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国際競争時代に突入するITエンジニアに生き残り策はあるか?
日本人ITエンジニアはいなくなる?

第5回 インド系企業の多国籍チームから何を学ぶか

小平達也(パソナテック 中国事業部 コンサルタント)
2004/5/14

ITエンジニアの競争相手が海の向こうからやってくる。インド、中国、それに続くアジア各国。そこに住むエンジニアたちが日本人エンジニアの競争相手だ。彼らとの競争において、日本人エンジニアはどのような道を進めばいいのか。日本だけでなく、東アジア全体の人材ビジネスに携わる筆者に、エンジニアを取り巻く国際情勢を語ってもらった

 今回は、日本国内で展開しているインド企業で活躍する各国出身のエンジニアと対談する機会があったので紹介したい。以下に登場するのはインド最大のITサービス企業の日本法人であるタタ コンサルタンシー サービシーズ ジャパン(以下、タタ)に勤める社員4名と、筆者との対談をまとめたものである。社員といってもインド人1名、中国人1名、日本人2名という“多国籍”対談である。なお対談はすべて日本語で行われた。

 対談を読んでいただくことで、日本人エンジニアの今後のあり方、キャリアの方向性の模索・再確認を行う「きっかけづくり」になればと思う。

日本人エンジニアの役割

 羽野氏はSE歴10年以上の経験を持つ。そのうち5年あまりを外資系企業で過ごした。現在はタタでインド人マネージャの片腕として活躍している。志田氏は、外資系のハードウェア企業に10年以上勤めた。特に日本市場向けのSCMの導入を中心に携わってきたという。現在タタで同社のインド人マネージャやコンサルタントと日本企業のユーザーとのインターフェイスという役割を担っている。このように2名とも国内の外資系企業の勤務経験がそれなりにあるが、長期の海外駐在の経験はない。

小平 「2人とも外資系企業での経験が豊富ですね。そこでお聞きしたいのは、インド企業特有の環境といったことはあるのでしょうか」

羽野 「外資系企業ということでいえば、社内では英語を使う場面が多いですね。もちろん、顧客に対しては日本語でやりとりしています。しかしインド企業だからといって、欧米の外資系企業と異なることはあまりありません。ただ、英語を話す場合、同じ単語を使っていても、その『単語の意味・定義づけ』を双方明確に確認しておかないと、後々話がずれてくることがあるので注意は必要です」

小平 「なるほど。同じ英語を使っていても、単語のニュアンスを明確にする必要があるのですね。志田さんはその点いかがですか。日本のエンドユーザーと御社のインド人マネージャやコンサルタントとのインターフェイス役を担っていらっしゃるということですが……」

志田 「そうですね。私の役割には『ニュアンスデリバリー』的なことが含まれていると感じています。また、ユーザーとマネージャとの間に立ち、『現在起こっている問題・現象を冷静に伝える』ということが立場上、非常に重要になってきます。私の前職の経験からも、万が一オペレーションで問題が生じた場合、現場はパニックになりがちです。その事情もよく分かりますが、ここで冷静に状況を判断し、関係者に伝えることが大切な役割だと考えています」

 羽野氏、志田氏とも外資系企業での経験が豊富なため、異文化企業でのビジネス遂行に問題なく冷静に対応している、という印象を受ける。話に出た英語(単語)のニュアンス、定義付けに関しては、筆者も某ヘルスケア企業の執行役員から同様の話を聞いたことがある。アメリカ、ヨーロッパ、アジアなどから幹部の集まる戦略策定会議でも、まず「単語の定義づけの確認」から始める、ということであった。

中国人エンジニアは能力を発揮するチャンスを求める

 香港出身のサニー(Sunny)氏は、もともと香港で航空会社のデータウェアハウスの開発などに携わっていた。3年前に来日し、日本でエンジニアとして活躍している。同氏は前回(「第4回 中国人ブリッジSEのキャリアパス」で紹介したBridge Career Chainの概念モデルでは、来日初期から来日中期に位置するエンジニアだ。

小平 「サニーさんが来日したきっかけとは、どういったものですか」

サニー 「数年間香港で仕事をしているうちに、『世界中、いろいろな国でエンジニアとしてチャレンジをしたい』と考えるようになりました。それで来日したのです。初めは日本語もさっぱり分からず慣れなかったのですが、いまでは日本語検定の1級にも合格しました」

小平 「それはおめでとうございます。現在の業務はどういったものですか」

サニー 「インド人や日本人と一緒に、総勢数名から数十名単位でエンドユーザーの下で開発に従事しています。私はプロジェクトメンバーです。エンドユーザーのビジネス自体はグローバルで連結しているので、現場の開発チーム以外にも、アメリカ、ヨーロッパの開発チームとも電話会議などをしながら進めています。日本にいても80%が英語環境ですね」

小平 「やはり当分は日本でエンジニアとしてのスキルを磨いていくのですか」

サニー 「そうですね。せっかくタタというグローバル企業に在籍できているわけですから。入社したときは『チャンスをゲットできた!』と思いましたよ(笑)。数年後はまだ分かりませんが、もっと世界を見て、いろいろな場所で経験を積みたいです。そういった意味ではタタの欧米などの拠点もどんどん活用し、キャリアの発展空間を広げて行きたいです」

インド人エンジニアが語る日本人エンジニア気質

 インドから来日しているパンダ(Panda)氏は、開発現場で現在30名弱のメンバーを管理し、タタの責任者として日本の顧客と対応している。プロジェクトメンバーの国籍は日本、中国、インドとさまざまだが、日本での留学経験に裏打ちされた高度なコミュニケーション能力を背景に、日々課題解決に当たっている。

小平 「パンダさんは会社の責任者として、日本の顧客と日々対応しているということですね。チームメンバーもさまざまな国籍の方々がいますが、そういった点でのマネジメントで苦労されることはありますか」

パンダ 「個別の対応はそれぞれのプロジェクトリーダーに任せて、私は責任者としてのプロジェクト全体の取りまとめをしています。また、メンバーたちのモチベーションを高めていくのが重要な役割だと思っています。それには仕事の内容だけでなく、常にチームメンバーとのコミュニケーションを密にするように心掛けています」

小平 「ずばり、日本人エンジニアとインド人エンジニアに相違点はありますか?」

パンダ 「日本で仕事をしていると、日本人エンジニアは『プロセスを重視し、約束を守る』点で評価できると思います。一方でインド人エンジニアや多くの海外エンジニアは『結果重視型』が多いですね。プロセス上で問題が生じても、問題解決までずっと立ち止まるのではなく、どんどん次へ進みながら振り返りつつ解決していく。そんなイメージです」

サニー 「中国でも『結果重視型』です」

小平 「なるほど。インド、中国ともに『結果重視型』の人が多いということですね。それはビジネス上の話に限定されるものなのでしょうか」

パンダ 「いや、子どものころから『結果重視』で教育を受けているので、そうした発想法は自然に身に付くのです。

 社内教育に関していうとタタでは売り上げの6%を教育に投資しています。インドとシンガポールにトレーニングセンターがあるので、ここで日本を含む全世界からのエンジニアを必要に応じて受け入れ、トレーニングを行っています。その後は国境を越えてジョブローテーションがある人材もいます」

「多国籍チーム」との対談を終えて〜やはり個人が主役だ

 インド系企業に勤めるエンジニアとの対談を通じて筆者が感じたことは下記の3点だ。

  • 日本人エンジニアが市場と顧客を理解し、ブリッジとして機能している
  • 中国人エンジニアにはチャンスを獲得していく姿勢がある
  • インド人マネージャは顧客およびチームメンバーとのコミュニケーション能力が高い

 これら各人の機能は、一見別々に見えるが、実は個々人がそれぞれ自分の「持ち場」を理解し、プロとしての能力を発揮しながらチームを構成している。

 そして個々人の活動を、よりアクティブにするための手段・ツールとして、企業は必要に応じ「社内教育研修」の機会を提供し、個人のスキルが顧客の要求水準に応えられるように、常にクオリティの向上を図っている。そのうえでプロジェクトチームを作る。そこではあくまで個人が主体となり、常に互いに刺激を受けつつ顧客の課題解決に当たっている。

 このことは、今回紹介した話に限らない。国籍や勤務地、社内・社外にかかわらず、大切なことは「自立した個人」であるということだ。「自立した個人」の場合、チームやコミュニティでの自らの「役割」「強み」を明確に把握している場合が多い。従って主体的にチームワーク、より適切にいうならば「チームにおけるメンバーとのコラボレーション」を発揮できるのだ。

 では、「自立した個人」であり続けるためにはどうしたらよいか。残念ながら安易な近道はない。日々、常に自らの「あるべき姿」、つまり自分戦略を考え抜いていくことが必須となるのだ。

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