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コラム:自分戦略を考えるヒント(27)
ITエンジニアの転職と「商売のセンス」

堀内浩二
2006/2/28

 こんにちは、堀内浩二です。先日、ITmedia オルタナティブ・ブログに書いた「商売のセンス」というエントリに対して、電子メールで質問をいただきました。それは、

 ITエンジニアにも「商売のセンス」はあった方がいいと思いますか?

というもの。ITエンジニアに限らず、仕事をしている人なら誰でも1つは売り物を持っています。それはもちろん「自分」。普段はあまり意識しませんが、転職や異動を考えるときには「自分を売る」ということを考えます。ですので今回は、「転職における商売のセンス」について考えてみたいと思います。

実際には少ない「良い話をもらって転職」

 自分から売り込むというのは億劫(おっくう)なものです。スキルや専門性があれば、どこからか声が掛かるのでは……、と考えている方も多いのではないでしょうか。

 2004年に行われた@IT自分戦略研究所の読者調査の結果によると、「良い話があれば転職を考えたい」という方が全体の43%に上りました。

図1 2004年に行った@IT自分戦略研究所の読者調査での転職意向状況

 実際に「良い話をもらって転職」というパターンがどれくらいあるのか、転職の経路から調べてみましょう。図2は、IT業界における転職者の経路を調べたデータです。

図2 厚生労働省の雇用動向調査(平成15年)より。IT業界における転職者の入職経路。厚生労働省の雇用動向調査(平成15年)の第12表から、電気機械器具製造業、通信業、情報サービス・調査業における既就業者(転職入職者)のデータのみを集計し、グラフ化した

 「話をもらう」経路は、ほぼ「縁故・出向など」でしょう。ただ、出向および出向先からの復帰はグループ会社内での異動であり、ここで考えている「転職」のイメージとは違いますので、除外します。さらに、同調査によれば「縁故」の約3分の1、全体の8%弱は「前の会社からの紹介」です。会社は優秀な人材を手放さないものと仮定すると、このケースは何らか会社都合による場合が多いと考えられますので、これも除きます。

 すると、「縁故」の中から「前の会社からの紹介」を除いた14%が、社外から話をもらって転職したケースの母数といえます。この14%は、おおむね下記のように分類できるでしょう。

(A)自発的にコネをたどって転職先を探したケース
(B)転職の意思表示をしたうえで、「良い話」を待ったケース
(C)転職の意思はなかったが、良い話をもらったので転職したケース

 今回、「良い話をもらって」転職したケースとして考えたいのは、(B)と(C)です。これが全体の何割かを示す数字はありませんが、わたしの見聞きした範囲で考えると、多めに見積もっても半分というところでしょう。

 つまり、「良い話があったら考えてみたい」という方が、実際に「良い話」をもらって転職したケースは、事前に転職の意思表示をしておいたとしても7%程度であり、転職者の大部分は自発的に転職先探しをしていることが分かります。

 なお、「民営職業紹介所」のスカウトサービスも、転職の意思表示をしたうえで「良い話」がくるのを待つわけですから、有望なチャネルです。ただ、民営職業紹介所を使って転職する人自体がまだ全体の4%と少ないので、今回は計算には入れません。

コネ転職の重要性

 もう1つ、興味深いデータをご紹介します。こちらはIT業界だけではなく建設業界を除く主な産業全体でのデータです。縁故による転職の割合が、年齢によってどう変わっていくかを見ることができます。

図3 図2と同じ厚生労働省の雇用動向調査(平成15年)の第17表から、転職者の入職経路のうち縁故が占める割合を表したもの

 年齢とともに、縁故で転職をする人の割合が急増しています。特に65歳以上では、全体の50%以上が縁故によるものです。今後は、「民営職業紹介」サービスも普及していくでしょうから、この数字が同じであり続けるとは思いませんが、コネが転職にとって重要なチャネルであることは間違いないでしょう。

「良い話」を引き寄せる3つのA

 ここまで、

  • ただ「良い話」を待つだけでは、転職のチャンスは来ないこと
  • 「良い話」の源泉である「縁故」による転職は、年齢が上がるにつれ多くなっていること

を見てきました。

 では、積極的に「良い話」を引き寄せるには、どうしたらよいのでしょうか。今回のテーマは「商売のセンス」ですので、自分という商品をマーケティングするという発想から、3つの「A」としてまとめてみました。

・Attention-getting(目立っている)
・Accessible(声を掛けやすい)
・Available(使いやすい)

 目的が転職であっても、フリーランスの方の仕事獲得であっても、大企業に勤める方の社内異動であっても、この3つを満たす人ならば「良い話」を引き寄せられるのではないかと考えます。以下に説明していきましょう。

●Attention-getting(目立っている)

 最も重要かつ難しいのが、この「注意を引く」「目立つ」ということ。知られなければ存在しないのと同じです。ただし「目立つ」といっても、必ずしも自分を派手に宣伝したりすることを意味しません。マーケティング界のカリスマであるセス・ゴーディンは、供給過剰な市場においては、行き過ぎた宣伝よりも商品自身を常識破り(Remarkable)なものにすべし、という提案をしています(『「紫の牛」を売れ!』より)。

 フランスのマクドナルドは、ファストフードを週2回以上食べない方がいいという調査結果を発表して、逆に多くの顧客をつかんだそうです。昨年一緒に仕事をしたサーフィン好きのWebデザイナーは、海の近くにオフィスを構え、「年間120日以上海に出ること」と「営業活動をしないこと」を目標としています。昨年転職先を紹介したエンジニアの方が求人企業の興味を引いたのは、あるマイナーなサーバソフトウェアでの突き詰めた経験でした。

 ただし、目立つことは、人から批判を受けることをも意味します。目立つ存在であるかどうかは、その人の能力のあるなしよりも、批判を受ける不安に打ち勝てるかどうかにかかっているといっても過言ではありません。

●Accessible(声を掛けやすい)

 あなたが求人企業から紹介を頼まれたと仮定してください。「知っている」人の中で、実際に「声を掛けられる」ほどの距離の方は意外に少ないのではないですか。知り合いとはいっても、ちょっと連絡が途絶えてしまうと声を掛けづらいですよね。逆に考えれば、「良い話」を引き寄せる、声を掛けてもらいやすくするためには、単に目立つだけではなく、ちょっとした工夫が必要ということです。これももちろん転職に限った話ではありません。

 年賀状やブログで近況を知らせる、相談には丁寧に乗る、などなど、それぞれのパーソナリティに合わせたやり方でAccessibilityを上げていけばよいと思います。

●Available(使いやすい)

 Availableというと、単に(スケジュールが)空いているという語感があります。もちろんそれも含みますが、ここではもう少し広く、相手のニーズに合わせられるという意味合いを持たせています。いわゆるスキルアップや資格取得は、自分という商品の性能を高める話ですので、すべてAvailabilityを高めるという範疇(はんちゅう)に入ります。

 ここで重要なポイントとして指摘したいのは、スキルや資格を身に付ければ自動的に「良い話」がくるとは限らないし、「まずはスキルアップして、それから転職活動」というアプローチが正しいとも限らないということです。

 転職「市場」という言葉がありますが、スキルや資格といった指標だけで採用をする企業はありません。最後は企業と個人との相対(あいたい)取引です。能力は十分でも、「いまいる社員との相性が合いそうにないから」という、本人からするとどうしようもない理由で採用されないこともあります。仕事に求められる能力が足りなくても、タイミングが良かったり社長と意気投合したりすれば、潜り込んで経験を積めることもあります。

 一般には、商品が売れるか売れないかは、その性能だけでは決まりません。マーケティング戦略では、そもそもそういった商品に対する十分なニーズはあるか、価格は手ごろか、プロモーションは、供給体制は十分かといったことが検討要素になってきます。

 同じことを、自分という商品について考えてみたとき、Attention-getting(目立っている)やAccessible(声を掛けやすい)といった、自分のスキルとは関係ない部分での布石の重要性が感じられるのではないでしょうか。

筆者紹介
堀内浩ニ●アーキット代表取締役。早稲田大学大学院理工学研究科(高分子化学専攻)修了。アクセンチュア(当時アンダーセンコンサルティング)にて、多様な業界の基幹業務改革プロジェクトに参画。1998年より米国カリフォルニア州パロアルトにてITベンチャーの技術評価プロジェクトに携わった後、グローバル企業のサプライチェーン改革プロジェクトにEビジネス担当アーキテクトとして参画。2000年に帰国、ソフトバンクと米国VerticalNet社との合弁事業において技術および事業開発を担当。

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