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現場で使えるメンタルヘルス改善講座

第8回 「急げ」「早く」だけでなく、「じっくり」「ゆっくり」も考えよう

樋口研究室
山本隆之

2009/6/5

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あえて面倒なことをやる

 それから3カ月後のこと。PLさんから、またわたしと面談したいというリクエストが届きました。ちょっと驚きましたが、久しぶりにPLさんの話を聞いてみると、やり残しが原因で、いろいろな出来事が起こっていたのです。

 まず1つ目は、インドの開発会社からプログラムが納品されたときのことです。検証したところ、かなり仕様と異なるところがありました。インドの会社とのやりとりは英語でしないといけません。これが、なかなか相手に伝わらない。PLさんは、しっかり英語の勉強をしていれば良かった! そう感じたそうです。

 2つ目は、新規プロジェクトの見積もり作業をしたときです。見積もりの前提に何度も変更があって、何回も計算をやり直す必要があったそうです。PLさんは電卓をたたきながら、表計算ソフトの使い方を習得していれば良かった! そう思ったそうです。

 3つ目は、PLさんのプロジェクトチームが、会社の貢献賞に決まったときです。本社の表彰式で、PLさんが表彰状を受け取ることになっていました。でもその日を、完全にすっぽかしてしまったのです。上司から必ず出るように、そういわれていたのに……。PLさんは、スケジュール管理ソフトを導入していれば良かった! そう思ったそうです。

 そういう失敗が重なったので、真剣にやり残しの削減が必要だ、PLさんは、そう感じて、再びわたしのところに来たわけです。いきなりPLさんは宣言します。

 「今度こそ、やり残し削減に、取り組みます!」

 失敗した後だけに素晴らしい宣言です! でも本当にできるだろうか……。わたしには疑問でした。前回と同じようなアドバイスをすると、また失敗を繰り返すかも、そう感じたのです。

 そこでわたしは、アドバイスを少し変えてみることにしました。前回のアドバイスは「効率」を強調しましたが、今度は逆に「非効率」を強調してみよう。そう思ったのです。わたしは以下のようなアドバイスをPLさんにしました。

 「英語の勉強は、土、日の英会話教室でやってもらえますか? 表計算ソフトで毎日、使ったお金を記録できますか? 会社のイベントは、自分の空いている日に開催するよう上司と調整できますか?」。

 いきなりPLさんはいいました。

 「め、面倒ですね!」

 そうなのです。このアドバイスは、手間も暇もお金もかかる面倒なことばかりです。でもPLさんはいいます。

 「でも、少し自分にパワーをかけて、やってみます!」

 PLさんが本当に実行できるかどうか、わたしも不安でしたが、しばらくしてPLさんは、土曜日の英会話教室に通い始めました。表計算ソフトの参考書もネット書店で買ったそうですし、自分の空き日程を知るために手帳を用意して、スケジュールを書き込むようになりました。

 その後のPLさんの状況ですが、TOEICの点数は少しずつアップしています。ひととおりの見積もり書を作れるように表計算ソフトも使えるようになりました。会社のイベントに少しずつ出席するようになり、会社にどんな人がいるのか分かって、とても良かったといいます。PLさんはいいます。

 「急げ、早く、それだけでなく、じっくり、ゆっくり、これができることも、重要なのですね……」

 これにはわたしも、そのとおりだなあと、思いました。

「効率」「非効率」にはそれぞれ一長一短がある

 やり残しの実行は山登りに似ています。

 ヘリコプターで頂上に向かえば、短い時間で登頂できます。でもヘリを借りるのに莫大な費用が要ります。徒歩で頂上に向かうこともできます。パートナーの選定や日程、天気などじっくりプランをたてて楽しく頂上を目指せます。でも結構な時間がかかるでしょう。

 同じ頂上に行くにしても、ヘリ(効率)と徒歩(非効率)では、一長一短があります。どちらのメリット、デメリットも、しっかり考えて、現時点で最適な方法を選択する。これが成功するポイントになると思います。

図1 「効率」も「非効率」、どちらも考えよう

 さて、皆さんも「やり残しリスト」を作って、できない理由を分析してみてはいかがでしょうか。自分の行動の品質をアップさせる、良いツールになると思います。リストを作るのが面倒なら、わたしのところに来て、一緒にリストを作りましょう。今回のPLさんのように、役立つアドバイスができると思います。あなたの心のパフォーマンスアップのために、「やり残しリスト」をぜひ作ってみてください。


今回のインデックス
なかなか減らない「やり残し」
あえて面倒なことをやる

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筆者プロフィール
山本隆之樋口研究室の認定ITコーチ。会社ではITサービス案件に参画し標準化やフレームワーク開発の仕事をしている。「自分のパフォーマンスアップこそが、チームや会社のパフォーマンスアップにつながる」。これが持論である。

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