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国際競争時代に突入するITエンジニアに生き残り策はあるか?
日本人ITエンジニアはいなくなる?

第18回 「フラット化する世界」のキャリア形成を考える

小平達也
2006/8/24

「無敵の民」の出現!?

 フリードマン氏は本文中で1つの章を割き、「世界をフラット化した10の力」としてインターネットの普及、オフショアリング、サプライチェーンなどフラット化の要因を10個列挙している。フラット化の背景がよくまとまっている。

 本書の特筆すべき点は、「世界のフラット化」を客観的に解説するのみならず、「個人のグローバル化の時代」であるグローバリゼーション3.0の世界で個人はどうしたらよいかという視点でも論を展開していることだろう。フリードマン氏は以下のように述べている。

フラットな世界で個人として栄えるには、自分を「無敵の民」にする方策を見つけなければならない。(中略)無敵の民とは、「自分の仕事がアウトソーシング、デジタル化、オートメーション化されることがない人」を意味する。

(『フラット化する世界』より引用)

 この定義づけも簡潔明瞭(めいりょう)で分かりやすい。まさに皆さんと共有したいキャリア形成の前提の1つでもある。フリードマン氏によると、「無敵の民」は3つに大別されるという。以下、3種類の人々を引用し、説明文を付けた。

(1)「かけがえのない、もしくは特化した」人々

自分たちの商品やサービスを販売できるグローバル市場を持ち、グローバルな報酬を得ることのできる人々。例えばマイケル・ジョーダンやマドンナ、一流のがん研究者など、それぞれの分野で超一流の人々

(2)「地元に密着」して「錨を下ろしている」人々


特定の場所で仕事をしていたり、顧客との個人的な結び付きや相互交流があったりする人々。労働の知識や技術の程度に関係なく、地元の需要と供給によって決まる職種に従事している人々

(3)さまざまなミドルクラスの仕事をしていた人々

以前は代替不可能、外国とのやりとりも不可能と考えられていたが、いまでは代替も外国とのやりとりも可能になった仕事(データ入力、セキュリティ分析、経理関係など)をしている人々

(見出し部分のみ『フラット化する世界』より引用)

 フリードマン氏は、多くの人が(3)の「旧ミドルクラス」のような仕事に従事しているままだと、(フリードマン氏の視点の軸足である)アメリカは大きな問題を抱えることになると指摘している。これを乗り越えるための「新ミドルクラス」に必要な人材として以下の8通りを挙げ、それぞれを説明している。

・偉大な共同作業者・まとめ役
・偉大な合成役(シンセサイザー)
・偉大な説明役
・偉大な梃子入れ役
・偉大な適応者(アダプター)
・グリーン・ピープル
・熱心なパーソナライザー
・偉大なローカライザー

(『フラット化する世界』より引用)

 周囲にいる人たちを思わず思い浮かべながら読み進めることができるほどの具体性を持って紹介しているので、この部分は特に興味深い。

フラット化する世界でのキャリア形成

 キャリア形成ということを考えるとき、多くの人は「まずはスキル」「とにかく資格」と個別の対応について考えがちであるが、本書はその前提となる「ITの普及、進化とグローバリゼーションにおける個人の働き方」を考えるのに背景的・ふかん的な視点を提供してくれる。そしてこの視点に「気付く」ことは、実は日本人ITエンジニアにとっては大きなアドバンテージなのではないかと筆者は思う。

 急速な勢いで発展しつつある新興国のITエンジニアの場合、大部分はまず自らの生計を立てなければならないという課題に直面している。生計が立てられても、社会基盤自体が未発達でもろく、個人にはどうにもならない部分が日本より多い。結果、目先の資格やスキル、少しでも高い給与にすがるのが現状打破の唯一の方法だと考えるようになることが多い(もちろん、これは問題というよりは構造的な背景によるものである)。

 一方、わが国でIT産業に従事している人々(そして本連載をお読みいただいている皆さん)は、基本的には衣食は足りたうえで「自分はどうありたいか」を模索しているはずだ。本書の提供する視点は、この模索にどのような意識で取り組むかということにヒントを与えてくれるのだ。

 この視点に気付くことは、オーケストラに例えるなら「自分の担当パートのみの技術向上を考える演奏家」と「自分の担当パートのみならずほかの演奏家、指揮者、何といっても会場に足を運んでいる聴衆の満足度を考えている演奏家」くらいの違いを生むはずだ。皆さんが聴衆の立場であれば、どちらの意識の演奏家の演奏を聞きたいだろうか。

 今回紹介した『フラット化する世界』は、ハードカバーで上・下巻それぞれ400ページ程度あって読み応えがあるが、章ごとに内容がまとまっているので個別にも読みやすい。出張時などの移動時間を活用して読破することもできるだろう。日本人ITエンジニアにキャリア形成のヒントを提供してくれるだろう、お薦めの本である。

 

今回のインデックス
 日本人ITエンジニアはいなくなる?(18) (1ページ)
 日本人ITエンジニアはいなくなる?(18) (2ページ)

筆者プロフィール
小平達也(こだいらたつや)
パソナテック 海外事業部 部長
パソナテックコンサルティング(大連)有限公司 董事
早稲田大学アジア太平洋研究センター「日中ビジネス推進フォーラム」講師

商社にて中国を中心としたサプライチェーンマネジメントの構築、運営に従事。現職では「人材サービスを通じて企業のグローバル展開を支援する」というミッションの下、大手日系グローバル企業の海外における人材採用と育成を支援している。外務省「『人の移動』に関するシンポジウム」で経済界の意見を発表のほか、学会などでの講演、執筆多数。

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