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国際競争時代に突入するITエンジニアに生き残り策はあるか?
日本人ITエンジニアはいなくなる?

第14回 中国での面接事例から学べるテクニック

小平達也(パソナテック 中国事業部 事業部長/早稲田大学ビジネススクール講師)
2005/12/15

ITエンジニアの競争相手が海の向こうからやってくる。インド、中国、それに続くアジア各国。そこに住むエンジニアたちが日本人エンジニアの競争相手だ。彼らとの競争において、日本人エンジニアはどのような道を進めばいいのか。日本だけでなく、東アジア全体の人材ビジネスに携わる筆者に、エンジニアを取り巻く国際情勢を語ってもらった

忙しい人事担当者

 筆者は「人材サービスを通じて企業のグローバル事業戦略を支援する」というテーマの下、企業に対して即戦力となるブリッジSEの紹介、育成型の中国人ITエンジニアの派遣といったソリューションを提供している。同時にITエンジニアに対しても、グローバルに活躍し、キャリアを積む機会を提供している。

 秋は企業の採用担当者にとって、特に忙しい時期の1つではないだろうか。例年、この時期は大手企業を中心にキャリア採用が活発化する。今年はキャリア採用に加え、新卒学生の追加採用をする企業が増えている。

 グローバル事業の拡大に伴い、中国での、もしくは日本国内での対中ビジネス要員の確保も課題となっている。このような背景から、平日は新卒対応、週末はキャリアセミナー、海外出張と目の回るほど忙しい人事担当者が増えてきている。

 わが中国事業部は「顧客と一体化して課題解決を実行する」というコンセプトで企業と共同でリクルーティングプロジェクトを進めている。当然のことながらメンバーも日本、中国を飛び回っており、筆者も含めて、東京・中国・日本の地方都市それぞれで3分の1ずつ過ごしている(この文章を書いているいまも、地方都市から東京に移動中である)。

中国・理工系大学生の就職動向

 先日も中国の某理工系大学と打ち合わせのため訪中した。中国では大学生の卒業は毎年7月前後であり、就職活動の解禁は一般に前年の11月20日前後といわれている。もっともこれは一般論であり、企業の就職説明会の解禁日などは地域や大学によってかなり異なる。解禁日は年々早まっているようだ。

 理工系学生を対象とした就職説明会の様子は以前本連載でも触れたことがある。その熱気はラッシュアワーの地下鉄のようなすごさである(第9回「IBMのPC事業売却がエンジニアにもたらすもの」参照)。

 求人企業には日本企業以外に、中国企業はもちろん韓国・欧米企業などがあり、「理工系の専攻+語学力」のある人材は引く手あまたの状態である。今回打ち合わせをした大学では、学生1名に対し、11月20日の時点ですでに3〜5社から内定が出ていた。

 中国の人材の特徴として、よくいわれる「勤勉」「理工系人材が多い」「外国語能力が高い」などとともに「個人差が激しい」ことも挙げられるのではないだろうか。同じ大学、同じ学部の学生の中に、5歳で小学校に入学した人物(なんと20歳で4年制の理工大学を卒業)や飛び級をしてくる人物などが必ず数名はいるのである。

 人材を中国語で表すと「人才」(réncái)になる。人材を「均一に加工すべき材料」としてではなく「能力を発揮すべき才能」として認めるからこそ、飛び抜けて優秀な人材の存在などの個人差も当然のものとしてとらえられているのだろう。

 優秀な人材がいる一方、面接でひたすら表面上の好印象と根拠の疑わしい専門性をアピールしてくる人物も非常に多い。中国では日本と比べて自己アピールが積極的であるため、日本の採用面接よりこのような人物の出現率は高いようだ(ただし本当のことをいっていない場合、さまざまな角度から質問を繰り返すと必然的に論理の破たんを起こし、馬脚を現す)。

 日本国内でも「勝ち組」「負け組」「格差社会」が話題になっているが、中国ではそれ以上に優秀人材と一般人材の「質的格差」が大きく目立ち始めている。

面接ノウハウを蓄積し始めた日本企業

 中国人を活用している企業にヒアリングすると必ず返ってくる答えの中に、「中国人ITエンジニアはすぐ辞める」というものがある。中国での雇用は期間契約がベースとなっているため、中国人ITエンジニアが転職の機会に敏感であることには、この連載でも何度か触れている。

 ところがである。今年は様子が異なってきているようだ。中国ではITエンジニアの離職率が毎年30%程度といわれているが、今年は大手企業を中心に15〜20%程度に落ち着くという感触がある。

 離職率の低下の背景として、以下の点が挙げられるのではないだろうか。

・エンジニアが冷静に環境を把握するようになってきた

 一時期のように「誰でも転職をすれば無条件に待遇がアップする」という傾向は、給与水準こそ高止まりであるものの沈静化しつつあり、以前ほどの高揚感はない。むしろ同じ職場で安心・安定して仕事をしたい、転職をするなら単なるタスク処理型の仕事でなく管理者としての仕事をしたい、と考えるエンジニアが増加してきている。

・企業が採用と活用についての知識を組織内に蓄積し始めた

 「とにかく経験者」「とにかく日本語」一辺倒であった求人企業も、ここにきてさらなる事業拡大と安定運営を念頭に置き、即戦力であるキャリア採用とともに新卒採用を増加させている。

 専門分野をどの程度勉強してきたかを見たうえで、内定から入社までの間に(場合によっては入社後も)語学研修やビジネス研修を行う企業が増えている。新卒は自社の企業文化になじみやすく、吸収が早いことも魅力のようだ。

 採用面接についてもかつては、日本国内で一エンジニアにすぎなかった人物が突然中国駐在となり、日本でもほとんど経験したことのない採用業務を文字どおり手探りで行う(人事担当者は時々訪中してサポートするものの、中国の実情をほとんど理解しないまま採用活動を行うので思うほどの成果は出ない)などという事例が多く見られた。

 筆者がお手伝いをしている企業では、採用経験年数を経るにつれ「自社にはどのようなレベルの大学出身者が合うのか(単にレベルが高いだけでは使いこなせず、あくまでも自社に合った人物像の明確化が必要)」などのナレッジを蓄積している。これにより採用という入り口でのミスマッチは少なくなっているようだ。

採用におけるOSとアプリケーションの関係

 中国における面接のノウハウを蓄積し始めた日本企業であるが、筆者が人材の採用について企業にコンサルティングを行う際はよく「OSとアプリケーション」の例を引き合いに出す。

 OSとはご存じのとおりOperating System、基本ソフトウェアのことである。この場合、企業文化や職場環境、上司との相性や仕事の進め方など、専門性を発揮するうえでの土台・環境を意味する。アプリケーションはこの場合、技術や語学、資格などの専門性のことである。

 採用面接の際、このOSとアプリケーションのバランスを見ることが非常に大切である。アプリケーションである専門性がいかに優れていても、基本OSである企業文化や社内の人間との相性などの点で問題があると、人材は専門性を十分に発揮することはできない。それどころか企業にとっても人材にとっても不幸な結果となる。

 特に文化背景の異なる外国人ITエンジニアなどを採用する場合、採用側は「語学」や「技術」などアプリケーション部分に目がいきがちである。実際にその企業、もしくは配属先部署の雰囲気と合うかなど、活用イメージを十分に持たないまま採用可否を判断する傾向があるので注意が必要である。

人事担当者の面接・技術担当者の面接

 さらにいえば、人事担当者が面接する場合と技術担当者が面接する場合では、役割や面接のポイントが異なる。両者が一緒に面接に参加するのが理想的である。最近はこれを中国で実践している企業が増えている。これも離職率低下の要因だろう。

 人事担当者は一般に上述したOS部分を中心に、「社風に合うか」「学歴は社員全体とのバランスを壊さないか」「短・中期の事業計画に沿った人物像であるか」など、いわゆる人材の基礎部分を入念に検証していく。この人材がどのように伸びていくかという見方ともいえる。中国における特有の悩みとしては、「自社の中国事業が中期的にはまだ具体化しておらず、採用時に将来にわたる活用イメージが描ききれない」というものがあるようだ。

 一方、技術部門の担当者が面接に出てくる場合は、「大学での専攻、専門知識はどのようなものか」「具体的にどのような技術で部門に貢献できるか」など、自らの部署に配属されることをイメージして質問をすることが多い。いきおい、開発中の内容の一部分を切り出して質問をしてきたりするので、基礎をきっちりやっている人材にも的確に答えるのは難しいということもあるが。中国では日本のように「A大学・B教授の研究室ではCという分野に強い」という情報リソースはまだまだ少ないので、面接官が適切な質問をしづらいという悩みもある。

 もしも、皆さんが海外のITエンジニアの採用面接を行うような機会があれば、OSとアプリケーションの発想とバランス、そして人事担当者・技術担当者それぞれの視点を意識して臨まれたらいかがだろうか。

 明治時代の「お雇い外国人」ではないが、外部の能力を取り入れ、自分自身の付加価値を向上させるための入り口部分がまさにこの採用である。入り口での失敗は後々ボディーブローのように効いてくるので、できる限り他人任せにせずに自らが踏み込んでいった方がよいだろう。

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