名増員してもらい、何とか納期に間に合わせることができました。三浦氏にとっては精神的、肉体的にもつらい1カ月でした。

マネージャとしてのスキル不足に悩む 

三浦 自分で振り返ってみると、プロジェクトマネージャはまだスキル的に無理だったかなという気もするし、今回の件で、そもそもプロマネに向いていないのではないかとも思いました。

堀内 もともとプロマネ志向だったのですか。

三浦 ええ。「1人ではできないことをメンバーで力を合わせて成し遂げる」ようなチーム作業がすごく好きで、独りで仕事をやり続けることにこだわりはありません。ただ、自分だけの失敗なら徹夜しても仕方ないと思えるのですが、今回のようにオンスケジュールで動いているメンバーに追加の仕事を頼んだり、上司にも無理なお願いをしたり、顧客とプロジェクトスコープの交渉をやったり、そういう「他人に負担をかける」ことが、心理的に大きな負担でした。

堀内 コミュニケーションのほかに、「心理的に負担を感じたこと」はありましたか。

三浦 そうですね。例えばユーザーインターフェイス(UI)とか。僕が詳しくない部分で質問されても、どうしようもない。「なんとかして調べてくれ」というしかなくて。「これじゃあ、周囲や部下からも信頼されないだろうなあ」と悩みました。もっとマネージャとしてスキルや知識面において基礎固めをするべきだと思いました。プロマネになることは、それだけ大きな重責がつきまとうものだと痛感しました。

堀内 もう失敗はコリゴリだと……。

三浦 進んで失敗したい人はいないでしょう。

成長のない成功は“真の成功”と呼べない

堀内 まあ、それは置いておくとして。ところで、絶対に失敗しない方法って知っていますか。

三浦 なんですかニヤニヤして。その方法を知っていたらこんな話をしませんよ(笑)。

堀内 それは「少しでも失敗しそうな仕事は絶対にしないこと」。自分がいままで経験したことがあり、ルーチン作業でこなせる仕事に特化すれば、リスクは最小限になります。

三浦 それは極端な話ですよ。リスクを恐れてばかりいたら31歳にして成長が止まっちゃうじゃないですか……。ああ、いいたいことが見えてきました。

堀内 いま「成長」という、いいキーワードが出てきましたね。「失敗」の反対は「成功」ですが、三浦さんにとって「成功は単に失敗しないこと」ではないのです。そこに「成長」がなければ「成功」とは思えない。「成長のない成功は真の成功と呼べない」ということです。

 「成長」しようと思ったら、少しずつでも未知の領域に踏み込んでいかなければなりません。未知の領域に踏み込むということは、リスクを取るということです。リスクを取るということは……?

三浦 (リスクを取ることは)「失敗」することもある、ということですね。

堀内 そうです。先ほど「進んで失敗したい人はいないでしょう」といわれましたよね。確かに失敗したい人はいないかもしれませんが、成功を目指すには失敗が避けられないものであることを知っている人はいます。三浦さんに私の好きな言葉を1つプレゼントさせてください。「失敗は繰り延べられた成功である」という言葉です。

☆失敗は成功への序曲〜『情報選択の時代』から抜粋
 ここに列挙した人たちは、失敗を理解し、失敗に耐え、ときにはあえて失敗を招こうとさえした。彼らは、ひらめきに刺激され、自信満々の状態と、ひどく不安な状態を繰り返したが、失敗を不名誉なこととは思っていなかった。彼らはこう言えたのだ。「うん。そっちはダメだった。でもこっちを見てくれ」

 彼らは失敗を敗北の印ではなく、成功への序曲、あるいは認められるためのステップや途中経過と考え、大きな成果を引き出した。「繰り延べられた」成功である。彼らは失敗をしっかり受けとめ、それを仕事を進めるうえでの創造の原動力として活用した。彼らの人生は失敗の繰り返しだった。

成功の基準をどこに設定するのか?

三浦 なるほど。失敗から何かを得ることができるのならば、それは成功へのワンステップです。そういえば、そんな話をどこかで読んだような……。

堀内 数年前から「失敗学」という言葉も流行しています。また、「成功するまであきらめなければ失敗にならない」などともいいます。

三浦 そこまでいうと何だか根性論みたいで、ちょっと引いちゃうなあ。

堀内 そうですね。ただやみくもに努力できるものではありません。大事なのは、そんなつらい思いをしてまで成長したい、成功したいと思う、その理由は何かを常に自分に問い掛けることです。

三浦 例えば……?

堀内 「その理由」は三浦さんにしか分からないので難しいですが、例えば、さっき「1人ではできないことをメンバーで力を合わせて成し遂げる」ことが好きだと話していましたよね。これは就職活動のときによくいいがちなセリフだったりします。でも、社会人を何年か経験したいまでも、本心からそう思えるのか。そうだとしたら、どういう立場に自分を置きたいのか。それを見つけて、意識するのが……。

三浦 自分戦略だと(笑)。でも、食えなければ仕方がないですよね。食えるスキルとか職種とかって、やっぱりあると思うのですけど。

堀内 もちろん。「食えなければ仕方がない」と、多くの方が決まり文句のようにいいます。ちなみにこれの企業版は「慈善事業じゃないんだから」「理念じゃメシは食えない」です(笑)。別に好きなことだけしたいわけではない。どんな基準で「いまの仕事を成功と考えるのか」「仕事を通じてどういう成長をしたいのか」。そこをしっかり考えようということです。

三浦 そうすれば、失敗も次に生かせると……。

堀内 そのとおり! 目的なしに取り組んで失敗しても、得るものはありません。失敗から得ることができるとすれば、それは成功イメージと比較して初めて可能なのです。「成功したい理由」を考えることは、目的意識を明確にすることですから、自分にとっても会社にとってもメリットがあるのです。

個人的目的も上司と共有しておく

堀内 余分な負荷を背負ってくれとメンバーに頼むのがイヤだということでしたが、誰でも失敗プロジェクトよりは、大成功プロジェクトを職務経歴書に加えたいものです。マネージャがメンバーに窮状を打ち明けず、後から「そんなことなら、いってくれればやったのに……」なんてことになったら本末転倒ですよね。

 上司もメンバーも顧客も、「プロジェクトの成功」という大目的は共有しています。その業務上の目的に向かっていく中、大目的と併せて実現したい個人的な目的は何か。そういう個人的な目的も上司と共有しておいた方がいいと思います。まっとうな上司だったら、それを尊重するようなサポートをしてくれるはずです。

三浦 大いに参考になりました。失敗にも「いい失敗」と「悪い失敗」があるということですよね。今度チャンスがあったらもう一度手を挙げてみようと思います。

筆者紹介
堀内浩ニ●アーキット代表取締役。早稲田大学大学院理工学研究科(高分子化学専攻)修了。アクセンチュア(当時アンダーセンコンサルティング)にて、多様な業界の基幹業務改革プロジェクトに参画。1998年より米国カリフォルニア州パロアルトにてITベンチャーの技術評価プロジェクトに携わった後、グローバル企業のサプライチェーン改革プロジェクトにEビジネス担当アーキテクトとして参画。2000年に帰国、ソフトバンクと米国VerticalNet社との合弁事業において技術および事業開発を担当。

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