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コラム:自分戦略を考えるヒント(29)
検索では見つからない「未来」の見つけ方

堀内浩二
2006/5/26

検索では見つからない「未来」

 これから、どの道に進もう。そう迷ったときについ、検索エンジンに手が伸びます。例えば「転職」と打つと転職支援サイトが出てきますが、転職支援というのはほとんど求人企業の選択支援であり、転職すべきか否かを決めてくれるわけではありません。「スキルアップ」と打とうが「海外移住」と打とうが基本的には同じことです。他者が示してくれるのは、わたしが選択できる「手段」であって、わたしの「目的」ではありません。検索では未来は見つからないのです。

決める=判断+選択

 「迷う」ということは「決められない」ということですから、まずは「決める」ことについて少し詳しく考えておきましょう。例えばPCを買うときには、

  • (判断)どのようなPCを望ましいとするか
  • (選択)実際にどのPCを選ぶか

という、2種類の「決める」が交じっています。これをそれぞれ「判断」と「選択」と呼んでおきます。

 この定義によれば、「選択」は、選択肢が多くなれば複雑にはなりますが、判断基準が明確ならば行えます。「迷う」ということは、本質的には「判断」ができないことと同じといっていいでしょう。

 では「判断」の基準とは何か。それは「目的」です。個人の「目的」など主観的なものですから、自分で勝手に「判断」すればいいはずなのですが、なぜそれができないのか。

 その理由は2つありそうです。1つは「目的」が定まらないので、「判断」の基準がないから。もう1つは、「判断」し「選択」をした、その「結果」が失敗する、つまり「目的」を達成できないリスクがあるから。特に遠い将来に関する「判断」であるほどリスクは高まります。

経営学に学ぶ「次の一歩」を踏み出すコツ

 ところで、われわれ個人だけでなく、社会にあるもう1つの人格である「法人」(ここでは企業を考えます)も同じく迷います。企業は個人よりも存在目的が明確です。「目的」が明確であれば、「判断」の基準も明確になるので、自信を持って「選択」できることになりますが、それでもなお残るのは、「結果」に対する不安。

 そこで、コントロールできない「結果」に対する不安をどう把握し、取り除くかということに焦点が当てられ、研究がなされてきました。それがいわゆる「意思決定論」です。今回は、迷える状況から何とか「次の一歩」を踏み出すためのヒントを『意思決定の技術』(ダイヤモンド社刊)に求めてみました。

 意思決定論は、経済学・数学・脳科学・経営学などにまたがる学際的な領域ですが、ここで紹介するのは実践重視の「混合模索的アプローチ」。『意思決定の技術』の173ページ〜176ページの見出しだけを引用しつつ、個人版「次の一歩を踏み出すコツ」を考えてみます(引用部分はボールドでイタリックにしています)。

的を絞った試行錯誤を試みる

 システム開発では「プロトタイピング」という効果的な手法があります。実際に少し試してみることで、経験値を高め、見積もりの精度を上げ、未知への不安を減らすことができます。あなたのチャレンジもプロトタイピングができないでしょうか?

 転職や起業となると、プロトタイピングといってもなかなか難しいですが、「的の絞り方」によっては可能でしょう。転職してみたい職種向けのカンファレンスに潜り込んでみて「空気」を感じてみるといったことでも、ちょっとした試行錯誤のスタートにはなります。

とりあえず判断する

 後から撤回できることであれば、取りあえず判断してみることはできないでしょうか?

 例えば、「自分は転職する!」と友人に宣言し、情報収集を始めるといったことです。結果的にうまくいかなくて気まずい思いをするかもしれませんが、それだけのことです。

問題の先送り

 上記とは逆です。少し待つことで状況が変わり、より良い判断ができるのではないですか?

 例えば、「転職しかない!」と思い込む前に、社内でできることにすべて挑戦し、来期の組織改編まで粘ってみるといったことです。

決定事項の時差導入・決定の細分化

 チャレンジが大きいと迷いも大きくなります。時間をずらして段階的に実行することはできないでしょうか?

 例えば、いきなり未知の職種への転職は難しい。とすれば、まずは現在の会社で少しでも希望の職種につながる経験を積む。あるいは、将来職種替えの可能そうな大きな会社に、現在の職種で転職するといった、2段階作戦が考えられます。

リスク分散

 「いちかばちか」でなく、複数の選択肢を同時に選ぶことでリスクを分散できませんか? 同時に期待できるリターンが減ることになりますが、それで決断が容易になるのであれば考慮すべきでしょう。

戦略的資金の確保

 結果が失敗する可能性は常にあります。その「選択」が経済的な損失を被る場合、失敗しても大丈夫なだけの経済的な余裕はありますか? もしないとするならば、まずは資金の確保に専念することはできますか?

後戻り可能な意思決定

 後戻り可能な「選択」を優先しましょう。

 例えば、狭い分野の専門を極めたり、特定のベンダ資格の取得にコミットすることは、ある可能性を広げる一方で、ほかの可能性を狭めます。最悪の事態になっても損失を小さくできる選択、横展開が可能な選択は何でしょうか?

立ち止まらない

 いかがでしたでしょうか。引用元の本文では、これらは医師の意思決定法だとあります。医師もやはり限られた知識と情報で、目の前の患者に対処していかなければならない仕事です。使える理論や手に入る知識を総動員して、少しずつ問題を解決していくスペシャリストの決め方・進め方は大いに参考になりそうです。

 すべてに共通しているのは、どうにかして判断のハードルを下げ、判断と選択を繰り返しながら目的に向かって進もうというスタンス。一言でいえば「立ち止まらない」ことだといえそうです。「問題を先送りする」場合でさえ、適切なタイミングを見計らっているわけであって、ただ漫然と待っているということではありません。

 上記は、あくまでも次の一歩を決めかねている人へのガイドです。退路を断ち、リスクを負い、目標に向けてコミットするという「決断」が必要な瞬間もありますが、それはまたあらためて。

筆者紹介
堀内浩ニ●アーキット代表取締役。早稲田大学大学院理工学研究科(高分子化学専攻)修了。アクセンチュア(当時アンダーセンコンサルティング)にて、多様な業界の基幹業務改革プロジェクトに参画。1998年より米国カリフォルニア州パロアルトにてITベンチャーの技術評価プロジェクトに携わった後、グローバル企業のサプライチェーン改革プロジェクトにEビジネス担当アーキテクトとして参画。2000年に帰国、ソフトバンクと米国VerticalNet社との合弁事業において技術および事業開発を担当。


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