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国際競争時代に突入するITエンジニアに生き残り策はあるか?
日本人ITエンジニアはいなくなる?

第10回 日本企業を囲む「内定辞退の壁」

小平達也(パソナテック 中国事業部/早稲田大学ビジネススクール講師)
2005/4/21

ITエンジニアの競争相手が海の向こうからやってくる。インド、中国、それに続くアジア各国。そこに住むエンジニアたちが日本人エンジニアの競争相手だ。彼らとの競争において、日本人エンジニアはどのような道を進めばいいのか。日本だけでなく、東アジア全体の人材ビジネスに携わる筆者に、エンジニアを取り巻く国際情勢を語ってもらった

中国から、ブラジルから、ロシアから〜オフショア・フェア〜

 本連載では海外技術者関連の話題など、日本にいては直接的に触れにくい情報を紹介しているが、時には日本にいながらにして一瞬だけそういうものの存在に触れ、体感できる場が提供されることもある。例えば、今年(2005年)1月末に開催された、日本では唯一のオフショア開発に的を絞ったイベント「ジェトロITソフト・アウトソーシング展」(主催:日本貿易振興機構)などだ。

1月に開催された「ジェトロITソフト・アウトソーシング展」

 同イベントには、アジアを中心とした海外12カ国の50社が、日本への営業活動の一環として出展した。筆者も会場に足を運んだ。通常、オフショア開発というと中国企業が圧倒的に多く、次いでインド、最近ではベトナム企業なども話題になってきている。今回のイベントでは、多様な国々が日本攻略を目指して参加しているのが特徴だった。

 国名と出展企業の社数を以下に挙げる。

中国(13社)、インド(8社)、ベトナム(5社)、フィリピン(5社)、バングラデシュ(4社)、スリランカ(3社)、パキスタン(3社)、ブラジル(2社)、ロシア(2社)、シンガポール(2社)、タイ(2社)、トルコ(1社)

 アジア圏のみならず、ブラジル、トルコ、ロシア企業などが参加していることも興味深い。ロシアのケースでは、ウラジオストクから日本語の堪能な担当者が来日し(意外なことに現地には日本語の堪能なロシア人が多いという)、組み込みなどモバイル向けサービスで強みを発揮し商談に挑んでいたのが印象的であった。

「ジェトロITソフト・アウトソーシング展」の会場の様子

 同イベントでは2日間での商談件数がなんと約1400件、成約見込み件数も約300件というから高い成約率と考えてよいだろう。ただし、参加企業全体が満遍なく成約しているかというとそうではない。受注につなげられる企業とそうでない企業とで、明暗ははっきり分かれているようだ。

 それぞれの企業が得意とする技術分野は画像処理、組み込みソフト、金融システムの開発、ネットワーク管理など多種多様だが、受注活動がうまくいっている外国企業は共通して「独自のコア技術+日本語」の2点セットを強みとし、日本企業との商談を行っていた。

 筆者は、この展示会に参加した複数の企業に聞き取り調査を行った。その結果、多くの企業が日本での足掛かりとなる営業事務所の設立を準備中であった。今回のようなオフショア・イベントは一時的なものであるが、今後海外企業の日本向け受注活動が活発化することを受け、日本での営業活動・拠点展開は増加する傾向にあるようだ。

中国人技術者との面接

 上記イベントの1カ月後、筆者は中国の某地方都市にいた。その都市にある理工系大学には、デジタル家電や携帯電話の分野でポテンシャルとして登用できる、電気・電子系(組み込み系)のエンジニアが数多くいる。クライアント企業に代わって彼らの面接を行うためだ。

 本連載第2回として「優秀人材に見向きもされない日本企業」を紹介したのは2003年の12月だが、残念ながら日本企業を取り巻く「不人気」な状況は一向に改善されていない。このため、企業の人材採用のベースとなる部分について、コンサルタントとしてサポート・助言をしているのだ。

 面接は1名当たり1回30分程度かけて行う。ここではお互いに真剣勝負だ(ちなみにこの面接もすべて日本語で行っている)。面接のポイントは「モチベーション」「論理性」「コミュニケーション能力」「専門性に関する知識」などいくつかある。面接も3次まで行い相当絞り込むため、毎回の合格率は5%程度という狭き門である。

内定辞退の壁

 下記に、エンジニアをはじめとする現地人材の「日本企業に対する人材の期待度」の概念図を紹介する。中国で採用活動を進める中で、応募者のモチベーションがどのように変化していくかを、日本企業への志望者と欧米企業への志望者の例で示したものである。それぞれのポイントごとに、採用担当者にとっては「内定辞退の壁」が存在する(図1)。

 
図1 人材の入社意思と「内定辞退の壁」

 縦軸が人材の企業へのモチベーション(入社意思)、横軸が人材の企業への理解度(面接の進行)を示している。面接の進行順に各ポイントを紹介しよう。

(1)企業の名前、募集部署やポジション(職位)

 まず日本・欧米企業への志望者とも、入社したいという意思は同程度に高い。もっとも日本企業に対する応募は欧米と比べると少ないという事情があり、日本企業に応募したエンジニアに限ってのことだ。対中国の直接投資の契約金額を国別に見ても、日本の2003年の契約金額は7%で、韓国の8%よりも少ない(日本貿易振興機構 中国直接投資統計)。日本企業は中国人エンジニアにとって「One of them」なのだ。日本企業は「日本語ができること」を条件とし、自ら窓口を狭めているという理由も多分にある。

 日本の場合、入社→教育・研修→配属→配置転換という一連の流れがあるが、中国では1〜3年の期間契約が一般的なので、「配属」がすべてと考えた方がよいかもしれない。中国では、もともとの雇用慣習と個々人の志向から、エンジニアにも「ある分野で専門性を深めてゆき、マネジメントレベルまでキャリアを昇華させたい」と考える傾向がある。従って、企業側も「どのポジションでの採用か」を明確に打ち出すことが必要であり、面接はそのポジションに対する双方の認識共有と人材の可能性を確認する場、とすることが理想的なのだ。

(2)キャリア

 日本企業と欧米企業の差が大きく出るのがキャリアという部分。入社後のイメージや社内教育についての質問に対して、きちんと回答できる(教育体制が準備されている)か否かで、応募者の入社モチベーションは大きく上下する。

 現状、この部分にきちんと答えられる日本企業は少なく、「入社モチベーション減退」のチェックポイントになっている。欧米系の場合、GEやモトローラなどの企業大学が有名だが、これら社内教育を「人材獲得のための武器」としているところが強みだ。流動性が高く、もともと個人主義的な中国人エンジニアは、スキルの陳腐化に対しても日本人エンジニア以上に敏感なのかもしれない。入社研修ではなく、その後の継続的な教育を求めているのが特徴だろう。

(3)処遇

 最終的なポイントはやはり給与である。欧米企業の場合、部門ごとに人件費予算を持っている場合が多いので、「これは!」と思った人材にはメリハリのある処遇で対応することができる。中国に限らず海外では、専門技術を持った人材と生産ラインのワーカーでは処遇に大きな格差がある。

 しかし日本企業の場合、生産ラインのワーカーの給与をある程度目安にしながら、ホワイトカラーや技術職の処遇を決定している。このような発想をそのまま中国に持っていっても、優秀な技術者は採用できないのだ。

 もっとも中堅企業の場合、日本においてもトップが自ら採用の意思決定をする場面が多く、中国でもメリハリのあるエンジニア登用ができている事例がある。一方、大手企業は日本で蓄積してきた社内の制度に縛られ、身動きが取れない状況になっているのだ。

日本人エンジニアの課題

 以上の3つが、大まかに分類して、応募から入社までのプロセスを構成するチェックポイントである。筆者は各プロセスにおいて、クライアント企業とともに、欧米企業とのギャップを少しでも減らし、「内定辞退の壁」を打破するための活動を行っている。上記のプロセスは皆さんの転職モチベーションと比べるといかがだろうか。

 先に紹介したようなオフショア・フェアなどを足掛かりに、日本には続々と多国籍の企業が営業攻勢をかけており、実際に成約している。一方で海外に目を転じると、優秀なエンジニアをなかなか採用できず苦心している日本企業の実態がある。このはざまで、日本人エンジニアは何を強みとし、どこに向かっていけばいいのだろうか。


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