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IT業界の開拓者たち

第44回 風車に突撃するドン・キホーテ

脇英世
2009/4/10

第43回1 2次のページ

本連載を初めて読む人へ:先行き不透明な時代をITエンジニアとして生き抜くためには、何が必要なのでしょうか。それを学ぶ1つの手段として、わたしたちはIT業界で活躍してきた人々の偉業を知ることが有効だと考えます。本連載では、IT業界を切り開いた117人の先駆者たちの姿を紹介します。普段は触れる機会の少ないIT業界の歴史を知り、より誇りを持って仕事に取り組む一助としていただければ幸いです。(編集部)

本連載は、2002年 ソフトバンク パブリッシング(現ソフトバンク クリエイティブ)刊行の書籍『IT業界の開拓者たち』を、著者である脇英世氏の許可を得て転載しており、内容は当時のものです。

マイケル・ハート(Michael Hart)――
グーテンベルク計画主唱者

 グーテンベルク計画にはずっと興味を持っていて、いつかこれを快人伝の原稿の題材にしようと考えていた。グーテンベルク計画の概要は公式文書に従えば以下のようになる。

 グーテンベルク計画は1971年、マイケル・ハートがイリノイ大学材料開発研究所にあった大型計算機ゼロックスのシグマVのオペレータアカウントとともに1億ドルに相当するコンピュータ使用時間を与えられたときに始まった。これほどの高額なコンピュータ使用時間に値するようなことは通常のコンピュータの使い方ではあり得ず、それなりに価値のあるものを作り出さなくてはならないとマイケル・ハートは考えた。なぜそうなのかよく分からないが、マイケル・ハートは11時間47分後、コンピュータによって作られる最高に価値のあるものはコンピューティングではなく、図書館に蓄えられているものの蓄積、提供、検索にあると思い至った。そこで彼は独立宣言をネットワーク経由であらゆる人に送りつけた。これがグーテンベルク計画の始まりである。むしろインターネットウイルスの初めであったかもしれないといっている。

 グーテンベルク計画の考え方は、およそコンピュータに取り込めるものはどんなものでも無限に再生されるべきだという前提に立っている。つまりグーテンベルク計画では世界中のすべての本をコンピュータに取り込み、これを誰でも簡単に再生できることを狙っている。具体的には、平易なASCIIテキストで取り込むことになっている。グーテンベルク計画のライブラリに収録されたドキュメントを読むには、ポストスクリプトのように特別なソフトウェアや、サンのワークステーションなどの特別なハードウェアを必要としない。パソコンさえあれば誰にでも読めるのである。しかしその代価としてフォントの面白さや繊細さは失われてしまう。むろん原則的に絵や図表などもあり得ない。

 グーテンベルク計画のカリスマはマイケル・ハートである。マイケル・ハートは1973年2月にイリノイ大学のリベラル・アート/サイエンス学科を卒業した。成績は抜群だったらしい。

 インターネット上に、マイケル・ハートに関する3通の推薦状がアップロードされている。おやおやと思うほどの美辞麗句が書き連ねられている。例えばこんな具合だ。

 「大学における彼の素行はすべての観点から抜群であり、この青年の精神の広がりと奥行きに注意を向けることが重要であると考えます。(中略)かくのごとくハート氏の完ぺきさと個人的力量は疑問の余地のないところであり、わたしはこの青年が非常に貴重で成功を約束されかつ並外れて生産的な従業員となると強く確信しております」

 どうして、こんな書類をアップロードするのだろう。こういう書類が3通もあるところを見ると本人が関与しているに違いないが、洋の東西を問わず、常識はほとんど同じで、まともな人間は自分を褒めた書類など人に見せびらかしたりはしない。ここで、まずわたしは首をかしげた。振り返って考えてみれば「1億ドルに相当するコンピュータ使用時間を与えられた」って何だろう。100億円を超えるお金が空から降ってくるわけがないではないか? これも変だ。さらにグーテンベルグ計画は1971年から始まっているのに、20年経過した1991年に12冊、クリフォード・ストールの本の執筆時点(1995年)で200冊、わたしが調べた1997年8月時点で800冊にしかなっていない。100億円を超える資金があって、その程度しかできないものだろうか?

 それにグーテンベルク計画ほどの大計画にしては関連文書が少なすぎる。せいぜい1センチにしかならない。これほどの計画ならもっと大量に関連文書があっていいはずだ。それにホームページもあやふやだ。

 どうも話が胡散臭い。グーテンベルク計画が有名だからといって、鵜呑みにすると危ないぞと直感的に判断した。快人伝の原稿を書くための候補はいつも4、5人は用意している。マイケル・ハートは後回しにすることにした。

 しばらく日がたって考え直すと、ふと「こういうのは『WIRED』が得意なんだけれど……」と思い当たった。そこでWIRED(英語版)のホームページで検索をかけてみた。するとみごとに当たった。1997年2月号にデニス・ハミルトンという人の「グーテンベルク・ギャラクシーのハート」という記事が見つかった。最初の数行を読んだだけでまいった。

本連載は、2002年 ソフトバンク パブリッシング(現ソフトバンク クリエイティブ)刊行の書籍『IT業界の開拓者たち』を、著者である脇英世氏の許可を得て転載しており、内容は当時のものです。

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