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コラム:自分戦略を考えるヒント(19)
自己投資とキャリアアップの戦略

堀内浩二
2005/5/13


 つい先日ランチをご一緒したプログラマの山本さん(仮名・26歳・男性)。社内には希望の仕事がなく、転職を考えられています。「資格取得に自腹で1万5000円は多いか、少ないか」(キャリア実現研究室)という記事をきっかけに、自己投資とキャリアアップの関係について一緒に考えてみました。


山本 堀内さん、この「資格取得に自腹で1万5000円は多いか、少ないか」、読みました?

堀内 読みましたよ。

山本 月に1万5000円はずいぶん多いなと思いましたけれど、実際どうなんでしょうね。

堀内 わたしもタイトルを見て「平均にしては多いな」と思いました。ただ記事を読むと、1万5000円というのは自己投資をしていると答えた人の平均の投資額のようですね。自己投資をしていないと答えた人も含めた全体の平均を計算してみたら、5500円くらいでした。

 また、記事のタイトルは「資格取得」ですが、回答者への質問は「月々の給与をキャリアアップのために使っているか?」となっています。IT系の資格取得だけでなく、語学スクールとかビジネススキルの学習などへの投資も含まれた額でしょう。

キャリアアップのためにできる自己投資とは何か

山本 よく「資格だけでは転職の武器にならない」といいますよね。あれは本当なんでしょうか。

堀内 そうですね、資格自体は転職にとってマイナスにはならないと思いますが、「資格よりもそれまでの経験の方が圧倒的に重視される」という点は間違いないでしょう。

山本 うーん、でもいまの会社で希望するような経験が積めない場合はどうすればいいんでしょう? やっぱり「資格で転職」しかないような気がするんですけど……。

堀内 では、自己投資とキャリアアップとの関係をちょっと整理してみましょうか。「自己投資して何を学ぶか」と「転職を前提にするか」で戦略っぽくマトリックスを作ってみると……(図1)。

図1 自己投資して学ぶことと転職との関係

堀内 自己投資して学ぶのが現在の専門か現在の専門以外か、転職を前提とするかしないかの組み合わせで、A〜Dの4つのマスができます。現在地は現在の専門、転職を前提としない左下のAのマスです。

 自己投資して学ぶといっても、いろいろな目的がありますね。例えば「今回のプロジェクトで学んだ知識を体系化しておこう」という目的であれば……。

山本 現在の専門で、転職を前提としないから、Aのマス、「定着」ですね。

「専門の壁」と「会社の壁」

堀内 さっきの「いまの職場ではやりたい仕事がもらえないので、資格を取って転職」という話では、AのマスからDのマスに行こうとしていることになります。

山本 Dのマス、「冒険」ですか。

堀内 無理ではないにせよ、「専門の壁」と「会社の壁」、越えるべき壁が2つありますね。その壁を越えるために資格がどれくらい役に立つものかを考えてみましょう。企業にとって望ましい転職のパターンはどれだと思いますか?

山本 現在の専門での転職、AのマスからBのマスでしょう。

堀内 そうですね。専門分野を変えず、それまで培ってきたスキルをさらに深めるわけですから、Bのマスは「深化」としてみました。よく「企業は即戦力を求めている」といいます。企業としては、すでに実力が証明されている仕事をしてほしいと考えるのは当然でしょう。自分の専門性が生かせる転職なら、会社の壁は低いですね。

山本 なるほど。ただ僕としては、人材育成に熱心な企業で新しいことに挑戦させてもらえればと思うんですが……。

堀内 よく分かります。でも、未経験者を採用するということは、企業にしてみれば「パフォーマンスが未知数の人間を採用する」というリスクを取り、「未経験者を育成する」というコストを掛けるわけです。同じコストを掛けるならば、パフォーマンスが分かっている身内である「社員」を対象にするのではないでしょうか。だとすると社外から転職してくる人間にはハンデが付いているわけで、それを「資格」だけで跳ね返すのは難しいでしょう。

山本 うーん、厳しいなあ……。資格を取ったという学習意欲をアピールするのはどうですか。

堀内 それは大いにすべきでしょう。しかし、学習意欲をアピールするなら資格取得でなくてもいいじゃないですか。これまでの職歴を語る中で、未知の問題を学びながら解決したエピソードか何かの方が、よほど迫力があるのでは?

山本 ……なんだか論破されそうだ(笑)。つまり資格は意味ないってことなのかな。

堀内 いやいや、そこまでいうつもりはありません(笑)。ただ、簡単に「資格で転職」とはいかないですよ、ということです。学習意欲のアピールにしても、仕事のエピソードに加えて資格の話をするなら強力かもしれませんが、「いまの仕事がイヤになったので就業時間中も勉強して資格を取りました」では逆効果ですよね。

山本 そりゃそうだ(笑)。残りのCのマスは……社内で異動ということですか。

堀内 はい。Cのマス、「開拓」は、会社を変えずに新しい仕事に挑戦するために、専門以外の学習に自己投資するということです。

山本 でも、ウチの会社は社員のチャレンジを尊重しようという社風じゃないんですよね……。

堀内 よく聞く話ですし、本当にそういうケースもあるでしょう。ただ、さっきの企業側のロジックを思い出してください。山本さんに挑戦させてやろうという可能性が一番高い企業は、山本さんのパフォーマンスを分かっている、現在お勤めの企業ということになります。つまり、「新しいことを学ぶなら、まず社内で生かすことを考えるべきだ」ということです。

山本 確かに理屈はそうなりますね。でもなあ……。

堀内 理屈でそうなんだから、やるだけやってみましょうよ。自己投資の目的を具体的に「社内のJava開発プロジェクトに潜り込む」とか「社内でJava開発プロジェクトを立ち上げる」とか書き出してみて、そのために何をすべきかを考えましょう。その手段が、やっぱり「資格」かもしれませんし、「いまのプロジェクトで成果を出す」ことなのかもしれません。

山本 「社内政治に強くなる」とか(笑)。

堀内 会社という舞台を使ってやりたいことをやっていくのなら、それだって必要なスキルですよ。そういうスキルは転職先でも使えるし。

2ステップ問題解決法

堀内 さて、あらためて図を見てみると、「現在とは違う、希望の仕事をするために転職する」道、つまりAのマスからDのマスに行く道は、2通りあります。

 1つはCのマスを経由する道で、社内で新しい専門分野の実績を積んでから転職するやり方。もう1つはBのマスを経由する道で、まず希望する仕事を業務としてやっている企業に、現在の専門を生かす形で転職して、その社内で異動を目指すやり方。

山本 堀内さんはどちらがオススメですか?

堀内 まずはCのマス経由を試すのがよいでしょう。理由は2つあります。

 1つ目は、個人的な感覚ですが、会社の壁(A→B)よりも専門の壁(A→C)の方が高いから。A→Cを試してからA→B→Dで行こうと考えれば、専門の壁に挑むチャンスを2回持てます。

 2つ目は、結果的にDのマスへ動かず、Bのままでもハッピーになれる可能性があるからです。

山本 「住めば都」ということですか。

堀内 まあ、それもあるかもしれませんね。わたしのいいたいのは、やりたいことをやるスキルを身に付けることで、Dのマスに行かないと、つまり転職しないとできないと思い込んでいたことでも社内で立ち上げられるのではないかということです。

山本 なるほど。2段階に分けると、考えやすくなりますね。

堀内 「2ステップに分ける」という考え方は仕事でも使えますよ。難しい問題を考えるときにも糸口を見つけやすくなります。

筆者紹介
堀内浩ニ●アーキット代表取締役。早稲田大学大学院理工学研究科(高分子化学専攻)修了。アクセンチュア(当時アンダーセンコンサルティング)にて、多様な業界の基幹業務改革プロジェクトに参画。1998年より米国カリフォルニア州パロアルトにてITベンチャーの技術評価プロジェクトに携わった後、グローバル企業のサプライチェーン改革プロジェクトにEビジネス担当アーキテクトとして参画。2000年に帰国、ソフトバンクと米国VerticalNet社との合弁事業において技術および事業開発を担当。

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