銀行に預けてあるお金を引き出すとき、銀行の店舗に行くことと、コンビニのATM(Automated Teller Machine 現金自動預払機)を利用することと、どちらが多いだろうか? 手数料を払わなければならないものの、自宅からの近さや利用できる時間帯などから、コンビニのATMでお金を引き出すことも多いのではないだろうか?
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コンビニのATMでお金が引き出せるのは、コンビニが銀行業務を行っているからではない。コンビニに設置されているATMが、銀行各行の情報システムとネットワークでつながっているから、お金を引き出せるのである。
コンビニのATMは、まずキャッシュカードから、利用者が口座を開設している銀行、支店、口座番号などを認識する。次に、この情報を基に、利用者の口座がある銀行の情報システムとの間でのデータ通信を可能にしてくれる情報システムやネットワークに接続する。これによりコンビニのATMは、あたかも銀行の店舗に設置してあるATMと同じようにお金の引き出しや振込みなどを可能にしてくれるのである(図2)。
図2 コンビニATMを実現する情報システム群 |
一人暮らしをしている人の中には、電話代や電気代などの公共料金が生活費のけっこうな割合を占めている人もいるのではないだろうか? このような料金を誤って過大に請求されると死活問題にもなりかねない。そうならないように、電話会社や電力会社は情報システムによって正確な料金の計算と請求を実現している。
電話であれば交換機、電気であれば検針メーターからの情報を基に、料金の根拠となる通話時間や利用電力量を記録、集計する。次に、「3分 x.x円」や「1kWh xx.x円」といった料金メニュー、「通話相手による割引」や「時間帯割引」といった割引サービスに基づいて料金を計算する。最終的に、確定した金額を利用者へ請求し、入金結果を記録する(図3)。
図3 電話代や電気代の計算・請求にかかわる情報システム |
電話会社や電力会社は、利用者へのサービスとして、さまざまな料金メニューや支払い方法を準備している。複雑多岐にわたる条件に基づいた料金や請求額の計算は、もはや情報システムなしには実施できないのである。
例えば飛行機のチケットを取るとき、旅行代理店に足を運ぶのではなく、インターネットを利用する人も多いのではないか。インターネットでのチケット予約・販売という一連のサービスは、利用者には見えないところで、多くの情報システムが連携することによって初めて実現されている。
チケットを取るには、まず、希望する路線・時間帯の価格と空席状況を確認する。そして希望の便を予約登録する。支払いの方法を選択し、場合によってはインターネット上で支払いまで済ませてしまう。その結果に基づいて、マイレージポイントが(後日)付与される。頻繁に飛行機を利用する人には、空港で特別なサービスが提供されたりもする。これらは、それぞれの機能を担う情報システムが相互に整合性をもって連携することによって実現されているのである(図4)。
図4 インターネットでの航空券予約に関わる情報システム |
チケット予約・販売を単なる1回の取引処理として済ますのではなく、マイレージポイントの蓄積といった形で、継続的にお客さまとの取引を管理しサービスに反映するという考え方が一般的になっている。そのため、お客さまに提供するサービスの“処理“を実現する情報システムと、お客さまの情報を蓄積・管理する情報システムとの連携が重要になっている。
テレビ番組の予約録画操作や、エアコンのタイマー操作、デジカメに保存した画像の表示・消去など、工業製品に組み込まれたソフトウェアが非常に高度な機能を実現している。しかし、そもそもそれら製品を設計・製造する段階で高度な情報システムが利用されていることを理解してほしい。
製品を設計したり、工場で製造するための計画を立てたり、部品を購入する計画を立てたりするために、製造業で利用されている情報システムを部品表(BOM:Bills of Material)という。これは、ある製品を構成する部品それぞれについて、型番、品名、必要数量、図面、コスト、納期などのさまざまな情報を一元的に管理する巨大なデータベースである(図5)。例えば自動車は一車種当たり約2万点の部品で構成されているのである。
図5 部品表のイメージ |
部品表の情報を活用することで、より良い製品のより効率的な製品設計・開発が目指され、工場でのより安定的・効率的な生産が計画されるのである。
さて、これまで紹介してきたような情報システムは、どのように発想され、作られているのだろうか? 情報システムは、ユーザー企業内の業務上の必要性から作られるものと、情報技術(IT)の革新に伴い、新たな業務を支える“基盤“として作られるものに大きく分けられる。ソフトウェア業界はこの双方において、ユーザー企業に“価値“を提供できる存在でなくてはならない。
基本的に、情報システムはユーザー企業がその業務を“効率化”することを大きな目的として作られてきた。これまで人間が行ってきた業務をコンピュータに代替させるという意味で、古くは“システム化=自動化”であった。
多くの企業では、すでに情報システムが整備され、情報システムの目的が業務の“自動化”から“高度化”に変わってきている。“業務をもっと正確に行いたい”、“業務をもっとスピードアップしたい”といったニーズである。いずれにしても、情報システムはユーザー企業の業務ニーズを基点として企画され、作られることが多い(ユーザー発の情報システム化)。今回紹介した、コンビニの事例はその典型である。
一方で、情報技術(IT)の発展が、これまでにない業務のやり方やこれまでにないサービスを可能にしてきた側面もある。一昔前は、大企業であっても、社員一人に一台パソコンが配布されているわけではなかった。インターネットの普及はここ10数年の出来事である。
今回紹介した飛行機のチケット予約の例は、“インターネットの普及”というITの環境変化が基点となって企画され、実現された情報システムである(IT発の情報システム化)。
ユーザー発の情報システム化の場合、ソフトウェア業界は、ユーザー企業の情報システムに対するニーズや期待を正確に理解すること、時には“汲み取る”ことを通して、情報システムを実現することを期待されている。
IT発の情報システム化の場合、ソフトウェア業界は、新たなITのすばらしさをユーザー企業に伝えることはもちろん、新たなITがユーザー企業の経営・事業・業務にどう役立つのか、ユーザー企業にとって“何が嬉しいのか“をしっかりと伝えること(=提案)を通して、情報システムを実現することを期待されている。
ユーザー発であってもIT発であっても、ソフトウェア業界に期待される役割、ソフトウェア業界が提供すべき価値は、ユーザーとITを繋ぐことを通して実現されるものである。
これからソフトウェア業界でのキャリア形成を志す諸氏には、この業界に期待されていること、この業界の価値は、決してITに関する専門的な技術力のみではなく、むしろ、ユーザーとITを繋ぐ能力、お客さまであるユーザー企業と“共に在る”ことだと理解して欲しい。
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