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国際競争時代に突入するITエンジニアに生き残り策はあるか?
日本人ITエンジニアはいなくなる?

第18回 「フラット化する世界」のキャリア形成を考える

小平達也
2006/8/24

ITエンジニアの競争相手が海の向こうからやってくる。インド、中国、それに続くアジア各国。そこに住むエンジニアたちが日本人エンジニアの競争相手だ。彼らとの競争において、日本人エンジニアはどのような道を進めばいいのか。日本だけでなく、東アジア全体の人材ビジネスに携わる筆者に、エンジニアを取り巻く国際情勢を語ってもらった

グローバリゼーションの時代

 先日、都内で海外からの訪問客と会った。氏は某国でIT人材を育成しており、グループ売り上げ1000億円を超える企業のトップである。その教育機関の生徒数に話が及んだとき、筆者は思わず自分の耳を疑った。「わが校では10万人のITエンジニアを育成しています」。在校生が10万人のIT教育機関である! 日本の18歳人口が150万人程度といわれているから、これはすごい数だ。

 これとは別の日のこと。筆者が関西でバイオ関連の大手企業を訪問した際に、技術部門の責任者の方からこんなコメントがあった。「弊社の年齢構成では40歳から上が多く、30代以下が極端に少ない。新技術はもちろん、会社としての活力を生み出すのは中堅の30代であると確信しているが、残念ながらこの層は数も少なく、元気もない……」

 上記のような海外の新興国とわが国を比較しての状況は特殊な事例ではない。すでに構造的なものとして(そして中期的には深刻な課題として)経営層を中心に周知されつつある。2003年11月より続く本連載では「ITの進化とグローバリゼーション、それに伴う仕事と所得の平準化インパクトに対して、自分戦略として個人の高付加価値化は必須である」という一貫した考えのもと、海外技術者のキャリア観や企業経営者の視点、政府の動向などについて紹介してきている。限られた分量ではあるが、読者の皆さんがキャリア形成を考えるうえで参考にしていただければ幸いである。

 さて、夏休みは終わってしまったかもしれないが、まとまった時間が取れたらぜひ一読をお勧めしたい書籍がある。『フラット化する世界(上・下)』(トーマス・フリードマン著 伏見威蕃訳 日本経済新聞社)がそれだ。トーマス・フリードマン氏は世界的なベストセラー『レクサスとオリーブの木』(草思社)の著者でもあり、3度もピュリツァー賞を受賞しているという人物。世界のフラット化が進む中で個人はどうしたらよいかという、本連載にも通じる内容をアメリカ人の視点から書いている。特に現場での臨場感と、それを概念としてまとめ上げる高度な技量が存分に発揮されている。

 日本語訳が非常に読みやすい点もお勧めする理由の1つである。そして訳者あとがきで伏見威蕃氏が強調しているように「本書は個人がグローバリゼーションの時代を生き抜くための必読の書」であるともいえる。

世界のフラット化とは?

新しい通信テクノロジーの出現によって、地球上のあらゆる場所にいる人間との共同作業が可能になり、インドや中国へのアウトソーシングが始まった。ブログやGoogleはインターネットに接続する個人にグローバルな競争力を与え、(中略)いまや、個人の働き方、企業のビジネスモデル、さらには国家のシステムが猛烈な勢いで変わろうとしているのだ。この劇的な大変化こそ、「世界のフラット化」である。

(『フラット化する世界』カバーの折り返しより引用)

 本書でフリードマン氏が書き進めていく背景と個別内容は上記にある「世界のフラット化」を検証する旅でもある。特に導入部分で新大陸を求めたコロンブスとフリードマン氏の対比は象徴的で面白い。

コロンブスは、偶然にアメリカ大陸を発見し、インドの一部だと思い込んだ。私はほんもののインドへ行ったが、出会った人間はほとんどがアメリカ人みたいだった。(中略)コールセンターの人たちはアメリカ英語をしゃべろうと努力していた。ソフトウェア開発の現場では、アメリカのビジネス手法が取り入れられていた。

 コロンブスはスペイン国王と女王に、世界は丸いと報告し、それを初めて発見した人物として、歴史に名をとどめている。私は帰国して自分の発見を妻だけに、それもささやき声で伝えた。

 「ねえ、きみ」こっそりと打ち明けた。「世界は平ら(フラット)なんだ」

(『フラット化する世界』より引用)

 本書でフリードマン氏は、この「発見」を検証するために世界中を駆け巡る。インドではインフォシス・テクノロジーのCEOと出会い、東京では大前研一氏にインタビューをし、中国・大連では夏徳仁市長と中華料理のディナーをともにしながら探求を続ける。

 フリードマン氏は、グローバリゼーションには大きく分けて3つの時代が存在していたという。この変遷も興味深いので紹介しよう。以下、本書の内容を基にまとめてみた。

グローバリゼーション1.0(1492〜1800年)
「国のグローバル化」の時代。国家が腕力を背景に世界統一を図ろうとした

グローバリゼーション2.0(1800〜2000年)
「企業のグローバル化」の時代。多国籍企業が市場と労働力を求めてグローバル化した

グローバリゼーション3.0(2000年〜)
「個人のグローバル化」の時代。個人がグローバルに力を合わせ、またグローバルに競争をする

 フリードマン氏のいうグローバリゼーション3.0である現代は、個人がいかにグローバルな競争の中で機会を見つけていくか、空間を超え世界中の仲間と共同作業を行っていくかという時代だ。本連載でもお伝えしてきているが、個人にとってはチャンスと脅威がまさに「フラットに」存在する時代だといっているのだ。

   

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