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国際競争時代に突入するITエンジニアに生き残り策はあるか?
日本人ITエンジニアはいなくなる?

第23回 アメリカ人ITエンジニアもいなくなる?

小平達也
2007/6/22

ITエンジニアの競争相手が海の向こうからやってくる。インド、中国、それに続くアジア各国。そこに住むエンジニアたちが日本人エンジニアの競争相手だ。彼らとの競争において、日本人エンジニアはどのような道を進めばいいのか。日本だけでなく、東アジア全体の人材ビジネスに携わる筆者に、エンジニアを取り巻く国際情勢を語ってもらった

「バーチャル移民」さえも自国の成長に取り込むアメリカのすごみ

 つい先ごろ、日本の労働生産性がアメリカの7割程度で、主要国では最低の水準にとどまっている(2005年時点)という内閣府の発表があった。特にサービス分野での低迷が目立つということだが、その背景にはIT活用がまだまだ遅れているからだという声がある。

 筆者は先日、インドのIT産業を研究され、著書に『インドのソフトウェア産業―高収益復活をもたらす戦略的ITパートナー』(東洋経済新報社)がある拓殖大学国際学部 小島眞教授にお話を聞く機会があった。対談では自らの「強み」を前面に打ち出し、世界で通用させていくこと、これを「フラット化力(りょく)」としたうえで、海外の活力をどのように日本の産業の発展に生かしていくかをテーマに話を聞かせていただいた。

小島教授によると世界の海外アウトソーシングのうち、インドのオフショア開発が占める割合は65%、BPO(business process outsourcing)では46%を占めているという。さらに話を進めていくと、インドのITサービス輸出先について、国別・顧客別でそれぞれ特徴があるという。

2005年度:インドのITサービス輸出先(国別)
1位:アメリカ(66.5%)
2位:イギリス(15.3%)
3位:ドイツ(2.4%)
4位:オランダ(2.0%)
5位:日本(1.5%)

2005年度:インドのITサービス輸出先(顧客別)
1位:銀行・金融サービス・保険(38.1%)
2位:ハイテク・テレコム(19.8%)
3位:製造業(12.9%)

NASSCON(インドソフトウェア企業連盟)の最新年報
(Strategic Review, 2007:The IT Industry in India)

 これらを見ると分かるとおり、インドのITサービス輸出先ではアメリカが群を抜いている。また顧客の業界を見ると特に銀行・金融サービス・保険という分野が多い。少し乱暴ではあるが単純化して考えるとアメリカは金融業を中心にインドのITサービスを積極活用しており、結果として生産性向上を果たしているという様子がイメージできるだろう。

 かつては移民を国内に受け入れ、人口増加と多様性を内包することにより発展をしてきたアメリカが現在ではインドなど海外にいる人材、いわば「バーチャル移民」の活力さえも自らの成長に取り込んでいる。そうしたスタンスにすごみを感じる。

アメリカ人ITエンジニアもいなくなる? 「MY JOB WENT TO INDIA」

 上記のように、先進国の中でも特に海外アウトソーシングが進むアメリカでは、実際に働くITエンジニアたちはこれをどう受け止め、対処しているのだろうか。まさにこの疑問に対しアメリカ人のプログラマの視点から答えてくれている本があるので今回紹介しよう。『MY JOB WENT TO INDIA―オフショア時代のソフトウェア開発者サバイバルガイド』(Chad Fowler著 でびあんぐる監訳 オーム社)である。

 本連載第18回「『フラット化する世界』のキャリア形成を考える」では『フラット化する世界(上・下)』(Thomas L. Friedman著 伏見威蕃訳 日本経済新聞社)を紹介した。この本は新しい通信テクノロジの出現がインドや中国へのアウトソーシングを可能にし、結果として個人の働き方や企業のビジネスモデル、さらには国家システムに劇的な大変化をもたらしている、というテーマをジャーナリストの視点から記している。

 今回紹介している『MY JOB WENT TO INDIA』では、実際にインドに赴任したアメリカ人ITエンジニアが、自らの経験を基にオフショア開発の際のコミュニケーション手法やプログラマのキャリア形成へのアドバイスをしているところが特徴であり、興味深い点である。

 著者は同書の導入部分で「すべては自分の責任」「将来は自分次第」としたうえでITエンジニアとして自分のキャリア形成をしていくためのアドバイスを、ITエンジニア自身(とスキル)を1つの「製品」に見立てたうえで4つの側面から触れている。

・市場を選ぶ
・製品に投資する
・実行に移す
・製品を売り込む

 これらを見て分かるとおりエンジニアとしての立場を基本としつつも、環境変化に対応し市場のニーズに即した対応を心掛けようというメッセージが伝わってくる。国内外のライバルたちに勝つにはどうしたらよいのだろうかという疑問に対して、具体的なアドバイスが得られるだろう。

 第5章の研さんを怠らないというテーマでは「既に時代遅れである」「君は既に職を失っている」など刺激的なタイトルが並び興味も尽きない。同書を読む限りにおいてはオフショアへの対応という点では、アメリカ人も日本人もかなり似た立場と思考にあるのではないかと感じた。アメリカのプログラマのオフショア開発への取り組み姿勢を垣間見ることのできる一冊である。

 また、普段日本をベースにグローバル展開を考えていると「中国プラスアルファ」としてインドやベトナムに目がいく。しかし、アメリカをベースにして見ると「インドプラアルファα」として東欧諸国、マレーシア、フィリピンなどでオフショア開発のプロジェクトを展開し、その延長線上に中国の存在があるという点が新鮮だ。非常に大きなテーマを扱っているのだが、訳がよいこともあるのだろう、全般に語りかけ口調で読みやすい。

「新しい波」に乗るために

 著者であるChad Fowler氏は読者にこうも語りかけている。

「最終的な目標は、僕らの仕事を取り戻すことではない。これまでに失ったような価値の低い仕事は、もともと海外に流出する運命にあったのだから。それよりも今後生まれるだろう価値の高い仕事に目をむけ、その新しい波に乗るために準備をしよう」

 「まさにそのとおり!」と筆者はいいたい。経済はグローバル化し、雇用元である企業が国境を超えて、研究開発・生産・販売、という世界をまたにかけたサプライチェーンを構築しつつある。企業の経済活動が「事業の最適化展開」をしている中で、仕事それ自体が「いままでも、これからもずっと、同じ場所にあり続けること」などあり得ないのである。この事実に目を背け否定したり、悲観的になったりしてもしょうがない。そうではなく、この波がいま、そこにあることを認めたうえで、この波に乗るためのポジティブな攻めの姿勢のキャリア観が必要だ。

 日本でも、アメリカでも、また日本国内の個々人それぞれでも置かれている立場は異なるが社会・業界や自らの職種の動向について幅広く現状を認識し、変化は必ず訪れるのだという危機意識を持つことが大切だ。そのうえで可能性を探り、前向きな一歩を踏み出す――この姿勢で「新しい波」をつかみ乗りこなしていく必要があるだろう。

筆者プロフィール
小平達也(こだいらたつや)
パソナテック 海外事業部 部長
パソナテックコンサルティング(大連)有限公司 董事
早稲田大学アジア太平洋研究センター「日中ビジネス推進フォーラム」講師

商社にて中国を中心としたサプライチェーンマネジメントの構築、運営に従事。現職では「人材サービスを通じて企業のグローバル展開を支援する」というミッションの下、大手日系グローバル企業の海外における人材採用と育成を支援している。外務省「『人の移動』に関するシンポジウム」で経済界の意見を発表のほか、学会などでの講演、執筆多数。

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