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コラム:自分戦略を考えるヒント(22)
仕事のポートフォリオを作ろう

堀内浩二
2005/8/25

Steve Jobsのスピーチを読んで悩むこと

 大杉さん(仮名、28歳、男性)は中堅システムインテグレータの開発リーダーだそうです。前回の「Steve Jobsのスピーチから読み取る自分戦略」を読んで、迷いが深まったとのこと。そこでじっくりお話をお伺いすることにしました。


大杉 前回の「Steve Jobsのスピーチから読み取る自分戦略」を読んで、スピーチの全文も読んでみました。割と分かりやすい英語でよかったです。それにしてもいいスピーチですね。感動しました。

堀内 さまざまなところで引用されていますよね。

大杉 堀内さんが書かれていた、「好きを仕事に」がこれからの社会では合理的な選択なんだというのも、ロジックとしては分かります。ただ、基本的には大学の卒業式のスピーチですから、学生向けのメッセージですよね。もう社会に出てしまった僕にとっては「いまさらどうすればいいのかな」という感じもします。

堀内 どうすれば、というのは?

大杉 僕みたいに社会人を6年もやれば、いまさら違うこともやりづらいですし、給料が入ってこなくなったら困りますし……。

堀内 違うことをやりたいんですか?

大杉 うーん、まったく違うことではないんですが、仕事の幅を広げたいなという思いはありますね。

堀内 では今日は大杉さんに「仕事のポートフォリオ」という考え方をご紹介させてください。夏休みにあれこれ考えるのにちょうどいいテーマですよ。

仕事のポートフォリオを作るとは?

大杉 仕事のポートフォリオですか。お金のポートフォリオなら知ってますけど……。

堀内 似たようなものです。資産のポートフォリオといえば、国内株式を全体の30%とか外貨を20%とか、そういう資産構成の話ですよね。仕事のポートフォリオでは人生における仕事の構成を考えます。

大杉 僕はサラリーマンですから、仕事といっても1つしかないですよ。

堀内 まあ聞いてください。わたしが調べた限りでは、「仕事のポートフォリオ」という概念を最初に提唱したのはイギリスの経営学者チャールズ・ハンディという人で、このように仕事を分類しています。分類の仕方はほかにもいろいろ考えられますが、今日はこれでいきましょう。

◆有給の仕事
├賃金仕事(提供した時間の対価として金銭を得る)
└報酬仕事(仕事の結果の対価として金銭を得る)

◆無給の仕事
├家内仕事
├奉仕活動
└研究活動

大杉 無給の仕事も入っているんですね。

堀内 そうです。「家内仕事」は家庭に対する、「奉仕活動」は社会に対する、役割を果たすという意味で「仕事」です。「研究活動」というのは純然たる楽しみであったり、そのほかの仕事へのインプットとなるような仕事です。

ポートフォリオの変更は慎重に

堀内 Jobs氏のスピーチを読んで「好きを仕事に」戦略の強さを感じたとしても、突然いまの仕事を辞められるわけでもないわれわれ社会人は、慎重に仕事の構成(ポートフォリオ)を変えていかなければなりません。そのときに重要なのが、これらの無給の仕事なのです。

 以前「マイR&D」という表現で、自分のための研究開発予算を計上しようという記事を書きました(「ボーナスの賢い『自己投資法』」。また当コラムでご紹介した「出合いの連鎖が新たなキャリアの道をつくる」の坂井さんをはじめ、研究活動が有給の仕事に結び付いていった方の例はたくさん挙げることができます。

大杉 堀内さん自身はどうですか?

堀内 わたしは研究活動と奉仕活動を兼ねたような起業支援のボランティアをやっています。そこで知り合った方が声を掛けてくださって、報酬仕事につながったことがあります。報酬仕事といってもやっぱり半分ボランティアみたいな仕事でしたが(笑)、そこでの実績がまた次の仕事につながりました。

大杉 なるほど。でもちょっといまはそういう余裕がないなあ。

堀内 そう思われるのも分かります。でも基本的には好きなことを研究テーマに据えているはずなので、いまの趣味に研究活動というラベルを張るだけのことかもしれませんよ。

 それに、仕事のポートフォリオを考えるということは、これと決めた活動に常に一定のエネルギーを注ぎ続けることでもあるんです。ですから意識的に時間を割り当てることも必要ですよ。例えば、せっかく資産の構成を考えたのに、いまは株が調子いいからほかの資産を全部売って株を買おうと考えるのはポートフォリオの発想ですか。

大杉 違いますね。ポートフォリオを組んでいるのなら、逆に株の割合が高くなり過ぎないように売ったりしないと。では意識的に研究活動をやるとして、まず何をしたらいいですか?

研究活動の進め方

堀内 まずは「研究テーマ」を掲げましょう。先ほど「仕事の幅を広げたい」といわれていましたが、大杉さんのテーマは何になりますか?

大杉 えっと……。まあ、最終的にはITコンサルタントみたいな、経営にかかわるような仕事がいいなということなんですが……。

堀内 きちんと言葉にした方がイメージが明確になりますよ。個人名刺の裏に「研究テーマ:××」と刷るくらいのつもりで、後で考えてみてくださいね。

大杉 了解です。ただ、「ITコンサルタントになりたい!」なんて、ちょっと名刺の裏には書けませんよね。

堀内 そうですね。後でいいますが、他人とシェアしてこその研究活動なので、「研究テーマには他人に語れる名前を付ける」ことが大事です。大杉さんでしたら、えーと、「アジャイル開発のノウハウを企業経営に生かす」とか、そんな感じでどうですか。

大杉 何かそれらしいけど、意味不明ですね(笑)。それに経営に生かすといっても、経営について何にも知らないんですけど。

堀内 いいじゃないですか、研究中なんだから。とにかく自分の好きなキーワードを詰め込んでテーマ名を作ってみてください。もっと良い名前が見つかったらどんどん差し替えていきましょう。名前を決めたら、次は仕事に費やす時間を決めておきましょう。例えば仕事時間の5%くらいを使うと決めてみましょうか。

大杉 5%ですか。ちょっと少ないような気がしますけど。睡眠や食事の分を1日10時間として、残り14時間の5%は、月21時間か。あれ、多いかな(笑)。

堀内 平日毎日1時間、あるいは毎週末5時間くらいですね。何しろ無給の仕事だし、ほかにも研究テーマはあるでしょうから、毎月20時間を将来のために割くのはけっこう大変ですよ。通勤時間から30分、自宅で30分とか、工夫する必要がありそうですね。

大杉 では月21時間を目標に頑張ります。それで、何から頑張ったらいいのかな。

研究のポイントは?

堀内 それを考えるところから始めましょう。研究活動のポイントは、

(1)常に一定のエネルギーを注ぐ
(2)意図と一貫性を意識する
(3)他人と共有する

の3点です。「(1)常に一定のエネルギーを注ぐ」はさっきいいましたね。1カ月何もしないで研究活動に没頭するようなことは、社会人のわれわれには難しいわけですから、いますぐできることを少しずつやっていきましょう。

 「(2)意図と一貫性を意識する」というのは、ただ浅く広く、ではなくて、昨日までの研究結果にプラスアルファしていく、積み上げていくことを意識するということです。

大杉 ブログで研究日誌をつけていくといいかもしれませんね。

堀内 そうですね。時系列に沿って読み返せるところはブログの利点だと思います。ただ、積み上げるということを意識すると、日々のメモとは別のカテゴリで、定期的にちょっとまとまった考察を書いていくのがいいと思いますよ。

大杉 ブログに書いていけば自動的に「(3)他人と共有する」もOKですね。

堀内 そうですね。さっき「研究テーマには他人に語れる名前を付ける」といったのはそういう理由です。もちろん、ただ書きっぱなしではなく、研究テーマが似た人との交流を深めていくことも意識しましょう。そうすることで研究活動が楽しく・深くなりますし、結果として有給の仕事へのきっかけが生まれるかもしれません。

大杉 何となくイメージできました。「研究テーマを持つ」というのが分かりやすくていいですね。でもうまくいくかなあ。

堀内 情報発信を始めてみれば、やがて分かりますよ。うまくいかなかったらまた工夫をしていきましょう!

筆者紹介
堀内浩ニ●アーキット代表取締役。早稲田大学大学院理工学研究科(高分子化学専攻)修了。アクセンチュア(当時アンダーセンコンサルティング)にて、多様な業界の基幹業務改革プロジェクトに参画。1998年より米国カリフォルニア州パロアルトにてITベンチャーの技術評価プロジェクトに携わった後、グローバル企業のサプライチェーン改革プロジェクトにEビジネス担当アーキテクトとして参画。2000年に帰国、ソフトバンクと米国VerticalNet社との合弁事業において技術および事業開発を担当。

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