第8回 この納期、1週間遅らせてくれないかなあ?
ナレッジエックス 中越智哉
2007/9/7
■そして納品の日。遠藤さんの意外な告白
翌日からのテストは無事に終わり、晴れて納品の日を迎えることができました。納品には麻根主任と鮫島さん、そしてしんじ君が向かいます。納品先は、しんじ君にはすっかりおなじみのナレッジ商事です。無事に現地でのセッティングを終え、しんじ君たちはナレッジ商事の担当者、遠藤さんに報告を行いました。
麻根主任 | システムのセッティング作業ですが、先ほど終了しました。 |
遠藤さん | そうですか、それはどうもご苦労さまでした。 |
麻根主任 | なんとか下期の稼働開始までに、準備期間が確保できましたね。 |
遠藤さん | いやぁ、そうですねぇ。御社は納期が本当にきっちりしていて、いつも助かりますよ。 |
麻根主任 | ありがとうございます。 |
遠藤さん | いや、ホントに納期どおりでよかった。何年か前に、別の会社にリプレース案件を発注したときは、納期までにシステムができてこなくて、危うく私のクビも飛ぶかっていうことがあったんですよ。 |
しんじ君 | え? 遠藤さんがクビになりかかったんですか? |
しんじ君はびっくりして、思わず口を挟んでしまいました。
遠藤さん | そう。まぁ、いま思うと、こちらもリスクを考えてなかったっていう気がするんですけど、リプレース前のシステムは、機材がリースだったんですよ。それで、リースの契約は新システムが導入される直前の月で打ち切ってしまっていたんです。 |
しんじ君 | そうなんですか。じゃあ、納期に間に合わないと、代わりのシステムもないっていう状態だったんですね。 |
遠藤さん | もちろん、リースの延長はできないわけじゃないんですけど、会社の予算ではその月までしかリースをしない計算だったから、延長するとそれだけ経費がかさんでしまうことになるんですよ。 |
麻根主任 | ちなみに……。その機材のリース代というのは、おいくらくらいだったのですか。 |
遠藤さん | 全部含めてだと、数百万ってところですかね。 |
しんじ君 | す、数百万ですか……。 |
遠藤さん | 結局、1カ月遅れで納品してもらったんですけど、「あれが2カ月延びていたらお前はクビか左遷だった」って、後で社長にいわれましたよ。ハハハ。 |
しんじ君 | ……。 |
■納期が守れないと、自社も困る、お客さまも困る
会社に戻って自分の席に座り、ほっとしているしんじ君のところへ、上野部長がやってきました。
上野部長 | しんじ君、納品は無事に済んだかね。 |
しんじ君 | はい、なんとか。 |
上野部長 | そうか。それは結構。だが、今回は納期ギリギリだったらしいじゃないか。 |
しんじ君 | はい、私のモジュールの不具合が原因で……。 |
上野部長 | まぁ、原因は構わんのだよ。しんじ君が納期の大事さをきちんと理解してくれていればだ。 |
しんじ君 | はい、今日、遠藤さんにお話を伺って、よく分かりました。 |
上野部長 | ああ、あの件か。 |
しんじ君 | え、上野部長もご存じだったのですか? |
上野部長 | 当時、私は別の案件でナレッジ商事さんをよく訪問していたんだよ。まぁ、聞きたくなくても、そういう話はマシンルームにいれば聞こえてくるものだよ。 |
しんじ君 | そういうものなんですね。 |
上野部長 | うむ、納期が守れないとわれわれも困るが、何よりもお客さまを困らせることになる。お客さまが困り、われわれが信頼を失えば、仕事をいただくこともできなくなってしまう。現に、その会社はそれ以降、ナレッジ商事さんとは取引がなくなったらしい。 |
しんじ君 | そうなんですか……。 |
今回は無事に納期を守ることができたしんじ君ですが、あの不具合にこだわり続けていたら、もしかすると危なかったかもしれません。しかしナレッジ商事の遠藤さんの事例や上野部長の話を聞き、納期の大切さをあらためて認識することができたようです。
「ITエンジニアにとって、納期は絶対なんだ……。難しいこともあるけど、お客さまに対する責任を果たしてこそ一人前ってことだな。これからはもっとそういう意識を持たないといけないんだなぁ」
今日もまた1つ、学ぶことができたしんじ君。真剣な面持ちで、納品の報告書を作成し始めるのでした。
今回のインデックス |
この納期、1週間遅らせてくれないかなあ? (納期直前! 頑張れしんじ君) |
この納期、1週間遅らせてくれないかなあ? (それは無理だよ、しんじ君) |
この納期、1週間遅らせてくれないかなあ? (遠藤さんの告白) |
筆者プロフィール |
中越智哉●北海道出身。北海道大学大学院電子情報工学専攻修士課程修了。在学中はJavaとLinuxに熱中。卒業後、Javaの仕事にあこがれ、1999年にテンアートニに入社。Java の受託開発案件や教育事業、コンサルティングなどを幅広く担当した後、2006年2月に同社を退社。同年3月にナレッジエックスを設立。 JavaをはじめとするIT開発技術の教育に奔走する。趣味は自転車と草野球、そして毎日欠かさない耳かき。 |
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