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アツいエンジニアに会いたい!

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第2回 サービスとインフラに精通してこそ「技術者」である


井上敬浩(慶應義塾大学大学院)
2010/4/26

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モバゲーのオープン化成功の中心人物、木村秀夫さん

井上:木村さんはPerlコミュニティで有名な方とお聞きしています。まず、木村さんの経歴を教えていただけますか。

木村秀夫さん
ソーシャルメディア事業本部 プラットフォーム統括部
木村秀夫さん

木村:わたしはISPのエンジニアとして6〜7年間、JavaやWindowsプログラミングに携わってきました。開発が好きだったのですが、コードを書く機会が減ってしまったので仲間と一緒に起業しました。さまざまな企業の仕事を受託し、刺激的な経験がたくさんできました。Perlコミュニティとの出合いは、2003〜2004年ごろだったと思います。それまで、Perlは簡単なツール作成にしか使っていませんでした。当時はブログブームで、Perlの「Catalyst」というフレームワークが使われていました。Catalystを使ったとき、Perlの可能性にとても感動したのを覚えています。そこから、どんどんPerlにのめり込んでいきました。

Perlのコミュニティ活動

井上:Perlコミュニティは、どのような雰囲気でしたか。

木村:とにかく、いろいろな意味で個性的なメンバーの集まりです。優秀なエンジニアがたくさん集まっていて、メンバー間のつながりが恐ろしく強い。毎週のように飲みに行っては、熱く議論していました。非常に刺激的なコミュニティで、コミット精神が大きいのが特徴ですね。皆、便利なツールを提供してコミュニティに貢献することを重要視しています。

井上:いまもコミュニティ活動は続けてらっしゃるのですか。

木村:もちろんです。いまでも非常に多くの刺激をいただいています。

入社早々降ってきた「モバゲーオープン化」という大仕事

井上:どのような経緯で、DeNAに入社したのですか。

木村:起業してからしばらくして、「もっとたくさんのユーザーに影響を与える仕事をしたい」と考えるようになりました。ECサイトの運営に関わったりしていたところ、PerlコミュニティのZIGOROuさんにDeNAへのお誘いをいただきました。BtoCの仕事をしたいという思いがあったため、思い切って入社を決意しました。

井上:当時のDeNAへの印象をお聞かせください。

木村:正直、あまりよくありませんでしたね。彼らはPerlコミュニティに所属していましたが、ほとんどコミットしていませんでしたので。

井上:DeNAでの初めのお仕事は何でしたか?

木村:まずは1カ月ほど研修を受け、開発環境の整備などを行いました。そのときは、モバゲーのオープン化の話はまったく出ていませんでした。夏になって、急にオープン化の話が舞い込んできたのです。しかも、わたしが1人で仕様を検討することになりまして。

井上:いかにもDeNAらしい出来事ですね。どのように仕事を進められたのですか。

木村:既存のOpenSocialのプラットフォームを利用するのか、あるいは1からプラットフォームを作り上げるのかを、最初に検討しました。先行するmixiとの足並みを併せて共通のプラットフォームを採用することにしましたが、「本当にそれが最適なのか」と何度も問われました。モバイル特有の苦労もありました。当時のDeNAはデータベースが独自の設定で、レンダリング技術には苦労させられました。

井上:なかなか苦しい開発だったと聞いていますが。

木村:もちろん大変でしたが、けっこう楽しくやっていました。1から自分で作り出せる喜びがあったからです。オープンソースを利用して、Perlのライブラリのリポジトリ、CPANなどから適切なツールを選んでアーキテクチャを構成する仕事は、楽しくて仕方ありませんでしたね。

井上:リリースまでの流れをお聞かせください。

木村:8月から9月にかけて仕様検討スケジュールを組み、3人体制で開発を進めました。わたしも、だいぶコードを書きました。その後、モバゲー自身の仕組みに詳しいITエンジニアが参加し、合計4人で1月4日のsandboxを公開しました。

井上:たった4人で作業したんですね、驚きです。リリース時には大きな問題などはありませんでしたか。

木村:最後になってバタバタしまして……。実は、予告どおり15時にリリースするのかを再検討する段階にまで追い込まれていました。なんとか15時にリリースできたのですが、さすがにあの時は痺れましたね。

優秀な技術者 =「お金もうけが分かっている人」

井上:DeNAのITエンジニアについて、どのような印象を持っていますか。

木村:優秀なITエンジニアがそろっていることに驚きました。わたしが考える「優秀なエンジニア」とは「お金もうけ」が分かっている人々を指します。彼らはビジネスセンスがあり、サービスの本質を理解している。さらにインフラ技術も理解している。本当に優秀です。わたしは、「サービスをユーザーに使ってもらってこそITエンジニアだ」と思っています。わたしたちは研究者ではないのです。

井上:なるほど。木村さんはスペシャリストかと思っていたのですが、そうではないみたいですね。

木村:はい、わたしはジェネラリストです。しかし、スペシャリストの方々とも交流が深いですし、ジェネラリストとスペシャリストの中間、橋渡し的な役割を担っています。

井上:スペシャリストは、どのような方々なのでしょうか?

木村:個性的な人が多いですね。彼らと話をすると、毎回いろいろな発見があるので非常に楽しいです。最近、DeNAにはスペシャリストが増えてきました。サービスの基盤をしっかりさせる、あるいはより高度な技術を使用するにあたって、非常に心強いことですね。

木村さんが次に切り開く未来

井上:モバゲーのオープン化は一段落したのでしょうか。現在やっているお仕事は何ですか。

木村:いまもプラットフォームの整備を続けています。アプリ開発者が使いやすい環境にするため、改良を続けています。近々、新機能をリリース予定です。

井上:木村さんの野望をお聞かせください。

木村:「世界に向けてのモバゲーオープン化」戦略を進めていきます。いまのプラットフォームは、あくまで日本の「ガラパゴスケータイ」に対応したものです。世界で通用するプラットフォームを作り上げていくのがわたしの野望の1つです。もう1つは、DeNAで培った技術をPerlコミュニティにコミットすることです。さまざまなツールを利用させてもらったのに、まだコミュニティへのコミットが果たせていません。こちらの野望も、今後果たしていきたいと思います。

井上:これからITエンジニアを目指す学生にアドバイスをお願いします。

木村:どんな仕事にも変なこだわりを持たず柔軟にこなすことが重要です。仕事で携わっている技術だけにとらわれず、幅広い技術を取得するように心がけてください。

井上:何かよい方法はありますか。

木村:ずばり、「趣味でもコードを書く」ということに尽きます。自分でコードを書いてWebアプリを作成、公開すれば、さまざまな問題が生じてきますので、非常に良い経験ができるでしょう。仕事にとらわれず自由に作りあげるサービスは、とても楽しいものです。楽しみながら幅広い技術を身に付けてほしいですね。

木村さんのインタビューを終えて

 「コミュニティに貢献したい」という木村さんの野望が印象的でした。いかにもコミュニティのコミッタらしいお言葉だと思います。

◇◇◇

 DeNAのエンジニアがサービスにかける“アツい”情熱は伝わったでしょうか? 本記事が少しでも就活生の方々の心に残り、新たなアクションを起こすきっかけになれば幸いです。

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記者プロフィール
井上敬浩(いのうえたかひろ)

 慶應義塾大学大学院理工学研究科で数理科学を専攻。研究内容はアルゴリズム・最適化。

 情報学は学んでこなかったが、学部4年時のITベンチャー企業でのアルバイトをきっかけに、ITの面白さにどっぷりと浸かるように。

 一通りのプログラミング言語を浅く広く学んできたが、まだまだ勉強不足を感じている今日このごろ。得意分野は、データマイニングや最適化アルゴリズムの実装。

 スピード感があって個人の裁量が大きいITベンチャー企業が大好き。


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