自分戦略研究室 Book Review
自分戦略を考えるヒントにしたい6冊
藤村厚夫、小林教至、原田明
2003/3/19
次に何の言語を学ぶべきか。何の技術を習得した方がいいのか。技術進歩の速さのため、ついそのような考え方になっていないだろうか。そんなときには落ち着いて考えてみよう。「あなたは、何を目的とし、何をしたいのだろうか」、または「あなたは、どうありたいのだろうか」と。
ある意味、そんな哲学的な問いが、@IT自分戦略研究所の掲げる「自分戦略」だ。それを考え抜いた後では、将来に対してはるかに見通しはよくなり、手段(=どんなことを学び、習得すべきか)が分かってくるはずだ。しかし、自分戦略はどうやって見つければいいのだろうか。
はっきりいえば、それは各自で探すしかない。しかし、アットマーク・アイティの3人が、自分戦略のヒントになるとそれぞれが感じた本を紹介しよう。そこからスタートしてみてはいかがだろうか。
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あなたが何を求めているか、からスタートしよう |
あなたのパラシュートは何色? 職探しとキャリア・チェンジのための最強実践マニュアル リチャード・N・ボウルズ著、花田知恵訳、リクルート ワークス研究所監修 翔泳社 2002年9月 ISBN4-7981-0237-7 1600円(税別) |
米国のキャリア・カウンセラーが書いたベストセラーの転職マニュアルの邦訳が本書だ。
「最強実践マニュアル」というコピーを見ると、どんな具体的な方法が書かれているのか興味がわくことだろう。あらかじめ断っておくと、大判の本書に盛られた情報がすべて転職のための「実践マニュアル」というわけではない。むしろ本書は、転職や起業を意識し始めた読者の気持ちを限りなくポジティブにしてくれる人生論である。その意味で、“自分戦略本”の要件を備えた書物だ。
例えば、こんな個所がある。「大切なのは、いまあなたが『従来の職探し』ではなく『人生を変える職探し』をすることになった、ということだ。人生を変える職探しはまず、あなたを中心に、あなたが何を求めているか、からスタートする」(「夢の仕事を探す」より)。そう、そうなのだ。本書で詳細に解説されているフラワー・エクササイズをはじめとするテクニックの背景には、「人生を変えよう」というポジティブな意欲を導き出す方向がしるされている。
最後に大急ぎで補足すると、本書では、例えば面接者側の心理が細かく分析されていたりと、転職実践フェイズに入った読者にも役立つノウハウが豊富にある。人生を変えることにも、目先の面接を乗り切るためにも、役立つマニュアルと推奨できる。
新しいワークスタイルを模索する読者に |
フリーエージェント社会の到来「雇われない生き方」は何を変えるのか ダニエル・ピンク著、池村千秋訳 ダイヤモンド社 2002年4月 ISBN4-478-19044-5 2200円(税別) |
米国社会を例に取り、「自宅でひとりで働き、組織の庇護を受けることなく自分の知恵だけを頼りに……ビジネスを築き上げた」人々についての「白書」というのが、本書の端的な形容となるだろう。「フリーエージェント」は、フリーランス、臨時社員、そしてミニ起業家の総称。驚くことに米国では、労働者の4人に1人がこれに含まれるのだという。
他方、わが国でも“終身雇用”神話が大きく揺らいでいることは、あらためて説く必要はないだろう。ましてやあなたや私のようにITにかかわる者においては、なおさらだ。
ところが、目先の「自己防衛」のノウハウ本は多いものの、雇用関係の揺らぎがもたらすインパクトや展望を肯定的に読み解く書物は存外少ない。要するに、いま最も想像力が問われるときに、そのような書物が不足している。本書はその役割を担う。それが分かる個所を例示しよう――。雇用による生活保障の仕組みが崩れたことに対し、労働者は、「仕事を分散させることによって安全の保障を得ようと」し、同時に「保障」と対に成立した「忠誠心」も変容した。「上司や組織に対するタテの忠誠心に代わって、ヨコの忠誠心が生まれた」という。チームや(元)同僚、顧客や業界などに対するもので、それはより双方向なものだという。
楽観論が支配する本書に違和感を覚える方もいるだろう。しかし、新しいワークスタイルを模索する読者にとっては、示唆に富んだバイブル足り得るはずだ。自分戦略のための1冊としてお薦めだ。
自分にとっての幸せを定義しよう |
しあわせを感じる「技術」 しあわせ研究プロジェクト(アサヒビール+博報堂)編 東洋経済新報社 2002年10月 ISBN4-492-55454-8 1400円(税別) |
明石家さんまがダミ声で歌っていたCM(「ぽん酢しょうゆ」)を覚えていらっしゃるだろうか。
アットマーク・アイティに入社して2年半。その間ずっとITエキスパートの自分戦略について調べ、考え、事業化する、という仕事をしてきた。そんな仕事の中、ここ最近ふと思い浮かべるのがこのCMのフレーズだ。自分にとって幸せとは何か。自分戦略を構築するに当たっての、初めの一歩はここから考えることだと思う。
本書は、アサヒビール生活文化研究所と広告会社の博報堂が幸せについて研究した集大成で、看護婦、格闘家、学者、フリーター、投資家などさまざまな分野の14人の幸せについてのインタビュー、2000名の調査結果、識者インタビューから構成されている。
本書では、冒頭のCMのように「幸せとは○○である」と決め付けていない。ただタイトルにもなっているように、幸せを感じるには技術がいる、としている。何かを得ることによって感じる幸せ、何かを達成して感じるしあわせ、家族や自然など日常生活で感じる幸せ、など。
自分にとっての幸せを定義し、それを感じるために仕事はどうあればよいか、さらにその仕事をするには何が必要で、どんなアクションをすべきか。自分戦略とは、幸せな人生を送るための、作戦だと思っている。
仕事に何を求めるかを考えるきっかけに |
シンプル人生の経済設計 森永卓郎著 中央公論新社 2002年11月 ISBN4-12-150068-7 700円(税別) |
「人生の三大不良債権は“専業主婦”“子供”“マイホーム”」だと、筆者は本書の中で主張する。過激な意見だが、その論旨は明快だ。
経済のグローバル化が進行し、日本も欧米並みの超階級社会になる。そこでは1%のスーパーエリートと、99%のそのほか大勢に分別される。そのほか大勢と判断されては、もはや出世の望みはなく、給与も高望みはままならない。ならば経済的負担を極力抑え、その分仕事以外のことで人生を楽しもう。その際に負担となるのが、“人生の三大不良債権”というわけだ。
今年の春闘は、経営側の「雇用確保が先決」という発言の前に、ベアゼロ、定昇ゼロとなった企業も多い。IT業界においても、ハードウェアはもちろん、ソフトウェア開発でさえ、海外にシフトしつつあり、確実にITエキスパートの必要人員は逓減していく。大規模開発案件の減少、パッケージソフトの普及がその流れに拍車をかける。「徹夜続きで納品していたころがあったなぁ」と、いまを懐かしく思い出すような時代が来るかもしれない。
だからといって、仕事はほどほどに人生を楽しもう、という筆者の主張は極論だろうが、仕事に何を求めるかをじっくり考えるきっかけを与えてくれる。先に紹介した書籍と同様、本書の根底にあるテーマも「ところで、どういう人生を送りたいの?」だ。この質問にさえ明確に回答できれば、実行の可能性はさておき、自分戦略を立てることは難しくない。
弱みと折り合いをつけ、強みを補強せよ |
さあ、才能(じぶん)に目覚めよう マーカス・バッキンガム、ドナルド・O・クリフトン著、田口俊樹訳 日本経済新聞社 2001年11月 ISBN4-532-14947-9 1600円(税別) |
人生は有限だ。日々の業務に追われる中、自己投資に費やす時間にも限りがある。だからこそ、自分戦略の立案も効率よく行いたいもの。そこで格好の自分戦略本として推薦したいのが本書だ。
著者は米国の調査会社で30年にわたって、ビジネス、スポーツ、芸術など各分野の成功者、さらには現役のビジネスマン200万人へのインタビューにかかわってきた。その経験から語られる言葉には説得力もある。人生で成功をつかむ唯一の方法は、「自分の強みを見極め、実践と学習を通じてその強みを補強し、発揮できる仕事を見いだすこと」と断言する。
だからといって、「弱みを切り捨てろ!」というのではない。弱みとうまく折り合いをつけ、強みを補強することが大切というのだ。ビル・ゲイツ、タイガー・ウッズ、コリン・パウエル米国国務長官など、「強みを軸に名をはせた」著名人の成功例も豊富に盛り込まれている。
さらに読み通すと、大脳生理学の観点から、強みは「才能」「知識」「技術」の3つを組み合わすことで最強になると説く。ここでいう才能とは、繰り返し現れる思考、感情および行動パターンのこと。好奇心おう盛ならそれも才能。愛きょうがあるのも才能なら根気強いのも才能だ。知識と技術は後付けで構わないが、才能は1人ひとり独自のもの。「自分のどこに才能があるのか」――これを見極めねば成功はおぼつかないというのだ。
本書のカバー裏には個別の「IDナンバー」が付いており、Webサイト上で「自分の強み」をプロファイリングするテストを受けられる。
自分戦略を立てるには、まずは自分の強みを知ること。その大切さを気付かせてくれる1冊だ。
新任マネージャにオススメの1冊 |
グレートゲーム・オブ・ビジネス 社員の能力をフルに引き出す最強のマネジメント ジャック・スタック著、楡井浩一訳 徳間書店 2002年6月 ISBN4-19-861533-0 1800円(税別) |
エンジニアが自分戦略の必要性を強く意識するのは、30代でマネージャ職に就き始めるころではないだろうか。それまでは技術現場の最前線で一プレイヤーとして頑張ってきたものの、いきなり部下を管理する立場になると戸惑う人も多いはず。
そんな新任マネージャにオススメの1冊がある。
著者は米国ミズーリ州の片田舎にある修理工場を12人の仲間とともに買い取り、倒産寸前の会社を8年後には売上高4倍、株式評価額180倍の会社へと急成長させた人物。しかも1人の社員を解雇することもなく……。そこで生み出された経営手法は、やがて全米で注目の的になったという。
とにかく彼が語るマネジメントの原理は至って簡単。会社経営を「グレートゲーム」と名付け、ゲームに対するルールを作り、それをメンバーに徹底させることに尽きる。
チームをマネジメントするうえでの心構えについても多くの分量を割いている。著者が試行錯誤を繰り返したうえで、語られるマネジメント手法はとても新鮮、かつ刺激に満ちている。例えば、「管理職の仕事は部下の意欲をかきたて、部下の自負や誇りを育てること」「だれもが楽しんで働くことが最大の成果をもたらす」といった具合だ。
さらに「メンバーの多くがうっ屈を抱えるような負の感情はチーム自体を蝕んでいく」「与えられた仕事をこなすだけだと部下は屍(しかばね)になる」という痛烈な批判も提示されている。
マネージャの責務とは何か。メンバーは何を望んでいるのか。そしてチームモチベーションを上げる秘けつとは。全編を通じてマネージャが陥りがちなミス、それに対処するためのヒントが隠されている。
マネージャとして、新たなキャリアを歩み始めたエンジニアに目を通してほしい本だ。
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