最終回 興した会社を存続させる人材戦略
語り手 鈴井広己(仮名)
聞き手 渡辺知樹(ランディングポイント ジャパン)
2009/6/25
エンジニアから経営者への転身を果たした鈴井広己氏(仮名)が、起業エピソードを語る。聞き手・解説は、自身も企業の代表を務める渡辺知樹氏。 |
これまで4回に渡って、ITサービスのベンチャー企業を立ち上げたエンジニアにインタビューし、起業の際の心構えや所感、注意事項などをお伝えした。またビジネスパーソンとして知っておきたいビジネス用語・概念についても解説した。
5回目の今回は最終回として、自分以外の人間を管理する立場になったとき誰もがつまずく人材採用戦略について、もう少し詳細に鈴井氏に聞いた。
会社が軌道に乗ってきたところで、鈴井氏は今後会社をどのように育てていこうとしているのか。また、本連載のまとめとして、会社を存続させていく意義についても考える。
■採用の決め手は得意技があること
鈴井氏 前回お話したように、立ち上げ時の人選には大変苦労しましたが、結局、最初の5人はわたしの知り合いやそのまた友人などを何とか口説き落とし、採用しました。
採用の決め手ですか? まずある分野に「これならOK」という得意技があること。それから相手の、これは顧客であったり仲間であったりしますが、信頼に応えようという真摯(しんし)さ、まじめさがあることです。ベースになる知識や意識がしっかりしていれば、細かいスキルや知識は後から付いてきます。長所はともかく短所をどう評価するかですが、その人の短所や欠点がクリアで、その改善のためにわたし自身がどう手助けすればいいか分かる人であれば、そう遠くない将来に解決する問題だと考えています。
完璧な人はいません。どうすればより良くなるのか、プロフェッショナルとしてよりよい仕事ができるのか、自分を改善し、レベルアップしていく道筋を自分で描ける人であれば、基本的に採っていいと思います。同じ価値観で同じ高みを見て仕事をしてくれて、結果的にその人との関係を通じてわたし自身もプロフェッショナルとして成長できるような人と一緒に働きたいですね。日々の業務で意見がぶつかって議論したり、何気ないやり取りの中から自分の知らないことを教えてくれたり気付かせてくれたり。そうした人とのやり取りが一番自分を成長させてくれると思います。今回の採用を振り返ると、大変厳しい条件にもかかわらずほぼ成功だったと思っています。
経営者として彼らを迎え入れた以上、自分が責任を持ってその人の人生をお預かりしてキャリアを伸ばす手助けをする責任があると思っています。彼らの成長のために自分が良かれと思ってすることと彼らの目指す方向が基本的に同じであるという点で、互いに気持ちよく切磋琢磨できる環境を実現できているという自負はあります。もちろん小さい会社なので、小回りが利く反面手が回らないことも多いのですが。
エンジニアは職人のように1人1人の技量に依存した孤独な仕事である一方、会社で働くということは1人では不可能なことやカバーできない広範なことを複数の人間の力を組み合わせて実現していくことです。チームとしての弊社の魅力が総合的に増大するよう努力していくつもりです。
■採用失敗事例
鈴井氏 採用に失敗した例は、残念ながらあります。知人から紹介された人のため事前情報で先入観ができ上がってしまい、面接時にイエス/ノーであっさり答えられる程度の質問しかせず(できずというべきかもしれません)、あまり確認せずに雇ったところ、こちらの想定と実際のスキルがまったく異なっていたということがありました。うちの会社で一緒にやっていけるよう、できる限り改善のサポートをしたつもりですが、ほかの人とあまりにレベルが違いすぎて逆に本人が苦しそうだったということがありました。
<渡辺氏の解説> 起業に限らず人を集めてチームを作る場合の留意点には2つある。まず、チームというのはメンバーそれぞれに果たすべき役割やポジションがあり、その役職に就く人間が要求される役割に合致する技能や知識、経験を見極めるということ。ある分野で十分な知識や経験があったから類似の分野でも大丈夫だろう、と安易に採用するものではない。もちろん優秀な人であれば、初心に返って基礎から学び直し短期間で対応できるかもしれないが、人は実体験の中で試行錯誤しながら環境に適応していくものであり、前提条件や環境が違う状況で期待する効果を出してくれるかどうかは疑ってかかるべきだろう。 次に、個々人が勝手に動くのでなく、チーム全体で仕事をすることが多いIT業界において、他人とコミュニケーションが取れるか、他人への配慮ができるか、一言でいえば信頼できる人間性の持ち主かどうかを見るということである。そのためには、面接時の質問が「●●の経験がありますか?」「はい」といったイエス/ノー式でなく、「何をしたのか?」「どのように対応したのか?」「なぜそう判断したのか?」「別のやり方は考えたのか?」というように、その人の思考や経験についてなるべく本人に語らせるような質問をすることが重要だ。実際に鈴井氏はどのようにして応募者の技量や人間性を見抜いたのであろうか。 |
鈴井氏 わたしの場合、その方が過去の経験の中で何に対してどういう状況でハマったかという問題対応・解決の体験を聞けば、技量や経験レベル、またその会社内での“立ち位置”が推測できます。発生した事象に対して、どのように考えてどこまで調べたのか、どういう解決方法で対応したのかといった点に注目します。
例えば、ある問題について、インターネットで調べただけで上司に報告したとか、最後まで責任ある立場で問題解決にタッチしていなかったというのであれば、そのレベルまでの仕事しか任されていなかったのでしょう。一方、他社のサポート担当者と調整したという回答であれば、ある程度そのソリューションについては任されていたことが分かります。問題解決方法を聞けば、その方の技術力や思考力、判断力、行動力、管理能力、立ち位置が想像できます。
たまに自分は問題なくしっかりやってきたと回答する方がいますが、ITの世界でトラブル対応が発生しないというケースはまず考えられません。おそらく上司の敷いたレールの上を指示どおり走ってきただけだったり、ベンダに丸投げでやってきて、逆にその人は自分で考えずに仕事をしてきたのではないかと推測されます。繰り返し聞いても問題が出ないようであれば、得点は低くなるでしょう。
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