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コラム:自分戦略を考えるヒント(34)
これからのITエンジニア像を考える

堀内浩二
2006/10/27

今後も影響を及ぼすものは

 4つの「潮流」やソフトな価値の重視といったことは、予測というよりは、現在起きていることの観測です。問題はこれからどうなるかですが、大局的に見ればこれらの流れが止まるとは考えにくいでしょう。

 自動化・グローバル化・仕組み化の進展でソフトウェアの品質が向上し、機能性や信頼性で差別化しづらくなっていくと仮定すると、使用性、とりわけ満足度といったソフトな価値が競争優位の源泉になっていくはずです。

 「問題解決」を提供するエンジニアは、単に最終成果を顧客に提出するだけでなく、しばしば顧客とともに時間を過ごします。そこでセッションでは、先のコーヒー豆になぞらえて、こんな質問をぶつけてみました。「価格も納期も品質も同じ、つまり経済的に等価な企業(あるいは人)があったとしたら、あなたがパートナーとして選ぶ企業(あるいは人)の基準は?」という質問です。

 例えば、

・一緒に仕事をして楽しそうな企業(人)
・センスのいい仕事をしそうな企業(人)
・(社会還元に熱心など)応援したくなる企業(人)

といった、やはりソフトな価値が重視されるようになるのではないでしょうか。

「マインドの時代」を見据えた、エンジニアの心得

 ここまでの観測や予測が妥当だとして、では「エンジニア2.0」が持つべき心得とは何でしょうか。セッションでは、4つにまとめてお話ししました。

(1)他者に振り回されない

 現在40歳以下の社会人は、おそらく70歳過ぎまで現役で働くことを社会が求めるようになると思います。ということは、社会人として働く期間は50年間だと考えておけばいいでしょう。あなたが大学卒でいま社会人10年目だとすれば、まだ5分の1も過ぎていないということです。

 プログラマ○歳限界説、あるいは転職の旬は○歳まで、とよくいわれます。いまはそうかもしれませんが、70歳まで働くことが普通になる社会は誰にとっても未知の世界です。何となく自分の親をモデルに考えてしまいがちですが、それよりは長期戦になると考えて間違いないでしょう。それを考えれば、数年で廃(すた)れるであろう流行語や流行の技術を追いかけるだけでなく、まず自分はどんな問題をどう解決する存在でありたいかを考えてみることがスタートになると思います。

(2)いまの自分にしがみつかない

 上で見てきたような潮流が、どのような変化をもたらすか、正確には予測できません。ただ、同じ領域の専門家で居続けることが難しくなると思っています。ITエンジニアの仕事を含めたホワイトカラーの仕事が「自動化」「グローバル化」「仕組み化」のただ中にあります。構造的に仕事がシフトしていくということです。また「マインドの時代」で見てきたように、求められる価値そのものが違ってくる可能性がありますし、個人が社会で働く期間は企業の寿命を大幅に上回っています。

 これらを考え合わせると、例えば社会人の最初の10年間で培ったスキルで自分の専門を定めてしまうのは、意外にリスクの高い選択になるかもしれません。

(3)自分で職業を定義する

 「振り回されず」かつ「しがみつかない」という、一見矛盾した心得を両立させるのは、「自分で職業を定義する」という態度だと思います。よくあるエクササイズですが、自分の名刺の肩書きを考えてみるのもいいでしょう。

「Java屋……でも、Javaがなくなったら廃業か?」
「オブジェクト指向……そこまでいい切るにはこういうスキルが足りないかな。それに〜屋って何だ?」
「問題解決屋……これじゃ漠然とし過ぎていて名刺には書けないな」
「○○に強い情報建築家?……まだ曖昧かな」

など、さまざまなレベルで考えてみることは、自分に固有の強みを抽出する作業にほかなりません。また既存の職種や資格の名前から離れて考えてみることで、自分の職業人生をデザインしていこうという意欲が高まると思います。

(4)楽しむ

 上記の3つは、とりたてて「2.0」ならではというものではありませんでした。変化の大きさや速さは違え、どの時代にも通用する心得だと思います。「仕事を楽しむ」も、目新しい心得ではありません。ただ、これまでが「つまらないよりは楽しめた方がいい」という程度であったとしたら、「マインドの時代」においては、「仕事を楽しむことが成果に直結する」というくらい重要です。その仕事を楽しんでいない人が商品に楽しさや美しさを吹き込めるとは思えないからです。まして上で見たように、問題解決業の場合は仕事のプロセスも顧客と共有することがありますからなおさらです。

おまけ――Web上Q&A

 セミナーでは、Q&Aタイム、そしてセッション終了後も、活発にコメント・ご質問をいただきました。ここでいくつか紹介させてください。

Question:エンジニアが持つべきマインドセットとして、「楽しさ・センス・審美眼」などがあるという話だったが、「ユーザーへの配慮」を加えてはどうか。間違っても大丈夫なナビゲーションなど、ソフトウェアには「配慮」が求められてきていると思うので。

Answer:おっしゃるとおりですね。機能を満たしさえすればいいというマインドでは、そういった「配慮」にまで思いが至らないかもしれません。

Question:意味や物語、こだわりは、偽装できるのでは? 宣伝上手な企業なら、こだわりの一品といっていいかげんな品物を売ることもできるのではないか?

Answer:短期的にはYesだが、長期的にはNoだと思います。これだけ消費者が情報発信力を持っている時代です。社内の事情や社員の言動までもネットで共有される時代にあっては、ソフトな価値を長期にわたって偽装することは難しいし、偽装が露見したときのリスクが高すぎると思います。


今回のインデックス
 これからのITエンジニア像を考える (1ページ)
 これからのITエンジニア像を考える (2ページ)

筆者紹介
堀内浩ニ●アーキット代表取締役。早稲田大学大学院理工学研究科(高分子化学専攻)修了。アクセンチュア(当時アンダーセンコンサルティング)にて、多様な業界の基幹業務改革プロジェクトに参画。1998年より米国カリフォルニア州パロアルトにてITベンチャーの技術評価プロジェクトに携わった後、グローバル企業のサプライチェーン改革プロジェクトにEビジネス担当アーキテクトとして参画。2000年に帰国、ソフトバンクと米国VerticalNet社との合弁事業において技術および事業開発を担当。


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