第4回 苦手な仕事から逃げず、最後までやり抜く方法
樋口研究室
山本隆之
2009/1/23
■新人の態度が変わった理由
日がたって、再びこのSEと会う機会がありました。どうアドバイスしようかと私も悩んでいたので、会うのにちょっと勇気がいりました。でも会ってみると、あれ? なんだかSEの顔つきが、以前よりも明るいのです。何か変化があったようです。何があったのか、私はSEに尋ねてみました。
少し前、SEは新人と一緒に、3日間の演習形式の研修に参加したそうです。その研修以降、新人の態度が変わったというのです。いったい研修で何があったのでしょうか。
研修では、システム設計の演習がありました。演習の中で、ユーザーの要望をまとめ、どのようなシステムを作ればいいのかを考える作業があったそうです。
新人は大学院でコンピュータの知識をしっかり勉強しています。だから自分は演習を楽に乗り切れる、そう思っていたようです。
しかし、いざお客さま役の講師に向かってみると、どうもうまくいきません。何を聞いたらいいか分からない、何に困っているのか分からない、何が役に立つのか分からないのです。学生のとき、コンピュータだけを相手にしていた新人は、初めて生身の人間を相手にして戸惑い、演習がまったく先に進まない状況になったのです。
一方のSEは、システム設計が得意というわけではありません。でも、お客さまに対応するときの状況には慣れていました。自分がいままで経験してきたことをベースにして、やれることをやってみよう。そう思ったそうです。
例えば、困っていることを聞き出すときは、「お困りのことは何ですか」と素直に相手に尋ねたそうです。ある機能が役立つかどうか分からないときは、「これうまく使えそうでしょうか」と素直に尋ねてみたそうです。答えが分からなかったら、やはり素直に相手に尋ねてみる。これがSEが経験してきた対処法でした。新人が手も足も出なかった演習を、SEはこうして無事に乗り切りました。
研修が終わった後、新人はポツリといったそうです。
「SEに必要な能力というのは、コンピュータの知識だけではないのですね……」
■まずは自分のできることをしてみよう
今回のケースを分析すると、とても面白いことが分かります。SEは、自分に不足していることに気を取られ、自信をなくしていました。特に新人に対して、知識の面で引け目を感じていました。
でも、新人にも不足しているところがありました。人と話す経験です。システム設計の演習で初めて明らかになったのです。これが本当のお客さまの現場だったら、新人は窮地に立たされていたかもしれません。
結局のところ、難関を乗り切るのは、「頭で考えたこと」ではなくて、「体で覚えていること」なのだなぁ。SEはそんなことを思ったそうです。そしていいました。
「まずは自分のできることを、きちんと正確にする。これが大切なんだ。そう感じました」
■「自分のできること」を見つけ、活用する
この「自分のできること」は、以下の3つの中に隠れています。
- 過去、自分のやっていた「経験」
- 過去、誰かに指摘された「癖」
- 過去、ささやかれていた「評判」
図1 「自分のできること」はどこに隠れている? |
「経験」は、努力して手に入れてきた、あなたのスキル。「癖」は、努力しなくても自然に出てくる、あなたの傾向。そして「評判」は、誰もが疑いなく感じる、あなたの評価です。
私は、こういう3つの中に、ITエンジニアのできることが隠れていると思います。できることをうまく見つけ、活用すると、自分の成果や実績につながっていきます。
今回登場したSEは、お客さまとの会話を、いつも和気あいあいと進めていたそうです。自分はトレーナーとして不適格だと感じていたSEですが、あるとき研修でいつも自分が行っている会話や接し方、仕事の手順を示したところ、新人には立派なトレーナーの姿に見え、成果につながりました。
このように、「自分のできること」は、ちょっと隠れていて見えなかったりします。だからいつも自分の傾向(できること)を探し(探索し)、それをうまく使って仕事すると、成果につながるのです。私はそう思って、皆さんとお話しするようにしています。
いかがでしょうか。読者の皆さんも、苦手な仕事を頼まれると「スキルがないからできない」とか、「ほかの人ならもっとうまくできる」とか、いろいろな思いが浮かび、心のパワーが落ちてくると思います。
でも逃げてばかりいては、良い結果は得られません。そういうときは、無理せず、シンプルに、素直に、自分のできることを見つけて、しっかりやる。これが結局、良い結果を生むのです。
ぜひ、自分のできることを探索してみてください。それが現場でメンタルヘルスを保つ秘訣になると思います。
今回のインデックス |
自信がないのに、優秀すぎる新人のトレーナーを任された |
「自分のできること」を見つけ、活用する方法 |
筆者プロフィール |
山本隆之●樋口研究室の認定ITコーチ。会社ではITサービス案件に参画し標準化やフレームワーク開発の仕事をしている。「自分のパフォーマンスアップこそが、チームや会社のパフォーマンスアップにつながる」。これが持論である。 |
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