第6回 先行き不安な時代に、今後の針路を決める方法
樋口研究室
飯田佳子
2009/3/27
過酷な環境にさらされながら、常にコンピュータ並みの正確さを要求されるITエンジニアたち。メンタルヘルスをうまくコントロールするには? 樋口研究室の「ITコーチ」たちが、現場でいますぐ使えるメンタルヘルス改善のワザを教えます。 |
先が見えない。これほど不安なことはありません。街灯のない道路を走る車、制御不能の飛行機、潮に流され続ける船。いったいどこに行き着くのか分からない。こんな状態が続いていたら、どんなに強い人でも、心や行動のパワーが落ちてくるでしょう。
いまの世の中も、先の見えない暗い海の中のようですよね。
こんなときこそ、自分や周りの人のモチベーションを向上させる取り組みが必要になってきます。今回は、先行きの見えない状況でも、元気に前進する方法を考えてみましょう。
■新規案件獲得のため、「社内で就職活動」
先日、あるITサービス会社でグループリーダー(管理職)を務めているAさんがやってきて、とても面白い話をしてくれました。
「いま、社内で就職活動やっています!」
なんと、社内で就職活動? いったいどういうことなのでしょう?
「会社で業務の改善活動が始まって、みんなで新規案件を取りにいこうということになったのです」
Aさんの勤める会社は、製造業の子会社です。親会社のITシステムの開発や保守作業で利益を得ています。
でも親会社は、折からの景気減速の影響を受けて、売り上げが低迷気味です。その結果、新規のIT案件は全面凍結になりました。来期のIT予算の減額も決定しました。当然、親会社の仕事を請け負うAさんの会社に流れるお金が減ります。放っておくと、Aさんの会社の経営は成り立たなくなります。
これは一大事ということで、Aさんの会社が決めたのは、新規案件の受注を増やすということでした。親会社に依存せずにビジネスを獲得するアイデアを、社員一丸となってレポートする。これがAさんに課せられたテーマだそうです。
■メンバーからは不満が噴出
Aさんは、この改善活動の趣旨を、チームのメンバーに説明したそうです。
「予想はしていましたが、メンバーからものすごい不満が噴出しました」
Aさん配下のメンバーは、設計やプログラミング、メンテナンスの専門家ばかりです。営業やマーケティングの経験者はいません。そういうメンバーが新規案件を探すのは至難の業です。
加えて、コスト削減でメンバーの数が減り始めています。でも仕事の量が減るわけではありません。
「自分の仕事で手いっぱいなのに、改善活動をする余裕はない。こんな活動はできない。そういわれました」
メンバーが「できない」と拒絶する気持ち、分からないではありません。わたしも過去、景気の悪い時代を経験しました。そのときのことを思い出します。
業績が悪くなってくると、会社のあちこちで仕事の改善運動や営業強化ミーティングが始まります。会議室や打ち合わせスペースでは、部長や課長、担当者が、侃々諤々(かんかんがくがく)の議論を始めます。現場では、さかんに勉強会やワークショップが実施されます。セキュリティ事故を防ぐ方法、プロジェクトの事例研究などです。仕事や生活の先行きが不安になって、なんとか突破口を見つけたいと思うからです。
でも、先が見えないときは、効果も出にくいものです。「結局、何をやってもダメ」。そんなマイナスパワーが渦巻いて、「できない」「無駄」といってあきらめるケースが多くなってきます。
■緊急事態を機に、今後の針路を考える
でもAさんの発想は、少し違っていました。Aさんはいいます。
「こんなときこそ、自分のことだけでなくみんなのことも考えてほしい。そう思っています」
同じ会社にいても、組織の統廃合などがあり、ずっと同じ仕事ができるとは限りません。いまの会社が別の会社になってしまうこともあります。Aさんは、こういうときこそ、全員で力を合わせて、先を乗り切る方法を考えてほしいと思っていたのです。
それを聞いて、わたしも同じことを感じました。景気が改善したら、いまよりもっと難しい仕事が増えるかもしれませんし、忙しくなるかもしれません。いま以上に状況が悪くなることもあり得ます。自分のことで手いっぱいのメンバーは、不況のような緊急事態が起こらない限り、今回のようなテーマについて考えないかもしれないな……。そう思ったのです。Aさんはいいます。
「だから、新規案件の獲得は、自分の就職先を探すことでもあるのですよ」
なるほど、「社内で就職活動」という言葉には、「不況という緊急事態を機に、今後の自分の進むべき針路を考えておく」という意味があったのですね。
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