第2回 サイバーエージェントに聞く――「SI丸投げ」が招いた致命的なミスから学び、自社開発へ
エンジニアtype
2011/12/6
近年、ユーザー企業の「自社サービスの内製化」や「システムのクラウド化」などに伴い、SIerへの要求レベルが高まってきている。ここ2年で4000億円の減益といわれるSI業界の中で生き残っていくためには、どんなエンジニアスキルを磨いていけばいいのか。 |
※本記事は、「エンジニアtype」のコンテンツを一部@IT表記に統一した上で、許可を受けて転載するものです。
インターネット広告代理事業を皮切りに、各種メディアサービスを手がけるサイバーエージェント。同社はソーシャル系サービスを提供する企業の中でも、特にシステムの内製化を強力に推し進めていることで知られている。
最高技術責任者を務める佐藤真人氏によれば、システム内製化の背景には、分業主義的な従来型のSIerに対する問題点を指摘しているかのような意図が見え隠れしていた。
サイバーエージェント CADC推進本部 最高技術責任者 執行役員 佐藤真人氏 IT系出版社やブロードバンド配信会社、ネットメディア会社など、各種BtoC事業を経験後、2006年、サイバーエージェントに入社。現在、最高技術責任者としてAmeba事業や社内管理システム部門のけん引役を務める |
「BtoC事業を展開するサイバーエージェントのような企業の場合、自社のサービスをどれだけユーザーに使ってもらえるかがビジネスの要になります。そのためには、サービス内容の試行錯誤と要望、トラブルへの迅速な対応が欠かせません。われわれが内製化を進めるのは、外注に依存した体制では出せないスピード感を必要とするからです」
多くのユーザーを抱えるBtoC型のインターネットビジネスの場合、ちょっとした画面遷移の不備やシステム上のトラブルがユーザー離れを招くことにつながる。発見した不具合は一刻も早く改善しなければならない。一度離れたユーザーが帰ってくる保証はどこにもないからだ。
「外注に依存すると『明日から休みなので週明けまで対応できない』といったことも起こりえます。それではわれわれのビジネスは成り立たない。そのため、あらゆる面において自分たちで対処できる体制作りを進めているんです」
実際、サイバーエージェントでは一部の商用ソフトを除き、ほぼすべてのシステムをオープンソースで自社開発。サーバは購入したそばからエンジニアが分解し、必要とするスペックに組み替える。さらにエッジルータやロードバランサー、ファイアーウォールの設計から管理、運用、24時間監視まで、通常であればISPやIDC事業者の手を借りなければ難しいような領域まで自分たちで手がけている。
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「ソーシャル系サービス以外に広告代理店事業を手掛けていることも関係していますが、ここまで徹底するのは珍しいでしょうね。しかし自前で対処した方がノウハウの蓄積にもなりますし、スピード感を持ったビジネスが可能になります。この部分の体制づくりにおいては、同業他社とは大きく異なっているのではないでしょうか」
こうした"自前主義"を推し進めるようになったきっかけは、外注にまつわるある苦い経験がきっかけだったという。
■ 「SIerに丸投げ」で巻き起こった、Webサービスにとって致命的な障害
「わたしが入社する直前のサイバーエージェントは、広告代理事業以外のビジネスに乗り出そうとしていた時期で、社内にアイデアが豊富にあっても、社内の開発エンジニアが少なく、思うようにビジネス化できない状態でした。営業、企画部署を中心に、そのジレンマ解消のため、とある大手SIerの力を借りることにしたものの、実際にできたものは本来われわれが求めるシステムとはほど遠いものでした」
月間1億ページビューという、現在の数百分の一程度の負荷に耐えられず、サービス中断が頻発。ユーザー数も伸び悩み、打開策が見いだせない状態に陥っていた。
そんなタイミングで入社した佐藤氏。危機的状況を打開するために仲間とともにデータベースのチューニングを施したところ、みるみるユーザー数が伸びていったという。その後も商用中心からシステムアーキテクチャのオープン化を進めることで、それまでぜい弱さをみせていたシステムは日を追うごとに安定化。コストの圧縮とともに機能拡張も進めることができた。
■ 取り引きしたいのは、リスクを承知で新しい選択肢を提案できるSE
【サイバーエージェントが実践する開発姿勢】 1.新しいサービス、技術に取り組まない姿勢は「悪」 2.自由な代わりに自己管理を徹底 3.自分の設計、開発には責任を持つ 4.新人教育、採用には力を入れる 5.主体的な問題提起を解決 |
こうしたアグレッシブな開発姿勢を実践する同社の要求に応えられる協力会社は、残念ながらあまり多くはないという |
「われわれはこの経験で自己責任で解決することの大切さを痛感しました。エンジニアを大量採用し内製化するきっかけになったのも、この出来事が契機になっています」
この教訓により、外部業者との付き合いも変わっていったという。求めるものは「スピード感を持った対応」と「リスクはあっても新しい選択肢を提案する」という姿勢。しかし、この期待に応えられる会社はそう多くないというのが佐藤氏の実感だ。
「受託開発スタイルに慣れきっている日本のSIerの提案力には限界を感じますね。特に、自分たちの技術領域を超えた分野に関して提案できる企業は、日本ではほんのわずかではないでしょうか。『責任はわれわれが取る』といってもなかなか難しいようです」
それは納期遅れや開発上の失敗を恐れるあまり、顧客の先にいるエンドユーザーにまで思いがおよばない企業やエンジニアが多いことを示しているのかもしれない。
「確かにそうかも知れませんね。もちろん“キズ”のないシステムを納期までに納めることも大事ですが、これからは、技術領域にこだわらず優れた選択肢を迅速に用意できるSIerやベンダがより一層求められると思います。特にわれわれのような、国際的な競争力が問われるBtoC業界では顕著なことのように感じています」
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