定時で帰るメンバー。作業は順調なんだよね?
ナレッジエックス 中越智哉
2008/2/14
■定時で帰っているし、作業は順調?
翌日からの数日間も、初日と同じように過ぎていきました。パートナー会社の2人は、定刻になるとすんなり仕事を切り上げて帰宅しています。鮫島さんはそんな2人を見て、作業は順調なのだろうと安心していました。
もちろん、鮫島さん自身の作業も順調そのものでした。このままのペースでいけば予定より早く終わってしまうかもしれないと思えるくらいです。
ある日、終業時刻を少し過ぎたころ。帰り支度を始めた鮫島さんを、麻根主任が呼び止めました。
麻根主任 | 鮫島君、ちょっと。 |
鮫島さん | はい、麻根主任、何でしょう。 |
麻根主任 | どうだい、作業は順調かね? |
鮫島さん | はい、私はいまのところは……。 |
麻根主任 | 君1人だけじゃなく、全体としてはどうなんだね? |
鮫島さん | はい、ほかの人たちも特に困っている様子もないですし、定時にすんなり帰ってますので、たぶん順調に進んでいると思います。 |
麻根主任 | それは、本人に確かめたのかい? |
鮫島さん | あ、いえ。 |
麻根主任 | それじゃあ、本当の状況は分からないだろう。うちのパートナー会社の方たちは、時間で契約しているから、何も指示されなければ定時に退社してもらうようになっているんだよ。 |
鮫島さん | え、そうなんですか? |
麻根主任 | そうだ。まあ今日は外山さんも注島さんも帰られたようだから、明日の朝一番で状況を確認してみなさい。できれば、ソースも見せてもらった方がいいね。 |
鮫島さん | は、はい。 |
鮫島さんは不安になってきました。もしかしたら、ほかの2人が何もいってこないのは、作業が順調だからではないのかもしれない。自分が何もいわないから、向こうもいいにくいだけなのではないか? そんな気がしてきました。
■不安が的中。どうする、鮫島さん?
翌朝。鮫島さんの不安は現実のものとなりました。パートナー会社の2人に状況を聞いてみると、鮫島さんの予想よりもはるかに遅れていることが分かったのです。このペースでは、いくら鮫島さんが早く作業を終わらせても、とても間に合いそうにありません。
鮫島さん | ……そうですか。お2人とも、少し作業が遅れ気味ですね。もし、作業を進めるうえで何か分からないところがあったら、聞いてくださいね。 |
外山さん | はい。でも、鮫島さんも作業がおありで、お忙しそうなので……。 |
鮫島さん | 確かにそうなんですけど……。取りあえず、お2人の作成途中のソースファイルを、私にメールで送ってくださいますか。そのまま作業を続けていただいて結構ですから。 |
鮫島さんは、昨日麻根主任にいわれたとおり、2人のソースを見てみることにしました。自分の作業はいったん中断し、作成途中のソースファイルを最初から最後までじっくり読んでいきました。2人のプログラミングスキルも分からない状態では、的確な指示もできないだろうと考えたのです。
ソースファイルを読み進めるうち、鮫島さんは2人のスキルやプログラミングの特徴が分かってきました。外山さんは、プログラミング言語の基本的な文法があまり習得できていないらしく、あるAPIを使えば1行で済む部分を十数行かけて記述している個所や、記述そのものが間違っている個所が多くありました。一方の注島さんは、基本文法は問題ないものの、設計書に記述されたとおりにプログラミングできていない個所がかなりありました。
鮫島さんは、このことを麻根主任に報告しました。
鮫島さん | 麻根主任、いまよろしいでしょうか。 |
麻根主任 | うん、何だね。 |
鮫島さん | 昨日、主任にいわれたとおり、お2人のソースを見てみたのですが……。 |
麻根主任 | で、どうだった? |
鮫島さん | はい、それぞれ、苦手なところがあるようです。 |
麻根主任 | そうか、じゃあ、鮫島君が彼らをサポートしてあげるんだ。 |
鮫島さん | はい……や、やってみます。 |
麻根主任 | 鮫島君、君がリーダーなんだから、作業が期限までに間に合うかどうかは、君の頑張り次第なんだ。頼むよ。 |
鮫島さん | はい。 |
■メンバーのサポートにまわる鮫島さん、そして……
鮫島さんは、人と話すのがあまり得意な方ではありません。ですがここで頑張らないと、結局は自分の仕事が増えてしまうことになりそうです。
鮫島さん | 外山さん、ちょっとよろしいですか。 |
外山さん | はい。何でしょうか……。 |
鮫島さんは外山さんのソースを一緒に見ながら、文法の誤っているところや、記述が冗長なところを1つ1つ指摘していきました。
鮫島さん | ……と、いう感じです。もし文法的なところで分からないところがあれば、遠慮なく聞いてください。 |
外山さん | はい! ありがとうございます。 |
鮫島さんは、同じように注島さんにもアドバイスを行いました。その日からは、自分の作業半分、ほかのメンバーのサポート半分という状態で作業が進んでいきました。
結局、予定よりもだいぶ進んでいた鮫島さん担当分のプログラミングは、期限ギリギリまでかかってしまいました。しかし、鮫島さんのサポートによってほかの2人は徐々に遅れを取り戻し、やはり期限ギリギリではありましたが、何とか3人はすべての作業を終えることができたのでした。
いまでも鮫島さんは、人と話すのがあまり得意ではありません。でも、あのプロジェクトをきっかけとして、仕事で必要なコミュニケーションは取れるようになりました。そして、ほかのメンバーのソースを細かく確認するようにもなりました。
鮫島さんがしんじ君の作ったソースの間違いをすぐに発見できたのも、いつも的確なアドバイスができたのも、しんじ君の知らないところでソースを隅々まで読んでいたからこそでした。
鮫島さん | あいつは、うまくやるかな? |
そう、この2月から始まったプロジェクトで、しんじ君はあのときの鮫島さんと同じく、プログラミングのリーダーを任されていたのです。そしてプロジェクト全体の進行を管理するリーダーは、誰あろう、鮫島さんなのです。
しんじ君にはまだまだ、覚えることがたくさんありそうです。
今回のインデックス |
新人鮫島さん、初めてのリーダーに |
新人鮫島さん、必死でメンバーをサポート |
筆者プロフィール |
中越智哉●北海道出身。北海道大学大学院電子情報工学専攻修士課程修了。在学中はJavaとLinuxに熱中。卒業後、Javaの仕事にあこがれ、1999年にテンアートニに入社。Java の受託開発案件や教育事業、コンサルティングなどを幅広く担当した後、2006年2月に同社を退社。同年3月にナレッジエックスを設立。 JavaをはじめとするIT開発技術の教育に奔走する。趣味は自転車と草野球、そして毎日欠かさない耳かき。 |
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