
国際競争時代に突入するITエンジニアに生き残り策はあるか?
日本人ITエンジニアはいなくなる?
最終回 アフリカ人エンジニアは日本を目指す?
――シスコシステムズ×JICA×東京大学。産官学連携でアフリカIT人材を育成
小平達也
2009/9/30
日本企業に限らず、海外新興国に進出した企業にとって圧倒的に不足しているのが「現地の優秀な人材」であり、その確保は経営課題にもなっている。ただし、海外新興国における現地の優秀な人材の採用には弊害もある。よく見る現象として、現地教育研究機関の優秀な教員などを採用し過ぎてしまうことである。これ自体は決して責められるべきものではないのだが、新興国における産業人材蓄積という観点からすると、本来人材育成に当たるべき教員や研究員を進出企業が採用し過ぎてしまうと、教育研究機関における人材が枯渇し、技術が蓄積しないという懸念がある。
その意味では今回のシスコシステムズ、JICA、東京大学の3者によるアフリカIT人材育成の産官学連携スキームは、海外新興国の中長期を見据えたものであると評価できる。受益者であるモザンビークのニーズに対して協力し、かつ3者それぞれの戦略に密接に結び付いていることから、この実現は画期的といえる。
通常、ビジネスのグローバル展開は、ヒト・モノ・カネといった経営リソース上、非常に負荷のかかるものであり、中・長期的な視野に立ってしっかり進めるということがしづらい傾向にある。だがシスコシステムズは、このような産官学連携スキームに参加することで、直近課題であるCSRと、中期的な課題であるアフリカ展開の両方に取り組むことに成功している。
■最終回、筆者からのメッセージ
「自分以外と連携していくことが大切な時代」
2003年から6年にわたって連載してきたテーマ「日本人ITエンジニアはいなくなる?」は今回で最終回である。輸出型製造業のグローバル化、オフショア開発の推進と委託先国の多様化が進む中、NTTデータに代表される内需型産業でさえもグローバル展開へのかじを切る時代に入ってきている。
ITエンジニアにとっては、全員が一律のキャリアを歩む時代は終わり、個人に何ができるか、個人がどのようにキャリアを積んでいくかが大切な時代になった。これは同時に、自分の専門領域以外と連携していくことが大切になってきた時代であるともいえる。
自分という限られたリソースでできることには限界があるが、今回のシスコシステムズ、JICA、東京大学による産官学連携のように、他者との連携をうまくコーディネーションすることで、短期と中長期、営利と非営利の活動を両立することができる。
実際、筆者がアドバイザーを務めている東京外国語大学 多言語・多文化教育研究センター 多文化社会コーディネーター養成プログラムでは、多言語・多文化社会における課題に対応できる専門人材の養成を目的に、自治体、国際交流協会、企業、学校、NPOで中堅スタッフを養成している。自分がコーディネーターの役割を果たすにせよ、コーディネーションされる側になるにせよ、自身の専門をベースとした他者との連携・協働の必要性はますます高まる。そのためには、まず何よりも自分と相手を知ることである。孫子の兵法に、「彼を知り己を知れば百戦して危うからず、彼を知らずして己を知れば一勝一負す、彼を知らずして己を知らざれば戦うごとに必ず危うし」という一節があるが、自分と、自分の所属している組織・業界と、社会の動向を国内・海外ともにバランスよく押さえていくことが自分自身のキャリア形成上、これまで以上に大切になってくる。
◇
10月からの新連載では、「海外から見たニッポン人エンジニア」というテーマで、世界の経済、技術動向を踏まえ、海外から見た日本人エンジニアの強みや弱みなどを紹介する。ITエンジニア1人ひとりが時代を読み、自分でキャリア構築をしていく参考になることを目的に進めていきたい。
| 筆者プロフィール |
| 小平達也(こだいらたつや) ◆ジェイエーエス 代表取締役社長 ◆東京外国語大学 多言語・多文化教育研究センター コーディネーター養成プログラムアドバイザー ◆早稲田大学商学部学術院総合研究所 WBS研究センター 日中ビジネス推進フォーラム特別講師 ◆ジェトロ BJTビジネス日本語能力テスト外部化検討委員会 委員 大手人材サービス会社にて、中国・インド・ベトナムなどの外国人社員の採用と活用を支援する「グローバル採用支援プログラム」の開発に携わる。中国事業部、中国法人、海外事業部を立ち上げ事業部長および董事(取締役)を務めた後、現職。ジェイエーエスではグローバル採用および職場への受け入れ活用に特化したコンサルティングサービスを行っており、外国人社員の活用・定着に関する豊富な経験に基づいた独自のメソッドは産業界から注目を集めている。 現在、ブログ「グローバルに特化した組織・人事コンサルティング ジェイエーエス 小平達也」執筆中。 |
日本人ITエンジニアはいなくなる? バックナンバー
- 第1回 海外のエンジニアは脅威か
- 第2回 優秀な人材に見向きもされない日本企業
- 第3回 国内で活躍する海外ITエンジニアの最終目標
- 第4回 中国人ブリッジSEのキャリアパス
- 第5回 インド系企業の多国籍チームから何を学ぶか
- 第6回 日本市場攻略で一丸となる大連市と現地IT企業
- 第7回 海外エンジニアとの日本語コミュニケーション術
- 第8回 日本のITエンジニアに足りないもの
- 第9回 IBMのPC事業売却がエンジニアにもたらすもの
- 第10回 日本企業を囲む「内定辞退の壁」
- 第11回 スピードとチャレンジに欠ける日本のIT業界
- 第12回 上海の採用担当者が見た日本人ITエンジニア
- 第13回 日本で働く海外ITエンジニアの悩み
- 第14回 中国での面接事例から学べるテクニック
- 第15回 ITエンジニアこそ、日本最大の資源
- 第16回 中国初体験のITエンジニアが語る日本との違い
- 第17回 日本人ITエンジニアがインドで学ぶ理由
- 第18回 「フラット化する世界」のキャリア形成を考える
- 第19回 ITエンジニア獲得競争に勝つ地域、負ける地域
- 第20回 異端か? 日本人ITエンジニア
- 第21回 「ミステリアス」な日本に求められる“力”とは
- 第22回 中国・インド・ベトナムの理工系人材を徹底比較
- 第23回 アメリカ人ITエンジニアもいなくなる
- 第24回 中国とインド、進むIT業界の「相互乗り入れ」
- 第25回 「戦わずして勝つ」。戦略のプロに学ぶ自分戦略
- 第26回 海外の活力を取り込む4つのポイント
- 第27回 松下電器産業の社名変更に見るグローバル戦略
- 第28回 外交のプロに学ぶ、自分を「伝える力」
- 第29回 日本人が知らないフィリピン系ITエンジニアの実力
- 第30回 会社が海外進出したら? ITエンジニア、5つの備え
- 第31回 金融危機をチャンスに変える、日本企業の人材戦略
- 第32回 “エンジニアにっぽん”にアジアのエンジニアが思うこと
- 第33回 成長企業ユニ・チャーム、情報システム部の海外展開
- 第34回 テクノロジの世界展開に必要なのは、理念と伝える力
- 第35回 世界同時不況に打ち勝つ「アジア人材戦略」
- 最終回 アフリカ人エンジニアは日本を目指す?
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