第40回 帝国と戦うレイア姫
脇英世
2009/7/15
1997年4月にパトリシア・シュルツのインターネット部門のチームは、ジェネラルマネージャのスティーブ・ミルズ率いるソフトウェア・ソリューション部門に移った。このときIBMのインターネット部門が消滅したと大々的に報道された。これは間違いだったのか、インターネット部門は残っているらしい。しかしよく分からない。IBMと多少付き合えば分かることだが、IBMには組織図にない組織もあるし、組織図にはあっても実際にあるのかどうか疑わしい幽霊組織もある。日本の会社でも同じようなことがあるのかもしれない。
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情報を総合するとルー・ガースナー会長の下にジョン・M・トンプソンというやり手の上級副社長がいて、この人がルー・ガースナー会長の考えを忠実に実行しているようだ。35億ドルかかったロータス買収の際にはこのジョン・M・トンプソン上級副社長が動いた。IBMの内部文書を中心としたパトリシア・シュルツ関係の記事を洗っていると、このジョン・M・トンプソン上級副社長の影がちらほらする。つまり、パトリシア・シュルツはルー・ガースナー会長の直系ということになるだろう。ただしIBMの内部事情はIBMの人にも分からないというから、局外者のわたしにはよく分からない。スティーブ・ミルズのソフトウェア・ソリューション部門はDB2、MQシリーズやIBMのミドルウェア製品を扱っている。
ソフトウェア・ソリューション部門での彼女の担当は大きく分けて3つある。
- IBM、ロータス・デベロップメント、チボリ・システムの3社の統合
- IBMのeビジネス・ソフトウェアの開発、マーケティング
- Java開発
つまりIBMはインターネットをミドルウェア製品の中核に持ってきたということであり、インターネットよりはミドルウェアを先行させ、ミドルウェアの中核にJavaを位置付けたということになるだろう。
IBMにはパトリシア・シュルツを議長とする12人のメンバーからなるJava委員会がある。IBMはJavaには極めて熱心だ。IBMのルー・ガースナー会長がJava開発に多大な資金を投入することを発表している。さらにIBMは以下の発表もしている。
- Javaアクセラレータチップの開発
- Javaアプリケーションフレームワークの発表
- OS/390、OS/400、OS/2、AIXなどIBM全製品でのJavaサポート
- 2000人以上のJava開発部隊
- 2カ所のJava適合性センター
このようにIBMのJava対応は本格的だ。そのことは知っていたが、IBMがJavaに本気であることは知らなかった。
パトリシア・シュルツは極めて正直なことで有名だ。ほかの人はひた隠しにしたが、彼女はJavaのVMにバグがあったことをあっさり認めて、かえってマスコミに好印象を与えた。
パトリシアはIBMがクライアント/サーバ事業に乗り遅れて失敗したため、IBMは新たにJavaに賭けていると語った。IBMの上層部がそういう認識ならIBMのJavaへの取り組みは本物に違いないと納得させる。歯切れがよくきっぱりとしていて分かりやすい。
『PC WEEK』は、パトリシア・シュルツを映画『スター・ウォーズ』のレイア姫と評したそうだ。悪の帝国と戦うレイア姫なのだ。悪の帝国が何であるかは説明の必要がないだろう(*1)。みんなが彼女の髪にバンドを付けろと冗談をいうという。
(*1)いうまでもないが、マイクロソフトのことである。 |
16歳と7歳の娘がいる。趣味は読書とマウンテンバイクでのサイクリング。朝5時ごろからライトをつけてサイクリングをしている。以前はテニスだったが、最近はゴルフも始めたという。こういう仕事をしていると子どもと一緒にいる時間が少なくなるので、週末は家族で過ごすようにしているという。
「われわれはクレージーな生活をしています。でも面白いです」
■補足
1999年9月28日、パトリシア・シュルツはIBMのJavaソフトウェア部門のジェネラルマネージャを辞めて、サン・マイクロシステムズのソフトウェアとプラットフォーム部門の社長になった。Java、Jini、Solarisなどを担当することになった。Javaをめぐるサン・マイクロシステムズとマイクロソフトの間での裁判は2001年1月23日、和解に達した。マイクロソフトは和解金2000万ドルを支払い、「Java互換」という文言を使用できなくなった。
本連載は、2002年 ソフトバンク パブリッシング(現ソフトバンク クリエイティブ)刊行の書籍『IT業界の冒険者たち』を、著者である脇英世氏の許可を得て転載しており、内容は当時のものです。 |
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