国際競争時代に突入するITエンジニアに生き残り策はあるか?
日本人ITエンジニアはいなくなる?
第24回 中国とインド、進むIT業界の「相互乗り入れ」
小平達也
2007/8/21
■中国とインド、進むIT連携
TCS以外にもインフォシス、ウィプロ、サティアムなどのIndian Giantsといわれるインドの大手IT企業はすでに中国に進出しており、各社とも数年以内にその規模を数千名体制に拡大する計画のようだ。また、APTECやNIITといったインドIT教育機関も中国に進出している(もっともこれらのIT教育機関は中国に限らずアジア各地に進出している。ベトナムにはAPTECで教育を受けることが、ITエンジニアとしての「はくを付ける」と考える学生もいる)。
インドのIT企業が中国に進出する背景には「インド企業との連携を通じて管理手法と中国人エンジニアの技術レベルを高めたい」という中国企業と「中国の優秀人材の確保と低コストオペレーションの同時実現を目指したい」というインド企業の思惑が合致したということがあるのだろう。
上に挙げた例は、中国に進出するインドのIT企業や教育機関であるが、これと逆に中国のIT企業のインド進出も始まっており、バンガロールには通信キャリア向け機器販売サービスを行う華為、中興などがR&D(研究開発)拠点を展開している。この背景にはインドを生産拠点・販売拠点とするという考えがあるとともに、インド人ITエンジニアの技術力を研究開発に活用するという考えがあるようだ。
このようにすでに新興国――正直なところ、もはやこのいい方が正しいのかどうか、分かりかねるところであるのだが――のIT産業同士が交流を始め、実績を出し、このプロセスを通じて現地IT産業における「ビジネスのルール」が作られつつあるのではないだろうか。
このような中、今後、日本のIT企業はどれだけ自らのビジネス手法や価値を、グローバルビジネスの中で「ルール」として通用させることができるのか、あるいは「ルールに合わせる」ことはできるのだろうか。ひょっとすると、ルールを作ることも、守ることもできず、いままで行ってきた手法にしがみつき、引きこもってしまう「タコつぼ化」に陥ってはいないだろうか。
■各新興国をどう使いこなすか〜日本人ITエンジニアの立場から〜
今回ご紹介したように中国やインドの政府、IT企業は、巧みにほかの国の技術や人材を自らの成長に取り入れようとしている。人口が多く、これからも成長が続くといわれている国でさえである。
一方、日本では今後、長期的な人口減少が進み、国内市場も縮小していくわけだが、自動車や家電といった一部の業界を除いて、大部分の企業はまだまだ一定の規模がある日本市場に依存しすぎているかもしれない。しかし成長を前提とする経済で、縮小傾向にある国内市場のみに活路を見いだすモデルはそもそもその成立が難しい。日本企業にはグローバルに通用する日本人ITエンジニアを育成し、グローバルマーケットを攻略していくというスタンスが必要だ。
「そうはいっても、うちの会社に変化なんて。まだまだなんですよ。上司も先輩もサラリーマンエンジニアですし」とあなたはいうかもしれない。確かにいまはそうかもしれないが、ITの普及を思い出してほしい。変化は突然、それもすごいスピードでやってくる。そしてそれはすごい圧力となって環境変化に対応できない対象には非情なまでに「退出」を促す。
会社に変化が起こること、これを待つことにエネルギーを費やす必要はない。むしろ変化の先取りにエネルギーを費やすべきだ。オフショア開発に際し、現地のITエンジニアとのチャットでのやりとりでもいいし、経験者採用で入ってきた外国人社員とのコミュニケーションでも構わない。夏休み期間限定で会社にきている留学生インターンにあなたが普段行っている実務の一部を振ってやらせてみるのもいいだろうし、新卒で入ってきた帰国子女のITエンジニアの行動パターンを観察してみるのもよいかもしれない。大切なのは普段から自分と異なる考えや仕事の進め方に触れ、放っておいたら陳腐化しがちな仕事のレベルを引っ張り上げ、「上ぶれ」を起こさせるように意識することだ。
同じ顔、同じ言葉で以心伝心が特技の日本人は「低レベル層を中間レベル層に引き上げ、均質化させる」ことには長けているが、環境変化の激しい異質のマーケットでは「トレンドを作り出すことのできるハイレベル層をいかに作るか」も非常に重要だ。
変化は突然やってくるが、変化への対応は日々できる。日ごろの業務の中でも皆さん自身がITエンジニアとして「上ぶれ」するためのあらゆる機会を意識されてはいかがだろうか。
今回のインデックス |
変化する海外ビジネスと成長意欲の高いインドと中国 |
連携を強める新興国とどう向き合うか |
筆者プロフィール |
小平達也(こだいらたつや) パソナテック 海外事業部 部長 パソナテックコンサルティング(大連)有限公司 董事 早稲田大学アジア太平洋研究センター「日中ビジネス推進フォーラム」講師 商社にて中国を中心としたサプライチェーンマネジメントの構築、運営に従事。現職では「人材サービスを通じて企業のグローバル展開を支援する」というミッションの下、大手日系グローバル企業の海外における人材採用と育成を支援している。外務省「『人の移動』に関するシンポジウム」で経済界の意見を発表のほか、学会などでの講演、執筆多数。 |
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