マイクロソフト最上位資格“アーキテクト”合格への道

荒井亜子(@IT自分戦略研究所)
2009/1/30

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昨年、マイクロソフト最上位資格Microsoft Certified Architectにおいて、史上2人目の日本人の合格者が誕生した。合格者に、試験内容の詳細、取得のメリットを聞いた。

マイクロソフト最上位資格、Microsoft Certified Architect(MCA)

 マイクロソフトの認定資格でMCAと聞くと、マイクロソフト技術製品の入門資格Microsoft Certified Associate Programを連想する人が多いかもしれない。紛らわしいのだが、MCAにはもう1つ意味がある。Microsoft Certified Architect、つまりITアーキテクトのためのMCAだ。この資格は、マイクロソフト製品にとどまらない幅広い知識と業務経験、大規模プロジェクトにおける業務遂行能力を認証するもの。マイクロソフトの認定資格で最も難しいといわれている。

 このMicrosoft Certified Architect(以下、MCA)は、日本ではマイクロソフトのデベロッパー&プラットフォーム統括本部が進めるITアーキテクト支援の1つで、MCPプログラムの中でも、MS製品「単体」に関するスキルやノウハウを認定するテクノロジシリーズおよびプロフェッショナルシリーズとは一線を画す※訂正。だが、開発者もITアーキテクトも同じITエンジニアではないのか、MCPの上位資格にMCAがあってはいけないのだろうか。マイクロソフトがMCAとMCPを区別する理由、マイクロソフトが考えるITアーキテクトについて同社 デベロッパー&プラットフォーム統括本部 アーキテクチャーエバンジェリストの野村一行氏に聞いた。

 野村氏は「まず、マイクロソフトではデベロッパー(開発者)とITプロフェッショナルを総称してITエンジニアと呼びます」と前置きをした。マイクロソフトのいうデベロッパーとはマイクロソフト技術を用いコーディングでアプリケーション開発をする人のこと。一方、ITプロフェッショナルとは、マイクロソフト製品の機能を熟知しインフラとして使用する人のことだ。デベロッパーとITプロフェッショナルの違いはコーディングするかしないか。続けて野村氏は、「ITアーキテクトは、デベロッパーから独立した1つのオーディエンスという位置付けです」と説明する。マイクロソフトのITアーキテクトとは、マイクロソフト製品に限らず他社の製品も使いシステム統合、大規模アプリケーション開発の設計などをする人で、マイクロソフト製品やITエンジニアの枠を超えた存在なのだという。

 マイクロソフトがITアーキテクトをITエンジニアと分けて考えるようになった背景には、Microsoft .NET Frameworkの出現がある。それまではもっぱらWindows上でプログラムを作るための技術情報を提供していたマイクロソフトだが、Microsoft .NET Frameworkによって特定の言語に寄らない開発・実行環境を提供した。さまざまなプラットフォームを取りまとめ、整合性のあるアプリケーションを設計するにはどうすればいいのかという時代の要請もあった。「われわれは自社製品のコーディング技術の支援だけでなく、もう少し大きなアプリケーションの構造や設計の考えを広めていく必要性を感じました。従来のデベロッパー向けの支援内容と混ぜこぜにするのではなく、ITアーキテクトに対し、彼らの関心事に基づいた情報提供支援をしていこうと思ったのです」(野村氏)。マイクロソフトは、複雑化するIT技術環境で、今後もITアーキテクトの必要性が高まると考えた。

 MCAは2006年6月から本格的に始動し、取得者は現在世界で100人程度。MCP/MCTS取得者数20万人のわずか0.05%しかいない。試験形態は、選択式問題によるペーパー試験中心のMCPプログラムと異なり、4人のボードメンバーとのインタビュー形式で行われる。受験会場は米国で、試験はすべて英語だ(今後は日本語化も検討中とのこと)。受験料金は4950ドル(過去には1万ドルの時期もあった)と高価。だが実際のところ、取得にお金や時間がかかるわりに、メリットはあまり知られていない。

アバナード CTOアーキテクト/グループマネージャ 福井厚氏

 昨夏、日本人で史上2人目のMCA合格者が誕生した。マイクロソフト社員以外の日本人合格者としては初。その日本人2人目の合格者とは、アバナード CTOアーキテクト/グループマネージャ 福井厚氏だ。福井氏のITエンジニア暦は22〜23年。「普段わたしはコードもドキュメントもたくさん書きます。テクノロジはマイクロソフト一筋ですが、ITアーキテクトとしては競合との比較を語れることが重要です。そのために、JavaやLinuxを勉強したりもします」というベテランエンジニアだ。エンタープライズ系の業務アプリケーションの構築やカスタマイズを担当し、主な業務内容はシステム基盤の構築やアプリケーションのフレームワークの作成。受注前の提案活動やインフラの設計も一部行うという。

 今回@IT自分戦略研究所は福井氏に、試験の詳細な内容、試験を受けた理由、資格取得のメリットを聞いた。

提出するドキュメントは20枚以上、インタビューは3〜4時間におよぶ

 MCAには、MCA Technology certification(platform-based)とMCA programs for broad architecture skills(technology agnostic)の2種類がある。platform-basedは、Microsoft Exchange ServerやMicrosoft SQL Serverなどのマイクロソフトテクノロジを対象にした資格で、受験にはMCPプログラムの最上位資格であるMCM(Microsoft Certified Master)の取得が前提となる。今回福井氏が取得したのはtechnology agnostic、ソリューションアーキテクチャに類する資格だ。前提条件はないが、目安として最低10年の業界経験を要する。

 MCAの試験科目には大きく分けて2つのステップがある。ドキュメントとインタビューへだ。受験者はエントリー後、課題に沿ったドキュメントを提出し、そのドキュメントを基に米国でReview Boardというインタビュー試験を受ける。

ドキュメント

 福井氏は、ドキュメントには3種類あり、かなりの量だったと述べる。「ドキュメントの準備までに3〜4カ月かかりました」(福井氏)。

(1)職務経歴書

 いままでの経歴をレジュメ形式でまとめたもの。

(2)7つのコンピテンシー

 7つのカテゴリそれぞれに対してどのようなスキルがあるかを記述したもの。7つのコンピテンシーとは、(1)プロジェクトや顧客に対するリーダーシップ、(2)ストラテジ(どういう戦略を持ってプロジェクトを成功に導いたか)、(3)コミュニケーションスキル(プレゼンテーション含む)、(4)タクティカル&プロセス(2の戦略に対し、どういう戦術を取ったか)、(5)テクノロジの深さ(特定の技術にどれくらい詳しいか)、(6)テクノロジの広さ(マイクロソフト以外の技術についてどれくらい知っているか)、(7)オーガニゼーションダイナミックス(組織間の人間関係や政治をどれだけ調整できるか)。これら7つの視点で、自分がプロジェクトにどれくらい影響を与えられるかを書く。全部でA4で4〜5ページになったという。

(3)ショーケース(ケーススタディ)

 いままで経験したプロジェクトを1つ選び、具体例を書く。プロジェクトの概要、顧客のビジネスの内容、プロジェクトの目的、実際に起こった課題、その課題に対し自分が提示した解決策の選択肢、最終的に自分が取った対処法とその理由を合理的に説明する能力が求められる。アーキテクチャ全般にかかわる内容。福井氏は、システム構成図含めA4で20ページ程度の分量になったと述べる。

 ちなみに、MCA試験の特徴の1つに、メンタリングサービスがある。欧米に住むメンタリング専門の人(Reviewer)が、書き途中のドキュメントを見てアドバイスや注意をしてくれるのだという。福井氏は、ワシントンD.C.に住むReviewerに、電話会議でアドバイスを受けたとのこと。メンタリングサービスを受け、ブラッシュアップしたドキュメントは、Review Boardの約1カ月前までに提出する。

※訂正 (2009年2月2日15時21分、編集部)
[訂正前]
このMicrosoft Certified Architect(以下、MCA)は、日本ではマイクロソフトのデベロッパー&プラットフォーム統括本部が進めるITアーキテクト支援の1つで、開発者向けのMCPプログラムとは一線を画す。

[訂正後]
このMicrosoft Certified Architect(以下、MCA)は、日本ではマイクロソフトのデベロッパー&プラットフォーム統括本部が進めるITアーキテクト支援の1つで、MCPプログラムの中でも、MS製品「単体」に関するスキルやノウハウを認定するテクノロジシリーズおよびプロフェッショナルシリーズとは一線を画す。

 

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