第5回 小江戸らぐ(前編):頑張らない勉強会
よしおかひろたか
2008/11/27
■淘汰(とうた)されたコミュニティ、残ったコミュニティ
よしおか そろそろ勉強会のムーブメントについて語ってほしいんです。小江戸に限らず、いまは勉強会が大ブーム。なんでだと思いますか?
羽鳥 皆さんがやっているような、例えばある特定のソフトウェアとか、ある特定のディストリビューションについての勉強会っていうのは、とても奥深く突き詰めて、分からないことがどんどん分かるという効用があります。一方で、僕たちのような初心者歓迎、何でもありといった地域LUG(リナックス・ユーザーズグループ)では、自分でもうちょっとやってみようかっていう人にとっては、すごく興味を持つ切っ掛けになるんだと思います。小江戸らぐが大ブームの中で細々と続いているのは、きっとそういうところにニーズがあるんじゃないかな。
よしおか 10年ぐらい前、ブームでいっぱい地域LUGがあったのに、結果として残ったものと、淘汰されちゃったものがある。そこを分けたのは何なのでしょう。
羽鳥 頑張っちゃったからじゃないですかね。
よしおか 淘汰されちゃった人たちは、みんな頑張っちゃった。で、残ったわれわれは頑張っていないと(笑)。
羽鳥 そう、頑張っていない(笑)。
よしおか だから、柳に風で生き残った。なるほど。
■できることをやる
羽鳥 できることを、できる範囲でやっています。昔、g新部さん(注2)に、「フリーソフトウェアの活動というのは、できることをやればいい」ということをいわれたことがあるんです。それ以上でも以下でもないと。それを僕なりに解釈して、僕もできることをやってみようと。そのできることというのが、何週間か前にメールを投げて、飲みたいお店を探して、勉強会の司会をやる。それだけ。
よしおか しかも、それが好きなんですね。
羽鳥 うん。好き。
よしおか 飲み会の予約をするのが好きでしょうがない。新しいお店を、安いのか高いのかよく分からないけど、ひょっとしていいお店かもしれないと予約する。それでわくわくする。
羽鳥 そうそう。
よしおか そんなものですよね。で、やってみてやっぱり楽しい。だとすると、そういう楽しさを、頑張っちゃったLUGの皆さんは発見できなかったんですかね。
羽鳥 うーん。頑張っちゃうと、満足する領域があるじゃないですか、きっと。そこに達したんでしょうね。
よしおか わたしは、3つパターンがあると思っています。何かのきっかけでみんなが集まる。勉強会でも何でもいいんだけどね。そうすると、1回目は取りあえずやってみるわけだ。Aのパターンは、やっぱりだんだんとマンネリになったり、ある種の内紛や路線対立が起きたりして、何となく消滅したり分裂したりしちゃう。Bのパターンは、何回かやってみて、幹事や事務局の人たちが頑張って、水面下でめちゃくちゃ、必死に足こぎしてる。足こぎしてないと沈んじゃう。Cのパターンは、そういうこともなく、なぜか知らないけれども、淡々と回数を重ねていく。幹事や主催者が必死になって、自分の犠牲の下に何かをやっているという感じじゃない。小江戸らぐは、淡々と軽やかに、いつの間にかCのパターンに到達しちゃったな、という印象がありますね。
羽鳥 これでも、紆余(うよ)曲折あったんですよ(笑)。
よしおか いやいや、もちろんそうだけど。その紆余曲折をどう対処したかっていうところが重要だと思うんだよね。Bのパターンは、必死に主催者が頑張っていて、微妙なバランスを取るわけです。だけど、主催者のエネルギーが途絶えた瞬間にAのパターンに転がり落ちちゃう。いまはBに見えるけど。小江戸らぐもBのパターンのときがあったと思いますよ。それが何かのきっかけで、Cのパターンに落ち着いたのかなと思います。
羽鳥 まあね、みんなが歳を取ったっていうのはあると思う。
よしおか 大人になった。
羽鳥 そうそう。それは決して良いことじゃないんですけどね。もっと若い人が入ってきて、ギラギラしてもいいかなあと思うこともあります。
よしおか でも小江戸らぐは、学生さんが入ってきたり、インストール大会を開催したり、若い人が(勉強会に)来ているイメージがあるよ。そんなことはない?
羽鳥 うん、来てる来てる。来てるけど、いま風の子たちじゃない。
よしおか 地味な若い子ですか。
羽鳥 うん、地味めの子が多い。あまり自分のことを前面に出さないんです。でも、ちゃんと自分を持っている子が多いですね。
よしおか それ、不思議ですよね。そういう若い子が、誰かに誘われたにしろ、自らの意思で勉強会に来るわけでしょう。それはすごいことですよね。
羽鳥 すごいですね。
よしおか 例えばわたしが学生ぐらいのときに、40歳とか50歳のおじさんがいるセミナーに、自ら行こうなんて露ほども考えていなかったですよ。できれば合コンの1つでもとかさ。テンションが全然違うでしょう。にもかかわらず、なんで20代の若い学生さんが来るの?
羽鳥 メーリングリストで年齢が分からないからじゃないかなあ。あとは、僕たちがやっていることって、夏冬のコミケに出るのをどうするかとかだから、きっと勘違いしているんじゃないかな(笑)。
よしおか でも、一度(勉強会に)来れば、「あ、なんかおやじばっかりだな」って気付くでしょう。
羽鳥 頭に多少白いものが交じってる人たちだけど、やってることは僕たちと同じレベルだ、同じような苦労をしたり、考えたりしているんだと思ってもらえるんじゃないかな。
よしおか 例えばOSC(オープンソースカンファレンス)で出店を出すときも、小江戸らぐの人たちは積極的に手を挙げて、自分で仕事を作って、出店をやっていますよね。あれはどういうことなんですかね。だって、羽鳥さんがAさんは何やって、Bさんは何やって、Cさん何やって、なんて指示をしているわけじゃないよね。みんな勝手にやっている。その日は9時に集まりましょうとか、わたしは午前中行けないから、昼ぐらいから行くわ、とか、そんな感じですよね。
羽鳥 うん。そうですね。みんな勝手にやってる。
注2:フリーソフトウェアイニシアティブ理事長の新部裕氏 |
対談は夜遅くまで続いた |
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長く続く勉強会の秘けつは「頑張らないこと」。だが、小江戸らぐのスタッフは皆、自主的に動いている。これはいったいどういうことなのか。
バザールモデル型の運営はいかにして可能か。そして、コミュニティや勉強会が「内輪」の枠を超えるための課題とは。
後編に続く。
筆者プロフィール |
吉岡弘隆(よしおかひろたか) 2000年6月、ミラクル・リナックスの創業に参加。1995年から1998年にかけて、米国OracleにてOracle RDBMSの開発を行う。1998年にNetscapeのソースコード公開(Mozilla)に衝撃を受け、オープンソースの世界に飛び込み、ついには会社も立ち上げてしまう。2008年6月、取締役CTOを退任し、一プログラマとなった。 所属 ミラクル・リナックス株式会社 日本OSS推進フォーラム ステアリングコミッティ委員 U-20プログラミング・コンテスト委員 セキュリティ&プログラミングキャンプ、プログラミングコース主査 独立行政法人情報処理推進機構、技術ワーキンググループ主査 OSDL Board of Directorsを歴任 カーネル読書会主宰 Webサイト ブログ:ユメのチカラ 日記:未来のいつか/hyoshiokの日記 |
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