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第25回 「戦わずして勝つ」。戦略のプロに学ぶ自分戦略

小平達也
2007/10/22

戦略11原則と「時間」〜いつまでに・何を〜

奥出氏 「戦略には11原則というものがあります。主要原則として6つ、目的・創造・主動・集中・機動・奇襲が挙げられます。また柔軟・統一・簡明・保全・経済という、主要原則を補完する補完原則もあります」

小平 「キャリア形成においてもそのままキーワードになりそうなものがありますね。私は特に主動=イニシアチブの重要性に注目します。どこにいようが、誰であろうが、『人生を生き抜くことそのもの』を始まりとする自分戦略においては、『自分で、自分のキャリアを開拓していく』という主体的な姿勢が絶対に必要なんです。『いつか、誰かがやってくれる、いってくれる』という受動的な態度では、それこそ戦わずして負けているということになってしまいますよね」

奥出氏 「いま、小平さんは『いつか』といいましたが、実はこの『時間』も非常に大切な点です。私が部下や教え子に対して繰り返しいっていることの中に、『いつまでに、何をするのか』ということがあります。ビジネスパーソンの方々を見ていると、この『いつまでに』が欠落していることが多いようです。

 私は長年飛行機のパイロットをしていましたが、そのときいつも気にしていたのは『いつまで燃料がもつか』です。燃料が切れては飛行機は墜落し、自分も死んでしまいますから。人生の時間は誰であっても『限定』されていて、人生もビジネスも『限定時間の中での決断と実行の連続』です。ITエンジニアも自己の人生の飛行パイロット・機長ですね。目的飛行場に、限定された時間内あるいは最も効果的なタイミングに到着できる『そのとき』を『決断』することが肝要です。

 『いつ、何を成すか』は、『戦略決断の基本的要件』ともいわれています」

小平 「確かに、ビジネスシーンでかつては『ヒト・モノ・カネ』が経営の3大要素で、最近では『情報』もプラスされていますが、ご指摘の『時間』は見落とされがちになっている傾向はありますね。また、時間には『いつまでに』という点と『どのタイミングで』と2つの意味があると思います。実はキャリア形成や転職などにおいても、『いつまでに経験を積み、知識を吸収するか』という点と『どのタイミングで次のステージに挑戦するか』 という見極めは非常に重要です」

相手の立場を知り、徹底的に考え抜く。そして知的武装を

小平 「孫子の兵法に、

   彼を知り己を知れば百戦して危うからず
   彼を知らずして己を知れば一戦一敗す
   彼を知らずして己を知らざれば戦うごとに必ず危うし

という一節があります。これは文字どおり、相手と自分のことをよく知らないと、何をやってもうまくいかないという意味ですが、奥出先生の教えていらっしゃるマップマヌーバー(図上戦略演習法)の興味深いところは、自分でなく、相手(敵方)の立場にもなって徹底的に考え抜くことをしているところです。『自分が相手だったら、どう自分を攻撃するか』を徹底的に考え抜いて、その後でようやく自分の行動を考え始めますよね。すなわち彼我の『俯瞰(ふかん)的な大局観』が重要で、この点も示唆に富んでいると思います」

マップマヌーバー(図上戦略演習法)は防衛庁高級幹部研修だけでなく、企業の幹部研修にも導入されている

奥出氏 「私は軍事戦略のプロですが、誤解のないように付け加えておきますと、戦うことだけが戦略ではありません。戦略には戦いの回避も含まれるのです。いま出た孫子の兵法に『戦わずして勝つ』という有名な言葉がありますが、目的達成が戦略の本質であり、戦いは手段にすぎません。相手とドンパチやるような戦闘は起こさず・かつ起こさせず、国益と国民を守るための『知的武装』をすることが必要なのです。それは『至高の戦略』といっても過言ではないでしょう」


 以上、戦略のプロのコメントは、ITのプロにとっていかがだっただろうか。

 奥出氏の発言は、それぞれ示唆に富むものであった。

「時間(いつまでに・何を成すのか)」<戦略決断の基本的要件>
「相手の立場になる」<「なりきる」俯瞰的大局観>
「戦わずして勝つ」<至高の戦略>

 これらはそのまま、キャリア形成や日々の業務に役立てられるだろう。

 特に「相手の立場になる」、これはオフショア開発や日本にいる外国人社員など、自分と違う立場の相手と一緒に仕事をする・あるいは競争する際に非常に重要なポイントになる。

 外国人エンジニアと競争・協業する日本人エンジニアの弱点としてよく挙げられるものに、「英語ができない」「自己主張ができない」などがある。このコンプレックスの裏返しのように、「私が私が!」と、外国人エンジニアの自己主張を表面的にまねようとする日本人もたまに見受けられる。

 もちろん英語や自己主張ができるに越したことはないだろう。しかしその前に、徹底的に競争・協業相手の立場や強み・弱みを知ること、相手ならどんな行動に出るのかを考えることが非常に重要になる。自分のキャリアを大切にすればするほど、相手に対する理解が必要となってくるのである。

 われわれは変化の激しい時代に生きており、競争相手も非常に見えづらい。そんな中、本連載が少しでも皆さんのキャリア形成の参考になれば幸いである。

 

今回のインデックス
 「戦わずして勝つ」。戦略のプロに学ぶ自分戦略(ITエンジニアの戦略・戦術)
「戦わずして勝つ」。戦略のプロに学ぶ自分戦略(キャリア形成の戦略)

筆者プロフィール
小平達也(こだいらたつや)
パソナテック 海外事業部 部長
パソナテックコンサルティング(大連)有限公司 董事
早稲田大学アジア太平洋研究センター「日中ビジネス推進フォーラム」講師

商社にて中国を中心としたサプライチェーンマネジメントの構築、運営に従事。現職では「人材サービスを通じて企業のグローバル展開を支援する」というミッションの下、大手日系グローバル企業の海外における人材採用と育成を支援している。外務省「『人の移動』に関するシンポジウム」で経済界の意見を発表のほか、学会などでの講演、執筆多数。

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