第5回 技術力が足りない私。スペシャリストになりたい!
樋口研究室
山本隆之
2009/2/24
■ハードウェアの専門家、Bさんの行動から
何度か報告をもらった後の、あるときのことです。
プロジェクトでまた障害が発生したそうです。今度はハードウェアのトラブルで、ハードウェアの専門家のBさんが呼ばれました。
Bさんはあわてませんでした。ゆっくりと、問題があったサーバの場所まで行き、慣れた手つきでエラーログを取得し始めました。Aさんはこう感じたそうです。
「やっぱり、本物の専門家は違うなぁ……」
しばらくBさんの様子を観察していたAさんは、奇妙なことに気付きました。
エラーログの解析をしている様子は全然ありません。マニュアルを見ているわけでも、インターネットで調べているわけでもありません。Bさんが何をしたかというと、さっと携帯電話を取り出して、誰かと話を始めたのです。
「ログをそちらに送るから、見てくれないか?」
そういう会話が聞こえてきました。
その後も、携帯電話での会話と作業が繰り返され、無事問題は解決しました。この間、1時間。素早い行動です。
でも振り返ってみるとBさんは、電話の向こうの人に情報を伝え、指示を仰いでいただけ。Aさんは、専門家とはどんな問題も1人でさっと解決する人だと思っています。別の人の指示を受けて作業をしていたBさんは、Aさんの思う専門家とは違います。
Aさんは、Bさんに声を掛けてみました。どのように問題を解決したのか尋ねてみたのです。するとBさんから、驚くような答えが返ってきました。
「私はハードウェアの専門家ではないよ。分からなければ、知っている人に聞くのが一番早いよ」
このとき、Aさんはピンときたそうです。
「なるほど、専門家というのは、1人で解決しなくてもいいんだ!」
この言葉に、実は私もピンときました。何でも1人で解決できるなら、確かにスーパーマンです。でも、いろいろなITエンジニアと話していれば分かりますが、すべてのことを知っているITエンジニアは、それほどいません。人から専門家と呼ばれるITエンジニアも、分からないことを調べたり、勉強したり、教えてもらったりしているのです。
それまでのAさんは、「何でも自分1人でできなければいけない」と強く感じていたようでした。誰にも相談せず、難問を解決するのが専門家だと思っていたのです。でもBさんの姿を見て、「変化の早いIT業界では、人の力を借りて問題を解決してもいいんだなぁ」と気付いたようです。
■足りないものを補う方法や手段を見つけよう
もし、自分に足りないものがあると感じたら、それを補ってくれる(サポートしてくれる)方法や手段(サポーターといいます)を見つけましょう。そしてサポーターの力を借りながら仕事をしてください。
同じ成果が出るなら、1人で悩まず、サポーターの力を借りた方が、負荷が少なくてすみます。
サポーターを見つけるには、コツがあります。以下の「サポーター探索の3原則」です。
- 「人」を探す
- 「道具」を探す
- 「場所」を探す
図1 サポーター探索の3原則 |
「人」は、あなたの友人や家族、上司や部下です。「道具」は、あなたの知識や成果物です。「場所」は、あなたのいる仕事場や部署、地域です。
例えばあなたがプログラマで、不具合のないプログラムを開発したいなら、あなたにアドバイスしてくれる熟練プログラマが「人」。熟練プログラマが書いたお手本となるプログラムが「道具」。あなたと熟練プログラマが一緒に行動できる部署やコミュニティ、研修が「場所」。このようにサポーターを見つけ出していくのです。
私はこの方法をAさんに話して、どんなものが自分を助けてくれるかを考えながら仕事をするようにアドバイスしました。
■「にせもの」の専門家から専門家の卵に
「人」「道具」「場所」という考え方を手に入れたAさんは、障害が起こっても動じなくなりました。
社内でミドルウェアの専門家を探したり、不具合を解析する便利なツールを見つけたり、ミドルウェアの勉強会に参加したりすることで、当初1週間かかっていた解決時間が、3日、1日、半日と短くなっていきました。
足りなかった知識をいろいろなサポーターが補ってくれることが、Aさんのパフォーマンスアップにつながりました。Aさんが、「にせもの」の専門家から、専門家の卵へと成長した瞬間です。
皆さんも、「自分に足りないものがある」と思ってストレスを感じたら、自分を助けてくれるサポーターを見つけ、心のパワーを上げてみてください。私もそういうサポーターの1人です。
そうすれば、きっと本物のITの専門家になれると思います。
今回のインデックス |
触ったことのないミドルウェアの「専門家」に。どうする? |
専門家でも、たった1人で頑張らなくていい |
筆者プロフィール |
山本隆之●樋口研究室の認定ITコーチ。会社ではITサービス案件に参画し標準化やフレームワーク開発の仕事をしている。「自分のパフォーマンスアップこそが、チームや会社のパフォーマンスアップにつながる」。これが持論である。 |
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