第1回 あえて不況下で独立する
青木幹雄(青木幹雄公認会計士事務所)
2009/7/27
会社に居続けることが「安定」とはいえない現代においては、会社に残ることも一種はリスクといえる。実力のあるITエンジニアにとっては、新規参入競争が減る不況下は独立のチャンス。 |
昨年9月にアメリカの証券会社リーマン・ブラザーズが破綻し、リーマン・ショックと呼ばれる金融危機・景気後退の影響が深刻になっている。上場会社をはじめとする国内企業は、いまだにリーマン・ショックの影響を引きずっており、現在も倒産が後を絶たない。
■先の見えない経済環境
帝国データバンクの倒産集計でも、2007年の国内の倒産件数が1万959件、2008年で1万2781件、2009年上半期で7023件と、国内企業の倒産件数は右肩上がりで増加し続けており、会社がいつ突然死を迎えるか分からない時代に突入している。
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このような「100年に一度」といわれる大混乱の中、さまざまな経済対策によって景気がやや下げ止まった感はあるものの、失業率水準は依然として高く、会社経営の不透明さは一層増している。ITエンジニアにとっても、正社員や派遣社員としての立場をいつ解雇されるか分からない、不安定な状況だ。
上司に呼ばれ、「来週から出社しなくていいから……」と通告されるような事態や、1000人単位での大規模なリストラも、もはや他人事ではなくなっているのだ。
■不況のときこそ、独立のチャンス
このような不況下にあって、ITエンジニアとしてはどのように自身のキャリアステップを考えるべきなのか?
会社に勤務し続けることが「安定」を意味する時代が終わりつつある現代においては、会社に残り続けることも一種のリスクといえる。日々会社から与えられた役割だけをこなしていては、いざ緊急事態になったとき対処不能に陥ってしまう。
当然ながら、自分のスキルアップにつながる案件を会社が受注してくるとは限らない。会社から与えられた仕事をするだけでは、ごく偏った業務を日々のルーチンワークとしてこなす状態になる。そのまま思考停止状態に陥ってしまうことが、最大のリスクなのである。
一方で、サラリーマンとしてではなく、独立して直接クライアントにサービスを提供し、自らの専門分野で勝負するというキャリアステップを取るITエンジニアも多い。
ITエンジニアとして独立して成功するには、案件を受注するための人脈を構築し、自らの得意分野のスキルを高め、それをクライアントにアピールして営業するといった能力を磨くことが重要である。これは正社員や派遣社員として受け身の姿勢で仕事をこなしているだけでは決して身に付くものではない。普段から、後ろ盾がないという危機意識を持たなければ身に付かない能力である。自分の腕一本で勝負するITエンジニアにとって、この危機意識こそが、自らの付加価値を一層高め、独立のチャンスになりうる。
しかし、これから独立を目指すITエンジニアにとっては、不透明な経済不安の中で案件を獲得していけるかどうかが心配の種ではないだろうか?
確かに、クライアントを取り巻く経済環境には厳しいものがあり、コスト面でもシビアな要求をされることが想定できる。しかし、同時にクライアントは、経済危機に対応するための大きな変革に迫られている。つまり、独立したITエンジニアにとって新規参入の大きなチャンスとなる。
例えば、これまで取引実績のあった外注先を自動継続的に使うのではなく、コスト面を含めた契約関係の見直しが必要になる。これにより、クライアントが取引先を再検討することを期待できる。コストが安い不況下にこそ、積極的な開発投資やM&Aを行う企業も多い。いまのうちからクライアントの信用を得ていくことで、景気が良くなったときの業容拡大の準備作業にじっくりと取り組める。独立を志向するITエンジニアにとって、環境が厳しく、新規参入の競合が少ない不況下に独立することは絶好のチャンスなのである。
仮に景気が良くなってから独立したのでは、多数の競争相手に対して起業したばかりの状態で勝負しなければならなくなってしまう。その中で優位性を築くのは非常に難しく、タイミングとしては遅い。
事実、ここ最近の首都圏コンピュータ組合員の数推移(フリーエンジニアの推移)は、2006年が1600人、2007年が1800人、2008年の12月末現在で約2000人と増加し続けており、リーマン・ショック以降も、独立を志向するITエンジニアが漸次増えていることが分かる。
■安い資本で独立できる時代
コスト競争が厳しい中、昨今は安い資本(初期投資)で独立起業ができる点も見逃せないメリットである。
例えばインフラ面では、独立直後は比較的安価で利用できるサービスオフィスなどを活用することで、電話やOA機器などの事務所設備を利用することが可能だ。日常の経理処理や確定申告などのサポートは、起業家を支援する税理士などを利用することで、手軽に専門的なアドバイスを受けることができる。税理士などの専門家は、今後の事業展開に当たって有益な経営指南役になるため、上手く活用することが大切である。
独立直後は、事業が軌道に乗るまでは不安定な時期が続くものの、ほとんど身1つで独立できるITエンジニアは、非常に独立しやすい職種の1つである。小さな元手からスタートして、自らのスキルによってクライアントからの信用を獲得し、事業を軌道に乗せていく達成感は、言葉にできないものがあるだろう。
■不況下で独立するために
ITエンジニアとして会社に残る場合と、独立する場合の違いを、表1にまとめた。
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表1 会社に残る VS 独立する |
表1からも、会社に残る場合、独立する場合のどちらであっても、それぞれ不確定なリスク要因が存在することが分かる。
独立する場合、自らのスキルと営業力・交渉力が、クライアントからの直接的な評価につながるため、提供できるサービスの経験値を上げていくことが重要である。その際、自分自身のキャリアを客観的に評価するためのSWOT分析を事前に行うべきである。
この場合のSWOT分析とは、独立という目標を達成するために、自身の提供サービスドメインにおける、強み (Strengths)、弱み (Weaknesses)、機会 (Opportunities)、脅威 (Threats) を評価することである。
(1)自分のスキル・経験の強みをどのように生かすか?
会社から与えられた仕事を受け身でこなさず、常にクライアントに提供できるサービスドメインを意識する。クライアントに対して、自分の強みを1分程度で簡単に説明できるように準備しておくと良い。
(2)弱みをどのように克服するか?
自身のサービスドメイン以外の営業方針を決めておくことが重要である。クライアントから要求された場合に、「自分の専門分野ではないので、できません」というのは簡単だが、クライアントは「できない」という答えが欲しいのではなく、どのように解決すれば良いかの道筋を知りたいのである。
独立して「強み」をチャンスにつなげるのは当然であり、むしろ自身の「弱み」をどう拾っていくかが大事である。「できない」ならせめて、「こうすればできる」「これならできる」といい換えよう。
(3)機会をどのように利用するか?
独立した後、成功するかどうかは、クライアントから与えられた機会に対していかに付加価値を創出できるかにかかっている。独立したばかりの弱者であっても、「スピードある対応」「クライアントと周りのことをいつも気に掛ける」、「自分でできることをやる」「信念を徹底する」という行動原則にこだわってチャレンジし続けることが大事なのである。
(4)脅威をどのように取り除くか、または脅威からどのように身を守るか?
独立した場合に想定される脅威を把握して、それらのリスクについてどう対応するのかを決める必要がある。リスク対策としては、一般的に「回避」「低減」「移転」「保有」の4つが代表的な対応策となる。
自分の会社がいつ突然死するかも知れない時代において、会社に残るという選択肢もそれなりにリスクがある。相応の見返りが欲しいところだが、果たして現状の報酬、業務内容や働き方とのつり合いが取れているのだろうか。
独立して成功するためには、それなりのノウハウと情熱が必要だ。それでも事業が成功するか分からない。こうした不確定要素はあるものの、会社に残っても安定がなく、経済不安で先の見えづらいいまだからこそ、「独立」に挑戦して自分の可能性を試すことができる、大きなチャンスなのである。
筆者プロフィール | ||
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特集:「ITエンジニア独立入門」は、7月27〜31日まで、5日間毎日更新でお届けします。ラインアップは次のとおり。
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