国際競争時代に突入するITエンジニアに生き残り策はあるか?
日本人ITエンジニアはいなくなる?
第20回 日本人は異端? 海外で活躍できる条件とは
小平達也
2006/12/27
■アメリカ人に対する印象〜実は日本人が異質なのか?〜
ベトナム人ITエンジニアとのインタビューを終え、帰国してすぐに「日系企業の真のグローバル化とは何か その課題と対策〜グローバルマネージャーの育成〜」というテーマでコマツアメリカの元社長 中村建一氏からお話をいただく機会があった。同氏は『ビジネスに日本流、アメリカ流はない―グローバルマネージャー入門』(東洋経済新報社刊)の著者であり、25年間アメリカに駐在し日米の文化を超えたコマツのグローバライゼーションの実現に腐心された方である。中村氏のお話自体は非常に幅広く、かつ個別の事象を本質部分まで深く掘り下げたものであった。本稿ですべてお伝えすることは不可能であるが、以下、筆者の解釈で話の一部を抜粋して紹介したい(以下は同氏の話をベースにしているが本文に対する一切の責任は筆者にある)。
アメリカ人に対する印象 1.プレゼンテーションが上手 2.ほめを当然と受け取る(謙遜はない) 3.自己主張が強い 4.マニュアルの世界 5.情報開示、部下の教育、OJTが弱い 6.“No Problem”はProblem(「問題ない」は「大問題」) 7.反省しないでいい訳が多い、責任転嫁が上手 |
いかがであろう。上記は「アメリカ人に対する印象」であるにもかかわらず、中国人ITエンジニアやインド人ITエンジニアに対する印象と通じるものがあるのではないだろうか。特に「『問題ない』は『大問題』」は、まさに中国ビジネスで多くの日本人が耳にする「没問題!(メイウェンティ!)」と同じではないだろうか。
オフショア開発など海外との業務・接点が増える中で海外ITエンジニアの特殊性に目がいきがちであるが、「世界の中でのビジネス」という視点で見ると、実は日本人が世界的に特殊な存在であるとも考えられる。いままでは日本は世界で第2位を誇る市場を有していたので「世界に対する日本流」を主張できたが、今後、日本の人口が減少し市場も縮小していく中で、それはどこまで通用するのだろうか。
■グローバルマネージャの条件
国内市場が長期的に縮小する一方で、日本企業は販路を北米や新興国といった海外に求め、業績を拡大しつつある。これらの特徴を持つ海外とのビジネスを、日本側が主導権を持って進めるにはどうしたらよいのだろうか。
「異文化が錯綜(さくそう)する状況のなかでも優れたパフォーマンスを発揮できる人材」
これは国際ビジネスコミュニケーション協会の「グローバルマネージャー」に対する定義づけだ。これに対し中村氏はグローバルマネージャーを以下のように定義付ける。
グローバルマネージャー: 自己のアイデンティティを失わず「国際的な」「普遍的な」考え方ができ、日本流、その国流というものを超えることができる人材 |
中村氏は上記に挙げたアメリカ人に対する印象を紹介しながら、こう強調する。「日本人は『だからアメリカ人はだめなんだ』というのではだめです。そうではなく『なぜそうなるのか、だからどうするのか』という問いに対する知恵を日本人が出すべきなのです。
グローバルマネージャーとは「自分とは何者であるのか」という点をきちんと把握し、それを見失わない、同時に広く世界を見渡し、対応できる能力を持つ人材であるようだ。それではグローバルマネージャーの条件とは何だろう。同氏は下記を挙げているので紹介したい。(以下は中村氏の資料をベースに筆者加筆・編集)
グローバルマネージャーの条件 ・英語力 ・コミュニケーション力(プレゼンテーション力、論理的思考) ・マネジメント能力(危機管理能力含む) ・人的ネットワーク構築力 ・多様性の受容、異文化理解 ・日本人としてのアイデンティティ ・人間としての基本、倫理性 |
上記を見れば分かるとおり、前半部分はスキル的なものであるのに対し、後半部分は個人の人柄に関するものである。つまり、「日本国内、海外問わず、実はどこにいても求められる基本」なのだ。「なんだ、そんなことか」と思われる方もいるかもしれないが、筆者はこれを見たとき、ある経営者が以前、ふと漏らした言葉を思い出した。それは「人柄は金では買えませんから(だから、スキルに偏ることなくきちんと人物像を見極めたい)」というものである。
筆者の所属する海外事業部でも「グローバルキャリアセミナー」を定期的に開催し、海外で活躍経験のある日本人ITエンジニアの情報共有の場を提供している。「海外で意識したこと(もしくは困ったこと)」というテーマで、いつも参加者のコメントで多いのが「ホウレンソウ(報告・連絡・相談)の徹底(もしくは不徹底)」というものである。新入社員ではないのだから……と笑う方も多いだろうが、このホウレンソウができず壁にぶつかる人、ホウレンソウで壁を乗り越える人が実際にいるのだから侮れないものである。
中村氏の言葉の中で、印象に残った部分を最後に紹介する。
「日本人としての基本。例えば相手の立場に立ったコミュニケーションをする、など基礎ができていない人物は、たとえ英語ができたとしても海外にいっても大したことはできません。日本できっちりできない人間は、絶対海外でもうまくいかない、そういうものなのです。まずは日本人としての基本を徹底するところから海外ビジネスは始まっていくのです」
国内市場は縮小していく一方、海外市場の重要性が増していくという時代背景ではあるが、基礎を徹底しておけば、どの国とビジネスをしようと、おくすることはないのである。世界で通用するグローバルなキャリアは日々の仕事を着実にこなすことと同じ舞台にあるのだ。
今回のインデックス |
日本人ITエンジニアはいなくなる?(20) (1ページ) |
日本人ITエンジニアはいなくなる?(20) (2ページ) |
筆者プロフィール |
小平達也(こだいらたつや) パソナテック 海外事業部 部長 パソナテックコンサルティング(大連)有限公司 董事 早稲田大学アジア太平洋研究センター「日中ビジネス推進フォーラム」講師 商社にて中国を中心としたサプライチェーンマネジメントの構築、運営に従事。現職では「人材サービスを通じて企業のグローバル展開を支援する」というミッションの下、大手日系グローバル企業の海外における人材採用と育成を支援している。外務省「『人の移動』に関するシンポジウム」で経済界の意見を発表のほか、学会などでの講演、執筆多数。 |
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