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OSC 2008 Tokyo/springレポート

インストールのその先へ。立ちふさがる壁

千葉大輔(@IT自分戦略研究所)
2008/3/21

  オープンソースコミュニティが集まり、情報交換などを行うイベント「オープンソースカンファレンス2008 Tokyo/Spring」が開催され、2月29日、3月1日の2日間で過去最高の参加者となる延べ約1500人の参加者を集めた。

 今回は3月1日行われた小江戸らぐ 世話人 羽鳥健太郎氏によるセッション「出張インストールパーティの可能性と課題」をレポートする。

インストールパーティ開催のきっかけ

小江戸らぐの羽鳥健太郎氏

 小江戸らぐは埼玉県川越市を中心に活動するLinux Users Group。メーリングリストを軸に、月1回の勉強会とオフ会、勉強会の資料をまとめた冊子の制作をしている。羽鳥氏は小江戸らぐの活動方針について、「Linuxを通じて、長く楽しむために、『無理をしない』『頑張らない』『やれることをやる』ことを考えながら、マイナーリーグでゆるい球を投げるように活動したい」と話す。

 小江戸らぐは外部のユーザーに向けて、2007年9月〜12月に3回の出張インストールパーティを行った。東京電機大学鳩山キャンパスの学生からの申し出がきっかけだったという。

 「東京電機大学の鳩山キャンパスの学生の希望で、小江戸らぐのオフ会を鳩山キャンパスで開くことになったのが、そもそもの始まりでした。その後、オフ会に参加した学生を中心に『面白そうだ』ということで、インストールパーティをやってみようということになったのがきっかけです」

 9月開催の理由として、大学で後期から始まるWebプログラミングの講義の開始に合わせて、Linuxを使ったプログラミング環境を構築したいとの考えがあったからだ。ターゲットとなるユーザーは、初回はこれからLinuxを使ってみようという学生が中心。2回目以降は学外への告知も行い。そのほかのユーザーにも集まってもらうことも考えたという。

次々と見つかる課題

 「課題はいくつも見つかった」。そう羽鳥氏は話す。まず問題になったのはどのようにして参加者を集めるかということだ。イベント前に学内での告知をしていたが、初回は大学の講義と時間が重なってしまい、なかなか人数が集まらず、3人という結果だった。

 「常に参加者よりもスタッフの方が多い状況でしたが、でもこれにもいいところはあって、やっぱり密に教えることができます」

 その反省から2回目は、周辺地域のほかの大学のパソコンサークルに声を掛ける、あるいは周辺地域で視聴されているケーブルテレビで告知するなどなど積極的に広報活動を行った。周辺大学への声掛けには反応がなかったが、ケーブルテレビでの告知は、「見たよ」といわれることもあったという。その成果か2回目は初回の参加人数を超える10人が集まった。しかし12月に行った第3回目では、学生の帰省シーズンと重なり、またも参加者が減り、3人。勉強会などのイベントでは、参加者を集めることが1つの課題だが、開催時期や場所、テーマによって大きく変化するため、その選定が難しい。

難し過ぎる開催要領

 小江戸らぐが行ったインストールパーティでは、参加者がそれぞれLinuxをインストールしたいPCを持ち込むという形式を取ったが、参加者個人ごとにPCのハードウェアの差があり、開催前にどういったプロセスでイベントを進めていくのか書き出して確認していたが、スムーズに進行するための前提条件が多くなってしまい、うまくいかなかったという。

 参加者のプロファイルは以下のとおり。

・学生(大容量のメモリとHDDを搭載したWindows環境のPCを持参)

・大学外の一般参加者(一世代前のPC、自分でLinuxをインストールしようと試みたがうまくいかなかったというケースが多い)

・うわさを聞いて訪れる学生(所属している研究室のパソコン、2世代くらい前のものを持参)

 インストールに当たり、ユーザーが利用しているWindows環境をそのまま残したうえで、Windows上での仮想環境、あるいはUSBメモリや外付けのHDDを利用し、そこにLinux環境を構築することにした。「これでいいのだろうか」という思いはあったが、ユーザーの目的や利便性を考えて決定した。

 「こちら側に『Linuxを入れてみたいというPCを何でも持ってきてください』というくらいの気合がないと。何があっても対応できるように、自分たちであらかじめUSBメモリをいくつか用意しておくくらいしないと無理かなと率直に思いました」と羽鳥氏は話す。目的やハードウェア構成もユーザーそれぞれ違う。広く参加者を集うならば、ある程度のアクシデントやハプニングを想定し、それに対処できる準備が必要になる。

サポートする側の心構え

 羽鳥氏はインストールをサポートする立場の自分たちに至らない点がいくつもあったという。

 「僕たちのいけない点として、『動かない』とか『いじっていたらデータが消えてしまった』という、うまくいかなかったケースを生き生きしながら話してしまいがちだということ。うまくいかないことに対して、その解決策までいわなければならないが、それには時間が足りなかった」

 時間の問題は重要だ。今回のインストールパーティではインストールした後、IPAが公開する「OSS技術教育のためのモデルカリキュラム」(OSS技術教育のためのモデルカリキュラムに関する調査)を参考に、実際にLinuxを利用するところまでレクチャーしようと試みたが、時間が足りなかったという。

 「イベントそのものは3時間くらいを予定していたのですが、概要の説明とインストールだけで2時間くらい掛かってしまいます。モデルカリキュラムから2つのテーマを選んでレクチャーするのですが、残り1時間ではどうしても伝えきれなかった」

扱うことの楽しさと伝えることの難しさ

 羽鳥氏は、「楽しさを伝えることの難しさ」を感じたという。インストールしただけでは、「それで何が楽しいのか」というところで終わってしまう。構築した環境で何かを行ってこそ、参加者と楽しさが共有できるのではないだろうか。

 「自分たちとしては、インストールすることに夢中になってしまって、扱う楽しさを伝えられません。そこが反省点として残りました。でも、『扱う楽しさって何だろう』と最近、すごく疑問に思います」と羽鳥氏。

 PCやガジェットが好きな人の中には、それらを「ただ使ってみたい」「いじってみたい」という欲求があり、それが満たされれば満足という人がいるが、すべての人がそうではない。何かを学ぶには目標設定が重要なのだ。(Linuxをいまから学ぶコツ教えます

 「ユーザーの人に何をどうアピールしたらいいのだろうか。プログラミング? プログラミングも楽しくなるには、ある程度涙を流さないと楽しくなりません。『Hello World』を表示させても、その楽しさはなかなか持続しません。限られた短い時間の中で、何を持って楽しさを伝えるのか。でも、これがクリアできればインストールパーティは、もっといろんなところでできる」

 オープンソースソフトウェアの中には、ユーザー層の拡大を積極的に望み、開発されているものも多い。しかし、ユーザーが現状利用しているシステムから、違うシステムにスイッチさせるには大きなきっかけが必要だ。

 「いろんな人たちとディスカッションをして、ぜひ知恵を拝借したい」。そう羽鳥氏は語った。

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