自分戦略研究所 | 自分戦略研究室 | キャリア実現研究室 | スキル創造研究室 | コミュニティ活動支援室 | エンジニアライフ | ITトレメ | 転職サーチ | 派遣Plus |

第1回 コミュニティ活動以上に面白い会社にしたい

千葉大輔(@IT自分戦略研究所)
2007/8/10

オープンソースコミュニティなどのコミュニティや、そこに入り積極的に活動をするITエンジニア。企業はそうしたコミュニティやITエンジニアをどうとらえているのだろうか。

会社とコミュニティの難しい関係

はてな 取締役 最高技術責任者 伊藤直也氏

 「コミュニティに参加するITエンジニアをどうとらえるかは、これまで会社の中でもさまざまな変遷があり、会社として(見解が)固まったものはありません」。そう話すのは、はてな 取締役 最高技術責任者 伊藤直也氏。現在同社では、所属するITエンジニアの3〜4割がコミュニティ活動を通じて何らかのアウトプットを出しているという。

 伊藤氏によると同社でコミュニティ活動をするITエンジニアには、2つのタイプがあるという。1つ目のタイプは、コミュニティで携わる技術が会社の業務の延長線上にある人。2つ目のタイプは、会社の業務と関係なく主体的に自らのプロジェクトを進める人だ。

 「主体的にやっている人は、大きなソフトウェアの開発を引っ張っているという形で、仕事の延長でやってる人はPerlやRubyなどのライブラリを書くとか、Linuxのソフトウェアのパッチを書いてコミットしたり、雑誌に記事を書いたり、カンファレンスを主催したりという感じです」

 最近、企業としてオープンソースコミュニティへのコミットしていることや、自社の社員に対してコミュニティ活動を推奨していることをアピールする会社が増えてきている。しかし、はてなでは最近、そうした活動について表立ってアピールすることはないという。それは「もしかしたら、そういったアピールが宣伝だととらえられてしまうかもしれない」という理由からだ。

会社の中の仕事を面白くしたい

 また、会社の中でもオープンソースにかかわれというメッセージを社員に強制してもいないという。それには次のような背景があるからだ。

 「オープンソースのコミュニティにコミットする人の中には、会社で充実した仕事ができなくてその反発からやってるという人も少なくありません。会社の中でくすぶっている人が外に出て道が開けるケースもあり、それは肯定されるべきだと思います。しかし、経営者の自分としてはそういうふうにエンジニアに思わせてしまうことが経営として失敗なので、肯定はしちゃいけないんですね。本業よりもコミュニティでの活動を優先するような状態になってしまったら、それはもしかすると、経営努力が足りない証拠かもしれません。会社の中の仕事をするのが楽しいと思わせるような会社を経営することが、僕らにとっての課題」

 コミュニティにコミットすることによって、会社内で何かしら特別に評価されるということはあるのだろうか。伊藤氏は「資格を取ったからといって、給料を上げることにあまり意味がないのと一緒で、単にオープンソースのソフトウェアを作ったり、カンファレンスを主催したりということで“会社での評価”が上がることはないですね」と前置きしたうえで、次のように話す。

 「でも、パブリックな世界にソフトウェアを発表することは推奨していますし、作ったソフトウェアや主催したカンファレンスが世の中に対して価値を与えるものであれば、当然“その人自身の評価”として認められます。そして、その価値が会社にとって意味があれば、会社としてもその分の評価をします」

さまざまな人とふれあい、影響を受ける

 

 経営者としては、コミュニティとITエンジニアのかかわりについて、少し距離を置いて見る一方で、ITエンジニア自身が、外の世界のエンジニアと触れ合ったり、情報交換したりすることの重要性は伊藤氏も認識している。

 「外の世界に出て、いろいろ刺激を受けて自分の技術力を高めることは、エンジニアにとって絶対に必要だと思います。だから、コミュニティで何かを作って公開して、フィードバックをもらうとか、カンファレンスに出席する、あるいは自分で開催するといったことはやった方がいいだろうと思います」

 伊藤氏も前職のころからコミュニティで活動している。

 「ココログをオープンさせる前に、ブログサービスに関連する技術を調べていて、その結果をひたすら自分のブログに書いていたんですよ。そんなとき、宮川さん(米Six Apart 宮川達彦氏)に声を掛けられて『次のShibuya.pmでそれをしゃべって』といわれて……。そのときは『僕でいいんですか』という感じだったのですが、意外と反響があって、そこから雑誌に記事を書いたりするようになりました」

フラットな関係を築く

 伊藤氏が考えるコミュニティ活動の魅力は、自分が知らなかった技術を学ぶ機会を与えられることに加えて、人とのつながりにある。伊藤氏自身、コミュニティでの活動やブログでの情報発信を通じてさまざまな人と会うようになったという。

 「自分が学生時代に読んでいた雑誌に記事を書いていた人たちと、いま普通に連絡を取ったり、飲みに行ったりしていることがすごい不思議ですね」

 知り合いになった人とフラットな関係を築けるところも、コミュニティのいいところだという。

 「コミュニティの中にヒエラルキーがなくて、みんなでわいわいやってるのがすごくいいですよね。1つすごいソフト作ったら、みんなで『すげー』っていうし、エンジニア独特の『作るもの作ったら、こっちにこれるぜ』というところがいいところだと思いますね」

 そういった上下のない付き合いによって、年上、年下関係なく、幅広い年齢層の人と「友達」になれることも大きいという。年齢の離れた人と話すことで得るものは多い。「『こんなに若いのにこんなソフト作っているのか』とか、『このくらいの年になっても第一線でコード書いている人がいるのか、俺にもできるかな』とかいろんな刺激を受けます。楽しいですよ」

会社とコミュニティの理想的な関係とは

 ITエンジニア個人として、経営者として、さまざまな視点から会社とコミュニティの関係を見ている伊藤氏。その伊藤氏が考える会社とコミュニティの理想的な関係とは、いったいどんなものなのだろうか。

 「自分たちが作った会社で使っているものをオープンソースでリリースしたり、あるいは使っているパブリックなソフトウェアをカスタマイズしたり、またはソフトウェアにバグがあったら修正して世界に還元していくこと、それが僕の考える中で会社とオープンソースコミュニティのかかわり方として一番理想的なものです。何となく仕事がつまんないので、コミュニティの方でコードを書いてますという状況になってしまうのは避けたいですね」

 伊藤氏は「外との触れ合いは、もちろん重要だけど、会社の中の仕事も面白くしていきたい。そういう会社でありたい」と話す。コミュニティに積極的に参加することで得られるものの大きさ、その重要性は肌で実感しているが、伊藤氏は「本業優先してやりたい」とITエンジニアが自然と考えるような職場を作ることにより目を向けている。自社で働くエンジニアが充実した仕事ができる環境が、目指すべき目標であるようだ。


関連記事 Index
オープンソースコミュニティとともに歩んで
アイデンティティはオープンソースプログラマ
スキル向上にオープンソースを活用せよ
自分を磨く場所は会社の中だけじゃない
コミュニティへの参加は、好きだからこそ続けられる
自分戦略研究所、フォーラム化のお知らせ

@IT自分戦略研究所は2014年2月、@ITのフォーラムになりました。

現在ご覧いただいている記事は、既掲載記事をアーカイブ化したものです。新着記事は、 新しくなったトップページよりご覧ください。

これからも、@IT自分戦略研究所をよろしくお願いいたします。