いまお薦めのスキルはこれだ! 2007年春版
長谷川玲奈(@IT自分戦略研究所)
2007/4/24
■若手エンジニアは社内外に意識を向けて
グローバル ナレッジ ネットワーク ソリューション本部 ビジネススキルグループ プロダクトマネージャー 人材教育コンサルタント 高橋俊樹氏は「仕事を依頼するのも受けるのも、コミュニケーションがなければできないこと。そういう意味でコミュニケーションは基本的、普遍的なもの」と、その重要性を強調する。
グローバル ナレッジ ネットワーク ソリューション本部 ビジネススキルグループ プロダクトマネージャー 人材教育コンサルタント 高橋俊樹氏 |
「管理職向けのコミュニケーション関連コースの受講がここ1、2年で増えています。若手でもコミュニケーションの人気は変わりません。さらにコミュニケーションをベースに、ファシリテーションとネゴシエーションも増えてきています。ファシリテーションは社内外を問わず集団合意形成を円滑に進めるため、ネゴシエーションはお客さまとの折衝などの機会が増えてきてという背景です。30歳前後のITエンジニアに受けさせたいということです」
最近、コミュニケーションを学ばせるということ自体への認知が進んだと感じているそうだ。「『コミュニケーションなんてできて当たり前』とか『仕事の中で覚えなさい』という認識が変化し、学んで使えるテクニックがあるという考え方が上の人にも浸透してきているようです」
社内の人材育成に関する研修が増えてきているのも最近の特徴だ。例えばOJT研修。「担当者を任命して終わりではなく、会社が制度としてちゃんとOJTをまわしていこうという風潮が強まり、ここ2年くらい非常にリクエストが多くなっています」。具体的には、理想となる人材像を明確にしてOJTを考えるそうだ。「2008年の3月までに、A君にはこうなってほしいという人材像を設定します。それに基づいて『何を、いつまでに、どう教えるのか』を考えるのです」
「どう教えるのか」というところで、コーチング関連コースの人気もさらに高まっているそうだ。「根性と気合いで頑張れというだけでは部下は育ちません。部下とのコミュニケーションのアプローチの幅を広げる手法の1つがコーチングだということです」
新入社員に関しては、ドキュメンテーション関連コースの受講が去年くらいから増えてきたという。「文章力がそもそもない、日本語の使い方がおかしいというケースが多く、新入社員研修に文章力を付けるコースを入れてほしいという要望が増えてきました」
若手ITエンジニアが今後身に付けるべきスキルについては、こんなアドバイスを受けた。「若手から中堅になるに従って、周りへの影響力を増していかなければいけない。社内ではリーダーシップが、社外ではお客さまとの会話をきちんと進め、調整力を発揮するという点でファシリテーションなどがだんだんと必要になってきます。コミュニケーションをベースに調整力、交渉力、部下育成力など、社内外に意識を向けたスキルをバランスよく学んでいくのがいいのではと思います」。難しいことかもしれないが、やはり成長を続けていくには人間的なバランスの良さがカギのようだ。
■ITエンジニア以外の人もプロジェクトマネジメントを
富士通ラーニングメディア 研修事業部長 羽賀孝夫氏は、2005年下期と2006年下期を比較した受講者増加率ランキングを基に、「PDUを取得できるプロジェクトマネジメント関係の講座が軒並み上位にある」と話す。上位20コース中6コースがプロジェクトマネジメント関連だ。
富士通ラーニングメディア 研修事業部長 羽賀孝夫氏 |
その要因は「PMP資格取得者は増えているし、資格維持の一番簡単な手段は教育受講。ただそれだけではないと思っている」。というのも、受講者をITエンジニアに限っていないコースも上位に来ているからだ。
増加率ランキング2位の「プロジェクトマネジメント超入門〜プロジェクトの『ナゼ?』に答える〜」は、なぜそれをする必要があるのか、コスト管理/工数管理をしないと後々どう困るのかについての理解を進める入門コースだ。講義は講師が投げ掛けた質問を受講者同士が議論し、PMBOKに代表される標準的な考え方と融合させながら理解を深めていく形式で、にぎやかで楽しい雰囲気だという。事例もシステム開発プロジェクトのものに限らず、受講者には営業担当者も何割かいるそうだ。同社 研修事業部 生江孝至氏は「受講者の年代は20代後半〜30代が多いですが、50代の人もいて好評です。年代が上の人は、社内での指導を念頭に置いて受講しているのかもしれません」という。
羽賀氏は受講者の幅を広げた理由について「だいたいの仕事はプロジェクトのようなもの。プロジェクトの勉強によって、進めるうえでのポイントが身に付くだろうという狙いがある。新しいコースですが2位に入っているのは世の中のニーズにフィットしているのかと思う」と語る。今後、演習の豊富な実践型のコースを増やし、受注側ではなくて発注側向けのものを開発する考えもあるという。
このようにプロジェクトマネジメントスキルは、プロジェクトマネージャやその候補者はもちろんのこと、メンバーやITエンジニア以外の人など、学ぶ層が広がりつつあるようだ。
「なぜこれほど世の中で必要とされるかというと、PMBOKが共通言語となって共通認識を深めるから」と羽賀氏は指摘する。「開発プロジェクトにはベンダとしていろいろな会社の人が集まるし、お客さまもいる。一緒に仕事をしていくうえで共通言語が必要ということになる」
1位 |
SEに求められるネゴシエーションスキル――顧客・社内組織・協力会社との交渉術―― |
2位 |
プロジェクトマネジメント超入門〜プロジェクトの「ナゼ?」に答える〜 |
3位 |
プロジェクト管理疑似体験ワークショップ |
4位 |
システム品質マネジメント |
5位 |
業務分析・設計のためのプロセスモデリング実践トレーニング |
富士通ラーニングメディアが2007年4月に発表した受講者増加率ランキング。このランキングは、2005年10月〜2006年3月の2005年下期と、2006年10月〜2007年3月の2006年下期との比較による受講者の増加率を表す |
■新入社員、若手エンジニアが学ぶべきこと
羽賀氏も、新入社員研修にプロジェクトマネジメント関連コースを取り入れるケースは多いと語る。「『プロジェクト活動の基礎』というコースを一昨年から導入しているが、時宜にかなっていたらしく非常に人気がある」という。「文書作成訓練を新人研修で行うこともかなり一般化してきている」という点も、グローバル ナレッジ ネットワークと同様だ。
「プロジェクト全体がどう動いているかなんて、現場に入ってしまうと見えないものです。昔の開発プロジェクトは長かったですが、いまは数カ月ほどの短いプロジェクトを次々と渡り歩く。しかも上の人は常に複数のプロジェクトを見ている。つまりOJTが機能しなくなっているんです。
この状況に対応して、われわれも研修のやり方を変えています。OJTを補う研修を目指しているので、うまく使ってほしい。具体的には言語の教育もさることながら、ロジック力を付けること、システム構築の疑似体験をすることなどを目標としています」
若手エンジニアが今後学んでいくべきスキルについては、「これだけ幅広い技術が世にあり、何の技術を使うかはプロジェクトが起こってみないと分からないという時代に、何を学べばいいかという問いは大変難しい」と羽賀氏は語る。「新入社員研修での1つの提案は、やはりロジック構築力を付けること、IT技術の基礎をきちんと学ぶこと、プロジェクトがどう動くかを理解することが必要でしょう。これは2〜3年目の若手エンジニアに対しても同じです」。すべての基礎となるスキルが重要視される状況は、当たり前のようだが変わっていないようだ。
「加えて要素技術として何を学ぶかということになります。現在のデファクトスタンダード的なものが、受講者数ランキングに表れています」。前回同様、富士通ラーニングメディアの受講者数ランキングでは「ネットワークの基礎」「UNIX/Linux入門」「Javaプログラミング」などが上位を占め、「ほとんど変化がないです。大多数の人に、本当に必要とされている技術は変わっていないということです」。
若手エンジニアに学んでほしいヒューマンスキルとしては、コーチングとヒアリングが挙げられた。コーチングは受講者増加率ランキングの16位、ヒアリングは9位に関連コースが見られる。
「コーチングを取り入れたりメンター制度をつくったりする会社が増えているので、コーチングの受講もまだまだ増えると思っています。新入社員を指導するとき、単なる機会指導で失敗したときに教えるだけでは彼らは育ちません。常日ごろから何らかのコミュニケーションを取ることが必要で、それにはコーチングスキルを持っていると全然違います。新入社員のモチベーションを下げずに仕事をしてもらうことができるのです。
ヒアリングは聞き出す力で、この必要性が盛んにいわれています。要件定義のときにはお客さまから、システムに求めるものを説明してもらう必要がある。ところが最近は非常に状況が複雑になって、お客さま自身も明確に言葉にできないようになっている。それを何とか聞き出し、お客さまのイメージから具体的なシステムの機能に落としていかなければいけない。そういうスキルがいま求められているのです」
■幅広い知識+専門分野が必要な状況は変わらない
各社に話を聞く限り、基礎をしっかりと身に付けて広範囲のスキルを学び、そのうえで専門分野を持つことの重要性は変わらないようだ。ヒューマンスキルを含め、バランス良く学ぶこと。大多数の若手エンジニアにとってはそれが必要だ。
富士通ラーニングメディア 羽賀氏は最後にこう語った。「よく『T字型』といわれますが、専門分野が1つでいいのか、2つなのか3つなのかは分かりません。しかし幅広く知識経験を積んだうえで、いくつかの専門分野が必要ということは変わりません。実際問題、そうしていかないと仕事の幅が狭くなるし、専門分野を持っていないというのは精神的につらいのではないか」
まずは基礎力を見直すことから始めてみてはどうだろう。そこから周辺分野についても理解を広げ、社内外とのやりとりに必要なヒューマンスキルも意識する。仕事が忙しい中、容易なことではないだろうが、少しでも学びのヒントになればと思う。
今回のインデックス |
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