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国際競争時代に突入するITエンジニアに生き残り策はあるか?
日本人ITエンジニアはいなくなる?

第7回 海外エンジニアとの日本語コミュニケーション術

小平達也パソナテック 中国事業部早稲田大学ビジネススクール講師
2004/9/17

ITエンジニアの競争相手が海の向こうからやってくる。インド、中国、それに続くアジア各国。そこに住むエンジニアたちが日本人エンジニアの競争相手だ。彼らとの競争において、日本人エンジニアはどのような道を進めばいいのか。日本だけでなく、東アジア全体の人材ビジネスに携わる筆者に、エンジニアを取り巻く国際情勢を語ってもらった

海外エンジニアの日本語能力

 「中国など海外のエンジニアとビジネスをすると、日本語の分かる人材でも、仕様書の『行間』が読めないんですよ。現地のエンジニアの語学力は問題ないのですが、仕様書の理解にとにかく時間がかかってしまって。こっちから説明にいく出張旅費など金銭面だけでなく、相互理解のために割く時間など、『コミュニケーションコスト』が相当な負担になります」と語るのは、オフショア開発を進める、とあるシステムインテグレータの部門長。オフショア開発経験のある方は多少とも、同様の経験やジレンマを感じたことがあるのではないだろうか。

 このような状況の中、中国で日本語による技術者認定制度を展開している日本企業がある。それは日本オラクルだ。同社は昨年、「中国で」「日本語による」「技術者認定制度」を展開した。これは上海で、現地技術者を対象に、日本オラクルの技術者認定制度「ORACLE MASTER」の取得を目指した模擬試験を実施したというもの。第1回の試験では、104人の技術者が申し込んだ(104人の内訳は、中国に進出している日本企業の中国人技術者が71人、中国企業の中国人技術者23人、中国在住の日本企業日本人技術者2人、欧米企業の中国人技術者8人)。

 このような日本語による認定制度が展開されつつあるものの、中国ビジネスの急速な拡大の中で冒頭に紹介したような問題や、流暢(りゅうちょう)な日本語を話す現地人材との間でさえ「いった・いわない」類のトラブルが急増しているようだ。以下、具体的な事例を紹介しよう。

「よろしくお願いします」が招いた悲惨な結果

 まず紹介するのは、業界を代表する某大手電機メーカーの課長であるA氏の体験談である。

 今年になって調達先選定のためA氏が中国に出張に行ったときのこと。流暢な日本語を話す、現地企業の担当者と情報交換を兼ねて会ったという。その際、今後のシステム開発が話題に上ったので、A氏は「これからいろいろとよろしくお願いします」とその担当者に語った。システム開発はまだまだ先の話であり、A氏がその担当者と会ったのは今回が初めて。当然あいさつ程度のつもりだった。

 A氏が帰国すると早々に中国から連絡がきて、「課長に依頼された開発の件、全社的に取り組むこととなり、すでに開発プロジェクトチームを立ち上げた。ついては総経理(社長)が日本に出張するので、貴社の社長との面談をセッティングしてほしい」というのである。

 A氏は「先方のトップダウンとスピード感覚についてはさすがだとは思いますが、うちとしては契約書はおろか、まだ何もコミットしていないのですよ。どうしてこんなことになってしまったのか……。社内でも『あいつは中国で一体何をしてきたんだ。直属の上司に相談もせずに越権行為ではないか』などと陰口をたたかれて、どう説明していいのか困っているのです」と途方に暮れる。

プロに聞く外国人とのコミュニケーション術

 この事例のように、日本語の意味の取り違いから派生するミスコミュニケーションについては、どう対処すればいいのだろうか。また、どんなことに気を付ければいいのだろうか。IBMやルーセントテクノロジーなどの在日外国人ビジネスマンなどへの日本語教育を展開しているカイ日本語スクールの代表 山本弘子氏にその点についてお話を伺った。


小平 この事例ですが、特に中国ビジネスではありがちなミスコミュニケーションですよね。日本では軽い、あいさつ的な意味で「よろしくお願いします」と、よく話しますよね。でも会話の相手がいくら日本語がうまいといっても、この言葉の表面上の意味だけを理解して、「委託・依頼を受けた」と考えることがあります。なぜこのような問題が発生するのか、外国人に日本語教育を行っている立場から意見を聞かせてください。

カイ日本語スクール 代表 山本弘子氏

山本 われわれが外国人の学生に教える場合は、「よろしくお願いします、これはあいさつ言葉です」という程度で、普通は詳しくは教えません。ただし、中国など海外にいながらにして高度なビジネスレベルの日本語を駆使する人たちの場合、往々にして「まじめに・辞書・字義どおりの理解」をする傾向があるようです。

小平 まさにA氏の例ですね。日本での留学・就業経験などがある方ですと、「日本人独特の会話の流れや仕様書の理解など、行間を読む」というスキルが付いていると思いますが、山本代表がこの事例のA氏にアドバイスするならば、どのようなものになるでしょうか。

山本 日本人同士の場合は、会話の雰囲気の大切さを重視することが往々にしてあります。例えば結論をいい切らない、といったことですね。ただしA氏のように外国人が相手であれば、「よろしくお願いします」という日本語の美しいいい方(儀礼的表現)は使わない方がいいでしょう。誤解を招く可能性が高いですから。分かっていてもついいってしまうものですが、その場合でも必ず、「今回はごあいさつだけですが、正式な開発の依頼については、貴社に依頼するかどうかを検討したうえ、○○ごろまでにはご連絡します」というように、具体的な手順と時期を明確にしておく、という方法がよいでしょう。

小平 誤解を招きやすいという意味では、別の事例になりますが「いいです」などもそうですね。ニュアンスと顔色を確認しながら「Yes」「No」を判断しないといけないものです。そのほか、日本語で同意(agree)を示す「了解(りょうかい)」という漢字は、中国語でも同じ漢字で「了解(リャオジエ)」を使います。ただ、中国語の場合、理解(understand)、という意味もありますので、こうした点も少し注意が必要ですね。

 ところでカイ日本語スクールの場合、世界中から来日しているITエンジニアに対して、ビジネスレベルの日本語を教育されているそうですが、中国以外の国からきている外国人エンジニアの事例をご紹介いただけますか。

山本 例えば、当校ではスペイン、ギリシャ、フランス、スウェーデン、イタリアなどEU各国から来日し、日本で活躍しているITエンジニアにも教育をしています。彼らのビジネス上の悩みといえば、日本人エンジニアと日本語で会話していると、本来世界共通語であるはずの「IT用語」が分からなくなる、というのです。

 例えばアプリケーションという単語1つにしても、日本人が話す場合、本来の発音ではなく、日本語として発音されるので「あぷりけいしょん」となって意味が通じません。外来語は要注意ですね。

日本語だけで海外エンジニアとのコミュニケーションは可能

 最近よく企業の人事担当者に聞かれるのが、「日本にいる外国人エンジニアの日本語レベルは一体どの程度なのか」という質問だ。「日本語検定で何級レベルがブリッジSEとしてやっていけるのか」などの質問を受ける。パソナテックの場合、本連載の「第4回 中国人ブリッジSEのキャリアパス」で紹介した「Bridge Career Chain」の第3期(来日中期)の人材層にフォーカスしているため、エントリーシートをはじめ、キャリアカウンセリングなどはすべて日本語で行っている(当社のキャリアカウンセラーは英語は堪能だが、日本企業への転職希望者の場合、基本的に一貫して日本語で対応する)。

 日本にはこのような日本語コミュニケーションレベルの高い、外国人ITエンジニアは、約2万人いるといわれている。それにオフショア開発などで海外拠点にいる「対日ビジネス要員」を加えるとその数は膨大なものになるだろう。

 さて、ここまで外国人エンジニアの語学力を話題としてきたが、より重要なのは日本人エンジニアの「外国人との日本語コミュニケーション能力」である。われわれ日本人が英語などの外国語を話せないとしても(本来は話せることが必須要件だが)、「日本人の話す日本語」だけで、「日本語を理解する外国人エンジニアたち」とコミュニケーションを図ることが十分できるのである。

 今回はJNJ(Japanese talk for Native speaker of Japanese)8原則を紹介しよう。いずれもすぐに活用できるはずだ。なお、JNJ8原則はカイ日本語スクールの全面的な協力を得て筆者が作成したものだ。

外国人と日本語で話すJNJコミュニケーション8原則

(1)目的と手法を明確に伝える

 判断基準となる原則を提示し何を、どうやるかを簡潔に共有しておくと、相手の理解がいったんぶれても、戻ってくる可能性が高くなる。

(2)主語や代名詞を明確にする

 日本語の中に「私が」「貴社が」「誰が」などを挿入していくこと。主語などをあえて言葉に出す。初めに主語を明確にするだけでも相手の理解スピードがアップする効果がある。

(3)締め切り期日など、数値での設定をする

 客観性を持った推知を表示できる場合はできるだけ数値設定をする。

(4)日本語のニュアンス

 イントネーション次第で、意味の変わる単語の使用は極力避ける。やむを得ない場合は、追加で、具体的な内容を明確化しておく。

(5)カタカナ語・外来語の使用に注意

 IT用語など専門用語であっても、カタカナ語は「日本語発音の英語」になっている場合がほとんどなので、使用する場合は英語発音を意識すること。

(6)単語の定義づけ

 キーワードについては、その単語の定義づけを事前に共有しておいた方がよい。

(7)打ち合わせなどの結果はメモにして確認

 一般的には遠慮などせずアグレッシブに見える外国人スタッフだが、実はシャイで質問などを遠慮する人物も多い。メモにすることで、質問や確認をしやすくする効果がある。

(8)1つの長文より、5つの短文

 時間・量ともに1文1文を短文に切って話す。

 日本人エンジニアが、グローバルビジネスで勝つための武器としてJNJを活用していただきたい。自らの専門性と日本語を武器に、ひるむことなく自らのキャリアを追求していけるはずである。

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