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国際競争時代に突入するITエンジニアに生き残り策はあるか?
日本人ITエンジニアはいなくなる?

第16回 中国初体験のITエンジニアが語る日本との違い

小平達也
(パソナテック 海外事業部 部長/パソナテックコンサルティング(大連)有限公司 董事/早稲田大学アジア太平洋研究センター 日中ビジネス推進フォーラム講師)
2006/4/20

ITエンジニアの競争相手が海の向こうからやってくる。インド、中国、それに続くアジア各国。そこに住むエンジニアたちが日本人エンジニアの競争相手だ。彼らとの競争において、日本人エンジニアはどのような道を進めばいいのか。日本だけでなく、東アジア全体の人材ビジネスに携わる筆者に、エンジニアを取り巻く国際情勢を語ってもらった

 4月に入り部署異動や就職・転職など、新天地での活動をスタートする人も多いだろう。新たに海外に赴任する人、もしくは海外から帰任する人もいることと思う。筆者自身もパソナテックの海外事業部と中国現地法人の立ち上げに携わるなど、新たなチャレンジをすることとなった。本連載を通じて、引き続き皆さんとともに個人の付加価値最大化について考えていきたい。

 さて、現地工場建設や資本参加などの日本から中国への直接投資額は、2000年の1010億円に対し2005年は7258億円と、5年で実に7.2倍になったという(4月2日付日本経済新聞より)。これまでの連載では下流工程を海外に委託するオフショア開発について触れてきた。実際に現地法人や事務所が設立されれば、当然のようにITインフラのサポート業務も必要になってくる。このような場合、日本国内で社内システムの管理業務を行っているITエンジニアが、通常業務の延長として海外出張して対応している。

 普段日本で仕事を行っているITエンジニアが初めて中国に行ったとき、何を感じるのだろうか。海外で業務を行うに当たり、日本と大きく違う点は何だろうか。今回は中堅IT関連企業に勤め、3月に中国(天津)にある自社法人を初訪問したネットワークエンジニアN氏(28歳)の体験談を紹介したい。

ネットワークエンジニアN氏の体感した中国とは

小平 「まずはNさんが日本で行っている業務について、少しご紹介をお願いします」

N氏 「当社はIT関連のサービスを法人向けに提供している企業です。設立十数年ですが、一応上場も果たしているので業界では中堅企業として認知されています。私の仕事は自社内を対象としたシステム管理業務です。いわゆる情報システム部的な部署に所属していて、社内のインフラ周りを見ています。その中でも特にネットワーク、セキュリティといった分野が中心で、本社のみならず全国の各拠点をカバーしています。比率としては本社7割、地方拠点3割といったところでしょうか。国内出張は多い方かもしれませんね」

小平 「なるほど。今回中国に初出張したということですが、どのような経緯だったのですか」

N氏 「当社のクライアントは以前は日本国内に限定されていましたが、中国に進出した大手クライアントの要請を受け、昨年末に天津に自社の現地法人を設立しました。当初は法人設立とともに赴任した技術営業担当の社員が、社内インフラのセットアップなどを行っていました。その立ち上げメンバーが現地社員の採用やオペレーションの運用も行っていたのですが、雇用形態が日本とは異なるため、採用の失敗などに早速直面しまして(苦笑)。

 そのため、現地拠点でのセキュリティを含むインフラ整備を本格的に行うことが課題となり、普段日本で各拠点のネットワークセキュリティを担当している私がそのインフラ整備を行うこととなりました。ちなみに私は国内出張こそ多いものの、いままで海外にはほとんど行ったことがありません。海外出張も、中国に行くのも今回が初めてでした」

小平 「初めての海外出張が中国だったということですね。最近ではNさんのような情報システム部門のITエンジニアの出張が増えているようですね」

意識、通信事情の違い

小平 「実際に現地に行ってみて、率直な感想はどのようなものでしたか」

N氏 「個人的には食事はまったく問題ありませんでしたね。生水は飲めないので要注意でしたが(笑)。仕事のうえでは、今回は現地で採用したITエンジニアと一緒に仕事をしましたが、意識や通信事情について『違いが大きいな』と感じましたね。もっとも私が見聞きし、今回お話ししている内容は主観的で、情報も経験も非常に限定的なものであるという前提で聞いていただきたいと思います」

小平 「分かりました。ありがとうございます。社内インフラの整備に当たって、自社の現地社員と一緒に取り組んだということですが、『意識の違い』とはどういったものでしょうか」

N氏 「1つは、品質に対する意識の違いです。日本と中国ではOKとされるレベルが違うことを感じましたね。例えば、日本であれば導入する機器のパフォーマンスを引き出して当たり前といった感覚がありますよね。でも現地では『動いているからいいでしょう』と切り返されてしまいました(苦笑)。

 もう1つはコストに対する意識の違いです。日本では考えられない価格をベンダに要求していました。もちろん、物価の違いなどもあるのでしょうが、可能な限り値切ることが当たり前の世界でした。『それくらいただでやってくれ』といった交渉も直接目の当たりにしました。

 日本国内でのベンダとのお付き合いでは『ここまではいえないよな』と思うようなことも平気でいっていましたね。日本でそこまでの要求をするとどこのベンダもお付き合いをしてくれなくなります。

 一方で、そもそもインフラ環境にコストを掛けるという意識にはまだ至っていないようにも感じました。自社の現地法人の話なので恐縮ですが、目先のビジネス・売り上げが最優先であるため、インフラ整備に掛けられる工数と費用が限られるといった状況です。それは逆に、完ぺきを追求するフルカバーの提案でなく、現地法人の実態に合った手法を取捨選択できるという見方もできますね」

小平 「業務の面では、日本国内では『完ぺき』を求められるのに対し、現地では現地法人の経営上の優先順位と実際に掛けられるコストを見ながら提案をしていくところに差があり、意識の面では大きく分けて、『品質』と『コスト』に関して違いがあるということですね。そもそもの通信事情についてはどのように思われたのですか」

N氏 「ネットワーク環境では格差を感じました。日本のWebサイトを表示するのがともかく遅い。アメリカ、EUと比べてレスポンスはあまり良くはなかったです。宿泊先のホテルでも、日本のビジネスホテルなら無料のADSLが1日数十元と有料でしたね。中国の場合、海外のブロードバンド業者が低価格を武器に市場に参入することが行われていないからかもしれません」

今後の課題

小平 「Nさんは、今後中国で仕事をしていくうえでどのような課題があると考えていらっしゃいますか」

N氏 「社内インフラを安定させ、安心して活用してもらえる体制をつくっていくという点は変わりません。現地法人は中国国内で売り上げを上げていく営業会社なので、社内エンジニアの競合への流動やウイルス感染に伴う業務停止は絶対に避けないといけません。特にこれから事業が拡大していったときには即、致命的なロスとなってしまいます」

小平 「おっしゃるとおりですね。現地のITエンジニアについてはどうですか」

N氏 「『今回出会った人は』とあえて限定的にいわせていただきます。日本人の場合、作業全体で想定されるリスクを考えて対応していますが、現地では『私の責任はこの部分まで』という態度が露骨に出ていましたね。その意味では日本の商習慣などを理解しているブリッジSEの需要が大きくなっているのも納得できました。

 今後、現地エンジニアとは、記録を残すなどしてより詳細なプロセスに落とし込んで仕事を進めることが重要だと思いました。後になってからいった、いわないでトラブルになるようなことは絶対に避けたいと思います。一部分を完全に委任するといったスタイルは取らず、こちらから進ちょく確認をするなど、コミュニケーションを密にする必要もあるでしょうね」


 中国ビジネスと一口でいっても、従来の日本人エンジニアの中国赴任・出張は、オフショア開発に従事したり、現地のユーザーにシステムを導入したりするためのものが多かった。一方、最近は今回のN氏のように、現地法人の運営に際して、社内情報システム部門担当者が中国に出張するケースが急速に増えているようだ。特に出張時などアウェーでの活動では時間的に限られてしまうケースが多いので物理的・心理的制約が大きいと思うが、日本でのやり方と現地でのやり方、それぞれをきちんと検証できれば、自社にとってのベストプラクティスが見えてくるだろう。

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